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2 海の国の聖人候補
316 味噌で町おこし計画開始
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316
私がマホロの別荘へ戻ると、エジンさんから、これから建てる味噌蔵の設計についての詳細な計画書が届いていた。
エジンさん……この人は、分かりやすく言えば〝万能の天才〟だ。
魔力がほぼない点は沿海州の一般的な人物像だが、教育らしい教育を受けていないにもかかわらず、独学で手に入れたてきたあらゆる知識を吸収して、更に拡張できてしまう。
沿海州の言葉だけでなく帝国の言葉も話せるし、味噌蔵も設計から施工まで全て取り仕切ることができる。
そして、完全記憶能力のおかげで、豆や米など作物の生産状況についても、過去から現在まで全て記憶されている。
土地や人についての情報も同様で、特にこの周辺に関してなら、全てのデータが身の内にあるのだ。
但し興味のないことには全くこの能力は反応しないらしく、家事や生活に必要なことは最低限度しかできない。服がほつれても気にせず、ひどい縫い目で直したりするので、見かねた従業員のおばさまたちが時々縫い物や掃除もしてあげているそうだ。
(なんだか、私の知り合いにはそんな人が多い気が……)
私は、これからの計画を立てるため、エジン先生に簡単なデータの分析法とグラフ化についての知識を与えた。
それにより、彼の分析力は飛躍的に向上している様子で、同時に渡しておいた紙とペンを使って私に見せるための膨大な資料が、戻った時には出来上がっていた。
その彼の試算でも、豆と米については、現在よりかなり作付面積を増やす必要があるとされていた。
土地がないわけではないのだが、確かにグラフや地図を見る限り、作付けが放棄されたままの土地も多い。残念ながら、栄養分を多く必要とする売りやすい作物ができる〝良い土壌〟ではないため、人々の関心は危険を伴う森での狩りや採取の方に多く向けられているのだ。
第一弾は、さすがに今から作っていては間に合わないので、問屋さんに頼んであちこちから買い付けてもらったが、私としては、農地はあるのだし、できる限り地産地消を目指していきたい。
となれば、いつもの私なら、ここから町の人たちとコンタクトを取り交渉ごとをするのだが、そこはエジン先生、仕事が早い。既にそれについての算段も概ね完了とのこと。まったくもって頼りになる人だ。
このあたりに住むすべての人について基本情報が頭にあるエジンさんは、交渉ごとも得意分野。
なにせ、彼の研究所に働きにきていた話好きの農家の女性たちから様々な情報を蓄積し、近隣の力関係や対人関係は正確に把握している上、誠実でしっかり給金を払ってくれる雇い主を信頼している女性たちが味方だ。
根回しすらほぼいらずに、彼の研究所周辺の農地の豆とコメへの転換に村人たちは応じ、既に農地の準備は始まっているという。
(エジン先生、スゴすぎ!)
農家にとっても、一定の値段で確実に買い取ってくれる取引先が近隣にあることは望ましいし、味噌蔵が建てば、そこにまた新たな雇用も生まれる。
その上、危険な森に入る必要もない。
この構想がうまくいけば、味噌の町として地域全体の景気が良くなるはずだ。
建設に関しても、資金の算段がついているため、最初から大規模に行ける。
これは、今とても重要だ。
のんびり全体の成長を待たずに、ここまで慌ただしく計画を急ぐのには、もうひとつ大きな理由がある。
おじさまから聞いた話だが、タガローサがもし仕掛けてくるとすれば〝金〟と〝圧力〟を使ってくる可能性が高いのだ。
スパイは言うに及ばず、賄賂、買収、脅し、権力者を使った嫌がらせ、等々……元々軽く見られている沿海州に対してなら、更に高圧的なこともしかねないそうだ。
それに対抗するためにも、こちらの体制を一刻も早く盤石に整えてしまいたい。
それが妨害行為への一番の対抗策になる。
この町で働くことに価値が見出せるようになり、町が豊かになれば、この土地の人に対しての買収や取り込みは難しくなる。仮に大きな誘惑があった場合にも、ここに住むことに魅力があれば、長くこの土地に暮らす人々が、そのリスクを負ってまで敵に加担するとは到底思えない。
さらに、味噌蔵の成功で得られる大きな収益により、多額の税収が得られるようになれば、地元の有力者そして統治者も、こちらを大事にせざるを得ない。今は、どこも税収を確保することに必死のこの国では、大きな外貨を稼げるビジネスに対して、支援はしても妙な圧力などかけられないだろう。
「ということなので、この町全体を味噌と、そして、今後の研究次第ではありますが、ゆくゆくは醤油の町として再生させたいと思います。
この町は、マホロとは違う方が統治されているのよね。
話は通すべきかしら?」
私の問いにエジン先生は複雑な顔をしながら話してくれた。
どうやらこの町は、その領地の端っこのそのまた飛び地のようなところで、危険な森と貧弱な農地以外なく、税収も全く期待されていないのだそうだ。産業がないので、農家は森からの採取品と育てた作物の一部を物納している。エジンさんも味噌を物納したいところだが、まだできてもいないので、仕方なく少ない貯蓄から最低限の税金を納めているそうだ。
「この辺には、税収を決める監査人も数年に一度しかこない。去年来てたから、来年はまず来ないよ。
仕事が軌道に乗ってからびっくりするんじゃないかな。
ここの御領主様は、どちらにしろ納めるものを納めれば、何も言ってはこない人だしね」
この地の中央、領主様の住む地域で近年鉱山跡にダンジョンが現れたそうで、今はそれを利用した中央の立て直しに目が向いているため、こんな辺境には誰も目は向けないだろうと、エジンさんの笑う。
「確かに、いいダンジョンが現れれば、利益は半端ないですものね。分かりました。じゃ、とりあえず、御領主様とは事業が軌道に乗ってからの交渉ってことにしましょう」
(さて、次は……)
私がマホロの別荘へ戻ると、エジンさんから、これから建てる味噌蔵の設計についての詳細な計画書が届いていた。
エジンさん……この人は、分かりやすく言えば〝万能の天才〟だ。
魔力がほぼない点は沿海州の一般的な人物像だが、教育らしい教育を受けていないにもかかわらず、独学で手に入れたてきたあらゆる知識を吸収して、更に拡張できてしまう。
沿海州の言葉だけでなく帝国の言葉も話せるし、味噌蔵も設計から施工まで全て取り仕切ることができる。
そして、完全記憶能力のおかげで、豆や米など作物の生産状況についても、過去から現在まで全て記憶されている。
土地や人についての情報も同様で、特にこの周辺に関してなら、全てのデータが身の内にあるのだ。
但し興味のないことには全くこの能力は反応しないらしく、家事や生活に必要なことは最低限度しかできない。服がほつれても気にせず、ひどい縫い目で直したりするので、見かねた従業員のおばさまたちが時々縫い物や掃除もしてあげているそうだ。
(なんだか、私の知り合いにはそんな人が多い気が……)
私は、これからの計画を立てるため、エジン先生に簡単なデータの分析法とグラフ化についての知識を与えた。
それにより、彼の分析力は飛躍的に向上している様子で、同時に渡しておいた紙とペンを使って私に見せるための膨大な資料が、戻った時には出来上がっていた。
その彼の試算でも、豆と米については、現在よりかなり作付面積を増やす必要があるとされていた。
土地がないわけではないのだが、確かにグラフや地図を見る限り、作付けが放棄されたままの土地も多い。残念ながら、栄養分を多く必要とする売りやすい作物ができる〝良い土壌〟ではないため、人々の関心は危険を伴う森での狩りや採取の方に多く向けられているのだ。
第一弾は、さすがに今から作っていては間に合わないので、問屋さんに頼んであちこちから買い付けてもらったが、私としては、農地はあるのだし、できる限り地産地消を目指していきたい。
となれば、いつもの私なら、ここから町の人たちとコンタクトを取り交渉ごとをするのだが、そこはエジン先生、仕事が早い。既にそれについての算段も概ね完了とのこと。まったくもって頼りになる人だ。
このあたりに住むすべての人について基本情報が頭にあるエジンさんは、交渉ごとも得意分野。
なにせ、彼の研究所に働きにきていた話好きの農家の女性たちから様々な情報を蓄積し、近隣の力関係や対人関係は正確に把握している上、誠実でしっかり給金を払ってくれる雇い主を信頼している女性たちが味方だ。
根回しすらほぼいらずに、彼の研究所周辺の農地の豆とコメへの転換に村人たちは応じ、既に農地の準備は始まっているという。
(エジン先生、スゴすぎ!)
農家にとっても、一定の値段で確実に買い取ってくれる取引先が近隣にあることは望ましいし、味噌蔵が建てば、そこにまた新たな雇用も生まれる。
その上、危険な森に入る必要もない。
この構想がうまくいけば、味噌の町として地域全体の景気が良くなるはずだ。
建設に関しても、資金の算段がついているため、最初から大規模に行ける。
これは、今とても重要だ。
のんびり全体の成長を待たずに、ここまで慌ただしく計画を急ぐのには、もうひとつ大きな理由がある。
おじさまから聞いた話だが、タガローサがもし仕掛けてくるとすれば〝金〟と〝圧力〟を使ってくる可能性が高いのだ。
スパイは言うに及ばず、賄賂、買収、脅し、権力者を使った嫌がらせ、等々……元々軽く見られている沿海州に対してなら、更に高圧的なこともしかねないそうだ。
それに対抗するためにも、こちらの体制を一刻も早く盤石に整えてしまいたい。
それが妨害行為への一番の対抗策になる。
この町で働くことに価値が見出せるようになり、町が豊かになれば、この土地の人に対しての買収や取り込みは難しくなる。仮に大きな誘惑があった場合にも、ここに住むことに魅力があれば、長くこの土地に暮らす人々が、そのリスクを負ってまで敵に加担するとは到底思えない。
さらに、味噌蔵の成功で得られる大きな収益により、多額の税収が得られるようになれば、地元の有力者そして統治者も、こちらを大事にせざるを得ない。今は、どこも税収を確保することに必死のこの国では、大きな外貨を稼げるビジネスに対して、支援はしても妙な圧力などかけられないだろう。
「ということなので、この町全体を味噌と、そして、今後の研究次第ではありますが、ゆくゆくは醤油の町として再生させたいと思います。
この町は、マホロとは違う方が統治されているのよね。
話は通すべきかしら?」
私の問いにエジン先生は複雑な顔をしながら話してくれた。
どうやらこの町は、その領地の端っこのそのまた飛び地のようなところで、危険な森と貧弱な農地以外なく、税収も全く期待されていないのだそうだ。産業がないので、農家は森からの採取品と育てた作物の一部を物納している。エジンさんも味噌を物納したいところだが、まだできてもいないので、仕方なく少ない貯蓄から最低限の税金を納めているそうだ。
「この辺には、税収を決める監査人も数年に一度しかこない。去年来てたから、来年はまず来ないよ。
仕事が軌道に乗ってからびっくりするんじゃないかな。
ここの御領主様は、どちらにしろ納めるものを納めれば、何も言ってはこない人だしね」
この地の中央、領主様の住む地域で近年鉱山跡にダンジョンが現れたそうで、今はそれを利用した中央の立て直しに目が向いているため、こんな辺境には誰も目は向けないだろうと、エジンさんの笑う。
「確かに、いいダンジョンが現れれば、利益は半端ないですものね。分かりました。じゃ、とりあえず、御領主様とは事業が軌道に乗ってからの交渉ってことにしましょう」
(さて、次は……)
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