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2 海の国の聖人候補
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エスライ・タガローサはパレスの商人ギルド統括幹事にして、貴族や皇族との太いパイプも持つ〝帝国の代理人〟
パレスにあっては(大貴族たちを除けばだが)最も金も権力も持っている男だ。
そのパレスの首領が、如何なるコネを使ったのか知らないが〝パレスの老舗菓子店の権威を守ってもらいたい〟という嘆願のゴリ押しに成功したらしい。つい先日、菓子店の新規出店が噂されるサイデム商会に〝甘美な箱〟亭と被る商品を出すな、というあからさまな圧力をかけてきたのだ。
〝既存の老舗で販売されている菓子の権利を守る〟という大層なお題目で、お役所からご立派な書面が届けられ、類似品はまかりならん、というような文言がダラダラと書き連ねられていた。
「さすがに材料までは規制できなかったようだが、類似品とみなされるものは不許可だとさ。めちゃくちゃだが、ここはパレスだ。上の決めたことには逆らえん!」
つまり、既存の菓子はほぼアウトということだ。
実際のところ、過去生での経験に基づく私のレシピのほとんどは〝甘美な箱〟亭の商品とは抵触しない。とはいえ、少しでも似ていたら難癖をつけられて面倒が起こりそうなので、完全にオリジナルであることがハッキリと分かる商品をメインに据える必要がある。
「策はあるんだろう?」
おじさまは、ニヤッと笑っている。
私が何か考えているのは、表情で分かってしまうらしい。
でも、私としてはそれは最後の手段にとっておきたかったものだ。
「ひとつ、考えているのはモノがあることはありますけど、ものすごく大変なんですよ!
暫くは研究のため閉じこもりますから、王妃様たちにせっつかれても、適当にごまかしておいて下さいね。
あ、それから、いくつか大物の発注をしないといけないので、それの手配は任せますよ。超特急でお願いします!」
さて、私がここまで作ることに躊躇したものが何かといえば〝チョコレート〟だ。
この世界にカカオがあることは、ゼンモンさんの薬種問屋〝仙鏡院〟に行ったおり、種を見つけていたので知っていた。そこにあったのは強壮薬の原料として少量仕入れられていたカカオの種だったが、すでに火が入り炒られた状態だったので、育てることもできず、存在を確認したに留まっていた。
その後、皆んなにその特徴的な赤い実について話しておいたところ、偶然セイリュウがある火山の近くで発見し、私へのお土産として持ってきてくれたので《無限回廊の扉》の中に、かなり以前からカカオの実はすでに保管されていた。
でも、やっぱりチョコレート製造に乗り出そうという気にはなれずにいまに至っている。
それは、私が前世で〝いちから作るホームメイド・チョコレート〟というキットを使ってチョコレートを作ったとき、そのありえないほど大変な作業にものすごく苦労させられたからだ。しかも、それだけ苦労したのに出来上がりは……なかなかに悲惨なものだった。あのときは家事万能を誇っていたオバちゃんのプライド、かなり傷ついた。
以来、私の中ではチョコレートは、家庭で作るものではない食品、に分類されている。
(でもこの状況だと、タガローサの難癖を一蹴できそうな、完全に差別化できる美味しい製菓アイテムって他に思いつかないんだよねぇ……)
勝機がありそうな点といえばただひとつ、いまの私には前世で使えなかった〝魔法〟という素晴らしい技術があることだ。
しかもかなり強力な有り余る魔法力も。
これを使えば、過去の惨憺たる失敗は克服できるかもしれない。
(ええい、こうなったら勉強してやる!!)
マホロの別荘に戻った私は《異世界召喚》を発動。チョコレートの専門書を購入することにした。
チョコレートを食べなくても鼻血が出そうな金額だったが、いまはそんなことを言ってはいられない。
(おじさまからもらったお金があって助かったよ)
私は必死で本を読み、チョコレートについて学び直した。
さて、最初の難関はカカオの栽培場所だ。
気候を考えれば、大陸はカカオ栽培には寒すぎて、まったく適していない。
そう考えると、セイリュウがこのカカオの実を見つけた場所の気候に近い、沿海州の熱帯性気候の場所がいいだろう。まずは土地探しからだ。
「ははぁ、暖かい気候の場所で、栽培したい作物がある、ということでございますね」
マホロ商人ギルドのタスカ幹事は、私の話にそれは真摯に耳を傾けてくれた。
「アキツも大陸に比べましたらだいぶ暖かい地域ではございますが、更にということでしたら、ザインでございましょうね」
ザインといえば、鉱物が採れるため武器や刃物などの生産が盛んな国だったはずだ。
人口は首都を中心とした都市部と沿岸部に集中しており、内陸は手つかずの土地も多く、農業人口は多くないという。どうやら農業に使えそうな土地は安く手に入りそうなので、早速、ザインの首都アーロへ行ってみることにした。
「武器を買い求めたり、鉱山で魔物狩りをするような筋肉自慢の乱暴者も多い荒い土地でございますので、くれぐれもお気をつけて。現地のギルドには《伝令》を送っておきますので、ぜひお尋ねください」
私はタスカ幹事に礼を言い、早速旅の準備を始める。
思わぬことから、沿海州三国の最後のひとつザインへ出向くことになってしまった。
これも何かの縁、新しい国をしっかり見てこよう。
数日後、私は沿海州での移動のために購入した大きな帆船に乗りながら、今度の国がどんなところなのか、ちょっとだけワクワクしながら、船酔いにもめげず甲板でチョコレートの勉強を続けていた。
エスライ・タガローサはパレスの商人ギルド統括幹事にして、貴族や皇族との太いパイプも持つ〝帝国の代理人〟
パレスにあっては(大貴族たちを除けばだが)最も金も権力も持っている男だ。
そのパレスの首領が、如何なるコネを使ったのか知らないが〝パレスの老舗菓子店の権威を守ってもらいたい〟という嘆願のゴリ押しに成功したらしい。つい先日、菓子店の新規出店が噂されるサイデム商会に〝甘美な箱〟亭と被る商品を出すな、というあからさまな圧力をかけてきたのだ。
〝既存の老舗で販売されている菓子の権利を守る〟という大層なお題目で、お役所からご立派な書面が届けられ、類似品はまかりならん、というような文言がダラダラと書き連ねられていた。
「さすがに材料までは規制できなかったようだが、類似品とみなされるものは不許可だとさ。めちゃくちゃだが、ここはパレスだ。上の決めたことには逆らえん!」
つまり、既存の菓子はほぼアウトということだ。
実際のところ、過去生での経験に基づく私のレシピのほとんどは〝甘美な箱〟亭の商品とは抵触しない。とはいえ、少しでも似ていたら難癖をつけられて面倒が起こりそうなので、完全にオリジナルであることがハッキリと分かる商品をメインに据える必要がある。
「策はあるんだろう?」
おじさまは、ニヤッと笑っている。
私が何か考えているのは、表情で分かってしまうらしい。
でも、私としてはそれは最後の手段にとっておきたかったものだ。
「ひとつ、考えているのはモノがあることはありますけど、ものすごく大変なんですよ!
暫くは研究のため閉じこもりますから、王妃様たちにせっつかれても、適当にごまかしておいて下さいね。
あ、それから、いくつか大物の発注をしないといけないので、それの手配は任せますよ。超特急でお願いします!」
さて、私がここまで作ることに躊躇したものが何かといえば〝チョコレート〟だ。
この世界にカカオがあることは、ゼンモンさんの薬種問屋〝仙鏡院〟に行ったおり、種を見つけていたので知っていた。そこにあったのは強壮薬の原料として少量仕入れられていたカカオの種だったが、すでに火が入り炒られた状態だったので、育てることもできず、存在を確認したに留まっていた。
その後、皆んなにその特徴的な赤い実について話しておいたところ、偶然セイリュウがある火山の近くで発見し、私へのお土産として持ってきてくれたので《無限回廊の扉》の中に、かなり以前からカカオの実はすでに保管されていた。
でも、やっぱりチョコレート製造に乗り出そうという気にはなれずにいまに至っている。
それは、私が前世で〝いちから作るホームメイド・チョコレート〟というキットを使ってチョコレートを作ったとき、そのありえないほど大変な作業にものすごく苦労させられたからだ。しかも、それだけ苦労したのに出来上がりは……なかなかに悲惨なものだった。あのときは家事万能を誇っていたオバちゃんのプライド、かなり傷ついた。
以来、私の中ではチョコレートは、家庭で作るものではない食品、に分類されている。
(でもこの状況だと、タガローサの難癖を一蹴できそうな、完全に差別化できる美味しい製菓アイテムって他に思いつかないんだよねぇ……)
勝機がありそうな点といえばただひとつ、いまの私には前世で使えなかった〝魔法〟という素晴らしい技術があることだ。
しかもかなり強力な有り余る魔法力も。
これを使えば、過去の惨憺たる失敗は克服できるかもしれない。
(ええい、こうなったら勉強してやる!!)
マホロの別荘に戻った私は《異世界召喚》を発動。チョコレートの専門書を購入することにした。
チョコレートを食べなくても鼻血が出そうな金額だったが、いまはそんなことを言ってはいられない。
(おじさまからもらったお金があって助かったよ)
私は必死で本を読み、チョコレートについて学び直した。
さて、最初の難関はカカオの栽培場所だ。
気候を考えれば、大陸はカカオ栽培には寒すぎて、まったく適していない。
そう考えると、セイリュウがこのカカオの実を見つけた場所の気候に近い、沿海州の熱帯性気候の場所がいいだろう。まずは土地探しからだ。
「ははぁ、暖かい気候の場所で、栽培したい作物がある、ということでございますね」
マホロ商人ギルドのタスカ幹事は、私の話にそれは真摯に耳を傾けてくれた。
「アキツも大陸に比べましたらだいぶ暖かい地域ではございますが、更にということでしたら、ザインでございましょうね」
ザインといえば、鉱物が採れるため武器や刃物などの生産が盛んな国だったはずだ。
人口は首都を中心とした都市部と沿岸部に集中しており、内陸は手つかずの土地も多く、農業人口は多くないという。どうやら農業に使えそうな土地は安く手に入りそうなので、早速、ザインの首都アーロへ行ってみることにした。
「武器を買い求めたり、鉱山で魔物狩りをするような筋肉自慢の乱暴者も多い荒い土地でございますので、くれぐれもお気をつけて。現地のギルドには《伝令》を送っておきますので、ぜひお尋ねください」
私はタスカ幹事に礼を言い、早速旅の準備を始める。
思わぬことから、沿海州三国の最後のひとつザインへ出向くことになってしまった。
これも何かの縁、新しい国をしっかり見てこよう。
数日後、私は沿海州での移動のために購入した大きな帆船に乗りながら、今度の国がどんなところなのか、ちょっとだけワクワクしながら、船酔いにもめげず甲板でチョコレートの勉強を続けていた。
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