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2 海の国の聖人候補
360 レセプション・パーティー
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360
縛り上げられた4人の襲撃者は、おじさまに引き渡された。
襲撃者たちはそこで徹底的に尋問され、そのうちのひとりの証言から、遂にタガローサの現在の第一秘書にまで辿り着くことができた。そして本来なら破棄されているはずの〝指示書〟という今回の襲撃計画の詳細が記された証拠が、4人の男達のアジトで確保されるに至った。以前ならば、こんな証拠を残すようなことはなかったタガローサだが、優秀な部下を(主に私のせいで)相次いで失い、人材不足のため、以前のような慎重で綿密な計画は企てられなかったらしい。今回の襲撃も、焦りからか計画には杜撰さが見えた。
もちろんタガローサは、〝秘書が勝手にやったことで私は何も知りません〟という、どこかの国の政治家のような定型のセリフで逃げようとしたが、おじさまは今回の事件の調査を役所管轄の警備部隊ではなく、その上部組織であるパレス警備隊の更に上層部へ直訴。
この警備隊は軍属で、タガローサのパレスでの権力が及ばない数少ない場所だ。
(一方、おじさまは今では軍関係にはめっぽう強いコネクションを持っているんだよねぇ)
今回タガローサの分が悪かったのは、関係者に皇族がいたこと。
襲われたのは皇后陛下が名を付けられた店の者ということで、〝不敬罪〟も視野に入れた徹底的な追求が行われたのだ。
あらゆる悪あがきをしたものの、皇后陛下が関係する調査では、お得意の上級貴族からの圧力も掛けられるはずはなく、皇帝直轄軍が母体である規律の厳しいパレス警備隊には、もちろん金を使ってうやむやにするなどという工作が通じるはずもなかった。
そして一連の調査終了後、襲った者たちには重労働を伴う長い刑務所生活という中々に厳しい処罰があった。そして……タガローサにも〝監督不行き届きにつき厳罰に処す〟という判決が下されたのだ。
結果、タガローサは菓子事業に今後関わることを一切禁じられた。〝甘美な箱〟亭は、タガローサと袂を分かち、その傘下から外れ独自に店を運営すること、と決められ、タガローサの息のかかった従業員は全て排除された。
タガローサはこれにより高価な乳製品を取引できる相手の多くを手放すことになり、莫大な利益を失うことになった。更に、調査の過程で役人を買収しての役所ぐるみの悪質な嫌がらせの事実も明らかとなり、更に信用を落とすという最悪の状況に追い込まれた。
だが一番大きなダメージはこれだっただろう。
宮廷への御召しについては暫く〝それに及ばず〟というというお達し。
これは〝皇宮は今後暫くタガローサから品物の購入を一切行わない〟という判断が下されたということだ。
事実上〝帝国の代理人〟を更迭されてしまったも同じだった。
皇宮の逆鱗に触れたタガローサは、宮廷内での支持を急速に失いつつあるそうだ。
彼も罪を逃れるため、必死に奔走したものの、私もおじさまも最初からそのつもりで根回しも対策もしていたので、襲撃者との繋がりが確定したところで、もう勝負は決まっていた。
彼の権力の及ばない相手をしっかり見極めた上で、正々堂々公正な判断を仰いだおじさまが負ける道理などないのだ。
遂に、最後通牒とも言える皇宮からの知らせを受けたタガローサは、いつもの怒鳴り声さえなく無言で、幽鬼のような姿だったそうだ。
今はひたすら家に閉じこもり、仕事は部下に丸投げしたまま蟄居し反省している風だという。
(実際は、どうだかわからないけど、これで表立っての妨害はしばらく無理でしょ)
買収に加担した役人は、あっという間に僻地に飛ばされ、同時に改革を断行するよう軍部から指示が飛び、役所内の風通しも良くなったそうだ。
〝甘美な箱〟亭の客足も、だいぶ落ちることとなったが、タガローサから高い材料費を請求されなくなり、サイデム商会から適正価格の砂糖や乳製品を入手できるようになったため、潰れるには至らず、今も営業を続けている。
(せっかくの老舗の看板、飴菓子は美味しかったし、潰れたら悲しむ人もいるだろうし、頑張って貰えばいいと思う)
さて、やっと〝カカオの誘惑〟開店記念レセプション・パーティだ。
会場はパレスのサイデム邸。ここなら勝手も分かるし、警備もしやすいということでお借りした。今回は、かなり厳選して招待状を出したのだが、またまた驚異の出席率で、会場に届いた花だけでも恐ろしい数だ。セッテイングのため家令のサルムさんもメイド長のテレザさんも指示を出しながら飛び回っている。
今回のホストはおじさま。私は料理にだけ口を出して、後はなるべく目立たないように皇后陛下やアリーシア様たちの接待役をする予定。
セーヤから新作のチョコレート色をした素敵な帽子も作ってもらったし、今回も帽子にせいぜい目立ってもらおう。
今回のパーティーは、軽食とスイーツがメイン。
貴族の皆さんに、存分に〝カカオの誘惑〟の商品を堪能してもらうための催しだ。
そのためなのか、女性の数がとても多く、更に華やかな雰囲気になりそうだ。
会場の中央にはチョコレートの滝、いわゆる〝チョコレート・ファウンテン〟を設置。魔石を使ったポンプ構造を作ってあるので、ずっとチョコレートの滝を動かすことができ、甘い香りを会場中に蒔いてくれる。
「これはまた、すごいものを作ったなぁ」
ホストらしく、最高級の仕立ての貴族らしい夜会服に身を包んだ、サイデムおじさまが笑っている。
「ソーヤが、貴族の皆さんには派手な演出が必要だというので作ってみました。あ、でもこれただの演出じゃないんですよ。フルーツやケーキを串に刺して、この滝につけるとチョコレート菓子になるんです」
おじさまに串に刺した一口サイズのベリーケーキを差し出すと、おじさまは楽しそうにチョコレートの滝へ串を入れた。
「うん!これ美味いな!」
ビターなチョコレートと甘酸っぱいケーキはおじさまの嗜好に合ったようだ。おじさまは、パーティーが始まったら食べる暇がないから、っと次々にフルーツやケーキのチョコレートがけを食べながら、こう言った。
「このチョコレート、これから大きな商売になっていくぞ、きっと……。
少し時間はかかるだろうが、これからたくさん木を育て、品質の良い豆を供給できるよう手を打っている。
10年もすれば、シラン村でも食べるようになるさ。
気長に育てる、そんな商売もいいだろう?」
「そうですね。楽しみです」
私たちは笑い合って、チョコレートを食べた。
そろそろ、お客様がやってくる。
「上手くチョコレートを売り込んで下さいね!」
「お前もな!上級貴族の奥方たちに上手く売り込めよ!」
今度はふたりで商人らしくニヤッと笑い合い、私たちは会場入口へと上品に歩いていった。
縛り上げられた4人の襲撃者は、おじさまに引き渡された。
襲撃者たちはそこで徹底的に尋問され、そのうちのひとりの証言から、遂にタガローサの現在の第一秘書にまで辿り着くことができた。そして本来なら破棄されているはずの〝指示書〟という今回の襲撃計画の詳細が記された証拠が、4人の男達のアジトで確保されるに至った。以前ならば、こんな証拠を残すようなことはなかったタガローサだが、優秀な部下を(主に私のせいで)相次いで失い、人材不足のため、以前のような慎重で綿密な計画は企てられなかったらしい。今回の襲撃も、焦りからか計画には杜撰さが見えた。
もちろんタガローサは、〝秘書が勝手にやったことで私は何も知りません〟という、どこかの国の政治家のような定型のセリフで逃げようとしたが、おじさまは今回の事件の調査を役所管轄の警備部隊ではなく、その上部組織であるパレス警備隊の更に上層部へ直訴。
この警備隊は軍属で、タガローサのパレスでの権力が及ばない数少ない場所だ。
(一方、おじさまは今では軍関係にはめっぽう強いコネクションを持っているんだよねぇ)
今回タガローサの分が悪かったのは、関係者に皇族がいたこと。
襲われたのは皇后陛下が名を付けられた店の者ということで、〝不敬罪〟も視野に入れた徹底的な追求が行われたのだ。
あらゆる悪あがきをしたものの、皇后陛下が関係する調査では、お得意の上級貴族からの圧力も掛けられるはずはなく、皇帝直轄軍が母体である規律の厳しいパレス警備隊には、もちろん金を使ってうやむやにするなどという工作が通じるはずもなかった。
そして一連の調査終了後、襲った者たちには重労働を伴う長い刑務所生活という中々に厳しい処罰があった。そして……タガローサにも〝監督不行き届きにつき厳罰に処す〟という判決が下されたのだ。
結果、タガローサは菓子事業に今後関わることを一切禁じられた。〝甘美な箱〟亭は、タガローサと袂を分かち、その傘下から外れ独自に店を運営すること、と決められ、タガローサの息のかかった従業員は全て排除された。
タガローサはこれにより高価な乳製品を取引できる相手の多くを手放すことになり、莫大な利益を失うことになった。更に、調査の過程で役人を買収しての役所ぐるみの悪質な嫌がらせの事実も明らかとなり、更に信用を落とすという最悪の状況に追い込まれた。
だが一番大きなダメージはこれだっただろう。
宮廷への御召しについては暫く〝それに及ばず〟というというお達し。
これは〝皇宮は今後暫くタガローサから品物の購入を一切行わない〟という判断が下されたということだ。
事実上〝帝国の代理人〟を更迭されてしまったも同じだった。
皇宮の逆鱗に触れたタガローサは、宮廷内での支持を急速に失いつつあるそうだ。
彼も罪を逃れるため、必死に奔走したものの、私もおじさまも最初からそのつもりで根回しも対策もしていたので、襲撃者との繋がりが確定したところで、もう勝負は決まっていた。
彼の権力の及ばない相手をしっかり見極めた上で、正々堂々公正な判断を仰いだおじさまが負ける道理などないのだ。
遂に、最後通牒とも言える皇宮からの知らせを受けたタガローサは、いつもの怒鳴り声さえなく無言で、幽鬼のような姿だったそうだ。
今はひたすら家に閉じこもり、仕事は部下に丸投げしたまま蟄居し反省している風だという。
(実際は、どうだかわからないけど、これで表立っての妨害はしばらく無理でしょ)
買収に加担した役人は、あっという間に僻地に飛ばされ、同時に改革を断行するよう軍部から指示が飛び、役所内の風通しも良くなったそうだ。
〝甘美な箱〟亭の客足も、だいぶ落ちることとなったが、タガローサから高い材料費を請求されなくなり、サイデム商会から適正価格の砂糖や乳製品を入手できるようになったため、潰れるには至らず、今も営業を続けている。
(せっかくの老舗の看板、飴菓子は美味しかったし、潰れたら悲しむ人もいるだろうし、頑張って貰えばいいと思う)
さて、やっと〝カカオの誘惑〟開店記念レセプション・パーティだ。
会場はパレスのサイデム邸。ここなら勝手も分かるし、警備もしやすいということでお借りした。今回は、かなり厳選して招待状を出したのだが、またまた驚異の出席率で、会場に届いた花だけでも恐ろしい数だ。セッテイングのため家令のサルムさんもメイド長のテレザさんも指示を出しながら飛び回っている。
今回のホストはおじさま。私は料理にだけ口を出して、後はなるべく目立たないように皇后陛下やアリーシア様たちの接待役をする予定。
セーヤから新作のチョコレート色をした素敵な帽子も作ってもらったし、今回も帽子にせいぜい目立ってもらおう。
今回のパーティーは、軽食とスイーツがメイン。
貴族の皆さんに、存分に〝カカオの誘惑〟の商品を堪能してもらうための催しだ。
そのためなのか、女性の数がとても多く、更に華やかな雰囲気になりそうだ。
会場の中央にはチョコレートの滝、いわゆる〝チョコレート・ファウンテン〟を設置。魔石を使ったポンプ構造を作ってあるので、ずっとチョコレートの滝を動かすことができ、甘い香りを会場中に蒔いてくれる。
「これはまた、すごいものを作ったなぁ」
ホストらしく、最高級の仕立ての貴族らしい夜会服に身を包んだ、サイデムおじさまが笑っている。
「ソーヤが、貴族の皆さんには派手な演出が必要だというので作ってみました。あ、でもこれただの演出じゃないんですよ。フルーツやケーキを串に刺して、この滝につけるとチョコレート菓子になるんです」
おじさまに串に刺した一口サイズのベリーケーキを差し出すと、おじさまは楽しそうにチョコレートの滝へ串を入れた。
「うん!これ美味いな!」
ビターなチョコレートと甘酸っぱいケーキはおじさまの嗜好に合ったようだ。おじさまは、パーティーが始まったら食べる暇がないから、っと次々にフルーツやケーキのチョコレートがけを食べながら、こう言った。
「このチョコレート、これから大きな商売になっていくぞ、きっと……。
少し時間はかかるだろうが、これからたくさん木を育て、品質の良い豆を供給できるよう手を打っている。
10年もすれば、シラン村でも食べるようになるさ。
気長に育てる、そんな商売もいいだろう?」
「そうですね。楽しみです」
私たちは笑い合って、チョコレートを食べた。
そろそろ、お客様がやってくる。
「上手くチョコレートを売り込んで下さいね!」
「お前もな!上級貴族の奥方たちに上手く売り込めよ!」
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