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3 魔法学校の聖人候補
456 トルルの未帰還
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456
私はついに癒しの《白魔法》のごく一部だが、復元に成功した。
だが、現状ではこの魔法を使うためには2000を軽く超える魔法力が必要だ。これでは、ほとんどの魔法使いは一度たりも使うことができない。
(つぎはいらない要素を取り除いてスリム化していかないとね……)
私にとっては、今では2000程度の魔法力を使うのは特に問題ないのだが、それでもいつか誰かに渡せる機会があると信じて、少しでも使える人を増やすべく研究を続けていきたいと思う。たとえ今は伝えられなくても、いつか使えるかもしれないし、その望みは捨てたくない。
気がつけば、一ヶ月半の長い冬休みも終わろうとしていた。
ここは冬の厳しい山間部なので、冬休みが長いのだが、どうにかその間に形になってホッとした。
まだまだ課題は多いが、癒しの《白魔法》が復元可能だとはっきりしただけでも大きな前進だ。
私は新学期の準備のため、研究室の掃除を念入りにして、帰ってくるみんなのためにお菓子作りをしたり大食堂の冬メニューを考えたりしながら束の間の休息をとり、みんなが戻ってくるのを待っていた。
最初に戻ってきたのはオーライリ。イスのお金持ちのお嬢様である彼女は、イスの最新流行のお土産と土産話をたくさん持ち帰ってくれた。今のトレンドはメイロード・ソースの〝食べるラー油〟だそうで、ラーメンの普及とともにものすごい勢いで売れているらしい。
この〝食べラー〟については、最初は本当に〝もどき〟とつけるしかない、色々と足りないものだったのだが、その後新しい食材を見つけるたびにシラン村協同組合の人たちと改良を重ねてきた。おかげで今ではかなり本来の味に近づいている。これが最近になって爆発的に売れ始めたのには、そういった改良が認められた、ということもあるだろう。
(シラン村の品質管理・改良チーム、頑張ってくれてるなぁ)
徐々に生産量が増えつつあるチーズも少しづつ浸透し始め、これは富裕層の間でかなり流行しているそうだ。ただ、まだあまりレシピが充実していないため、巷に出回っているのはほとんど〝大地の恵み〟亭から広まった料理だそうだ。
特に最近、レストランのデザート用にチーズで菓子を作っているマルコとロッコの、ふわふわ食感のケーキが大評判だそうで、別に菓子店を出店しないかとあちこちから声がかかっているそうだ。アイドル・パティシエとして、その人気は絶大過ぎて私の時と同じく、勝手に似顔絵やらファンブックやら戯曲やらが次々出ていて、ふたりは大いに迷惑しているらしい。
(ふたりに教えたあまり材料がいらないスフレタイプのチーズケーキ、やっぱり評判いいんだな。おじさまは、チーズの供給さえしっかりできそうなら、ぜひ〝マルコとロッコのチーズケーキ〟で一山当てたいみたいだけど、本人たちが望まないなら絶対にダメだと、おじさまに念押ししとかないとな……)
「それから、これ素敵でしょう?」
オーライリが見せてくれたのは、綺麗なレースのハンカチ。今、イスのちょっとオシャレな女性はこれを持ち歩くのが当たり前になってきているそうだ。ハーブオイルとのセット販売も富裕層にがっちりハマったらしく、かなり盛り上がっているという。
(おじさま、しっかり商品化したのね。儲かっているようで、何より)
発案者としては気になっていたので、うまくいっているようでホッとした。オーライリはお土産にとわたしにもイスで作られたハンカチを買ってきてくれた。刺繍も細かいし、季節の花々が織り込まれたとても素敵なものだ。
「ありがとうオーライリ。とっても素敵ね」
その後、次々と帰ってきたみんなを交えて、それぞれの土産話に花を咲かせていたのだが、もう明日は三学期のスタートだというのに、まだトルルが戻らない。
「どうしたんでしょうか? なにかあったのかしら」
ルームメートのオーライリは心配そうにしている。魔法学校のペナルティーは厳しく、新しい学期に遅れたらかなり減点が課されてしまう。事情があるのならば、事務局に《伝令》がきているかもしれない。
「事務局の知り合いに、ちょっと聞いてみるね」
不安そうなオーライリにそう告げると、私はチェット・モートさんに、トルルからの連絡が来ていないか聞きに向かった。
事務局では、チェット・モートさんを始め、事務局の偉い方々勢揃いで、慌ただしく動いていた。三学期に向けて忙しいだけとは思えない、その緊迫した様子に驚きつつ、私は声を少し落として話しかけた。
「お忙しいところ申し訳ありません。まだ戻ってきていない友人のことで、何か連絡が入っていないかお伺いに来たのですけれど……」
私の言葉にチェット・モートさんが振り返る。
「ああ、メイロードさま。ご友人というのはトルルさんのことですね。今そのことで、ちょっと立て込んでまして……」
「何かあったのでしょうか。教えていただけますか?」
すると頷いたモートさんは、その場から少し離れた場所で、掻い摘んだ事情を話してくれた。
「トルルさん本人には、問題はありません。ただ、今は学校に帰っては来れない状況だと連絡がありました」
私はびっくりして、なにがあったのか問い詰める。
「状況が状況なので、もちろん学校への帰還が遅れることについては考慮されます。それは大丈夫です。ですが、この解決にどれぐらい時間がかかるかは、正直判りません。ことが大きくなりそうですので……」
どうやら、問題はトルル個人に留まってはいない様子だ。私がさらに問いただすと、周囲を気にしながら小さな声で、モートさんが教えてくれた。
「トルルさんの妹さんが誘拐されました。しかも、誘拐はその周囲の村落で十数件が確認されています。いづれも高い魔法力がある魔法の才が認められる子供たちです。組織的な誘拐に間違ないと思います」
私はついに癒しの《白魔法》のごく一部だが、復元に成功した。
だが、現状ではこの魔法を使うためには2000を軽く超える魔法力が必要だ。これでは、ほとんどの魔法使いは一度たりも使うことができない。
(つぎはいらない要素を取り除いてスリム化していかないとね……)
私にとっては、今では2000程度の魔法力を使うのは特に問題ないのだが、それでもいつか誰かに渡せる機会があると信じて、少しでも使える人を増やすべく研究を続けていきたいと思う。たとえ今は伝えられなくても、いつか使えるかもしれないし、その望みは捨てたくない。
気がつけば、一ヶ月半の長い冬休みも終わろうとしていた。
ここは冬の厳しい山間部なので、冬休みが長いのだが、どうにかその間に形になってホッとした。
まだまだ課題は多いが、癒しの《白魔法》が復元可能だとはっきりしただけでも大きな前進だ。
私は新学期の準備のため、研究室の掃除を念入りにして、帰ってくるみんなのためにお菓子作りをしたり大食堂の冬メニューを考えたりしながら束の間の休息をとり、みんなが戻ってくるのを待っていた。
最初に戻ってきたのはオーライリ。イスのお金持ちのお嬢様である彼女は、イスの最新流行のお土産と土産話をたくさん持ち帰ってくれた。今のトレンドはメイロード・ソースの〝食べるラー油〟だそうで、ラーメンの普及とともにものすごい勢いで売れているらしい。
この〝食べラー〟については、最初は本当に〝もどき〟とつけるしかない、色々と足りないものだったのだが、その後新しい食材を見つけるたびにシラン村協同組合の人たちと改良を重ねてきた。おかげで今ではかなり本来の味に近づいている。これが最近になって爆発的に売れ始めたのには、そういった改良が認められた、ということもあるだろう。
(シラン村の品質管理・改良チーム、頑張ってくれてるなぁ)
徐々に生産量が増えつつあるチーズも少しづつ浸透し始め、これは富裕層の間でかなり流行しているそうだ。ただ、まだあまりレシピが充実していないため、巷に出回っているのはほとんど〝大地の恵み〟亭から広まった料理だそうだ。
特に最近、レストランのデザート用にチーズで菓子を作っているマルコとロッコの、ふわふわ食感のケーキが大評判だそうで、別に菓子店を出店しないかとあちこちから声がかかっているそうだ。アイドル・パティシエとして、その人気は絶大過ぎて私の時と同じく、勝手に似顔絵やらファンブックやら戯曲やらが次々出ていて、ふたりは大いに迷惑しているらしい。
(ふたりに教えたあまり材料がいらないスフレタイプのチーズケーキ、やっぱり評判いいんだな。おじさまは、チーズの供給さえしっかりできそうなら、ぜひ〝マルコとロッコのチーズケーキ〟で一山当てたいみたいだけど、本人たちが望まないなら絶対にダメだと、おじさまに念押ししとかないとな……)
「それから、これ素敵でしょう?」
オーライリが見せてくれたのは、綺麗なレースのハンカチ。今、イスのちょっとオシャレな女性はこれを持ち歩くのが当たり前になってきているそうだ。ハーブオイルとのセット販売も富裕層にがっちりハマったらしく、かなり盛り上がっているという。
(おじさま、しっかり商品化したのね。儲かっているようで、何より)
発案者としては気になっていたので、うまくいっているようでホッとした。オーライリはお土産にとわたしにもイスで作られたハンカチを買ってきてくれた。刺繍も細かいし、季節の花々が織り込まれたとても素敵なものだ。
「ありがとうオーライリ。とっても素敵ね」
その後、次々と帰ってきたみんなを交えて、それぞれの土産話に花を咲かせていたのだが、もう明日は三学期のスタートだというのに、まだトルルが戻らない。
「どうしたんでしょうか? なにかあったのかしら」
ルームメートのオーライリは心配そうにしている。魔法学校のペナルティーは厳しく、新しい学期に遅れたらかなり減点が課されてしまう。事情があるのならば、事務局に《伝令》がきているかもしれない。
「事務局の知り合いに、ちょっと聞いてみるね」
不安そうなオーライリにそう告げると、私はチェット・モートさんに、トルルからの連絡が来ていないか聞きに向かった。
事務局では、チェット・モートさんを始め、事務局の偉い方々勢揃いで、慌ただしく動いていた。三学期に向けて忙しいだけとは思えない、その緊迫した様子に驚きつつ、私は声を少し落として話しかけた。
「お忙しいところ申し訳ありません。まだ戻ってきていない友人のことで、何か連絡が入っていないかお伺いに来たのですけれど……」
私の言葉にチェット・モートさんが振り返る。
「ああ、メイロードさま。ご友人というのはトルルさんのことですね。今そのことで、ちょっと立て込んでまして……」
「何かあったのでしょうか。教えていただけますか?」
すると頷いたモートさんは、その場から少し離れた場所で、掻い摘んだ事情を話してくれた。
「トルルさん本人には、問題はありません。ただ、今は学校に帰っては来れない状況だと連絡がありました」
私はびっくりして、なにがあったのか問い詰める。
「状況が状況なので、もちろん学校への帰還が遅れることについては考慮されます。それは大丈夫です。ですが、この解決にどれぐらい時間がかかるかは、正直判りません。ことが大きくなりそうですので……」
どうやら、問題はトルル個人に留まってはいない様子だ。私がさらに問いただすと、周囲を気にしながら小さな声で、モートさんが教えてくれた。
「トルルさんの妹さんが誘拐されました。しかも、誘拐はその周囲の村落で十数件が確認されています。いづれも高い魔法力がある魔法の才が認められる子供たちです。組織的な誘拐に間違ないと思います」
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