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3 魔法学校の聖人候補
519 シスターファリタの育児書
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519
「育児書を作ります!」
私はおじさまに向かい決意表明を兼ねてそう言い切った。そんな私をおじさまはわけがわからんという顔で見ている。それはそうだろう。まだ子供の私が、赤ちゃんの取り扱い方や注意点のついての本を書くと宣言したのだ。そもそもそんな知識が私にあることがおかしいと突っ込まれるに決まっていることもわかっている。
だが私は前世で小児外科医の母を持ち、双子の赤ちゃんを育て上げたのだ。この世界ではまだまだ知られていない乳幼児期の注意点ぐらい、いくらだって教えてあげられるし、知ってほしいと思う。それで防げる病はたくさんあるのだから。さきほどセイツェさんから聞き取ったところでも、どうやら間違った赤ちゃんの育て方による病気の可能性があった。だが、このくる病と呼ばれる骨の成形に関わる病気などの場合のリスクは、知識さえあれば抑えることが可能なのだ。
「村の子供たちやお母さんからの聞き取りで、以前からいくつか危険なんじゃないかと思うことがあったんですよ。それが、貴族の子育てでは特に顕著なようなので、それを中心に冊子を作ろうってことです」
私はなんとか理屈をつけて、本を作ることを決めた。但し、一般発売はベラミ妃のご出産を待つことにした。早く出版したい気持ちもあるが、大量の本を出版するためには相応の準備も必要であるし、この本をベラミ妃の出産祝賀記念のものにすることで皇宮から予算をもぎ取り販売価格を下げ、より買いやすくしたいという意図もある。
そして、いち早く一冊だけ作るこの本は〝シド帝国育児秘伝書〟という仰々しいタイトルにして、さらに仰々しい豪華な箔押し製本でご立派に作ることになった。
「これが確かな情報なら、ロームバルトに対しての痛烈な意趣返しになるだろう。こちらを蛮族と決めつけて教養では叶うまいとタカをくくっているロームバルトへ知識を贈るとは。いいぞ、メイロード」
「別に私はそういうつもりじゃないんですけどね。いや、本当に幼児期は色々危ないことがありますから、とにかくお知らせしたいだけなんです」
子育てには特に興味のないおじさまは、リアーナ皇后にいい報告ができそうだというので、満足しているようだ。
「あと、この冊子は早めの出版も考えてくださいね。大事なことが書いてありますから」
「わかったわかった。この豪華本をロームバルトに納品してから、簡易版の出版を考えるさ。さっきの記念出版というのも、いい案だ。皇宮が人々のことを考えているという慈悲深さを与えられるだろうから、お前の言うように援助をもらえるだろう。どちらにとってもいい話だ」
この件については、早く普及させたい知識なので〝メイロード〟の名前を使ってもらってもいいです。本当は嫌ですけど、その方が売れるなら、今回は使ってください。
「お前がそこまで言うとは珍しいな。だが、今回はお前の名前は出さないほうがいいだろう。お前が子供だということは多くの人が知っているからな。たとえ知識が正しくとも、信用を得るのは難しいだろう」
「なるほど……では、御宣託を受けた人物が伝えた知識だということにしてはどうでしょう? それならば、受け入れやすいのではないですか?」
この世界は、私のいた世界よりずっと神との距離が近い。人々はお告げといったものを信じる傾向があるし、間違った内容でなく、確実に効果が出てくればさらに信頼度が上がる。こうした情報の流布は神への信仰を守ることにもつながるので、伝播力もとても強い。
「おい、そうなるとやっぱりお前の名前を出すことになるぞ。うってつけだろう〝聖女メイロード〟が神より授けられた知識をお伝えしましょう……って感じでいくのが一番しっくりくる」
「いやいや、聖女認定だけは勘弁してください。架空の人物でいいじゃないですか! 内容は保証しますから!」
そこからはしばらくゴタゴタしたが、さすがに聖女認定は困るので、結局架空の聖女の残した御宣託に関する書物が発見された、ということにしてその内容を出版することになった、という設定に決まった。先代のイスの孤児院で院長を務めていたシスターファリタという方の残したもの、という触れ込みも決まり、〝神様からの教えーーシスターファリタの育児書〟というタイトルに決まった。
「勝手に名前を使っていいんですか? 実在なんですよね、シスターファリタ」
「あ? ああ、シスターファリタはそんなことを気にするような人じゃなかったから心配するな。子供たちのためならば、きっと喜んで名前を貸してくれるよ。俺も晩年しか知らないが、そういう人だった」
話を聞けば、生涯を貧しい子供たちのために捧げたシスターファリタの生き方は、この本にふさわしいもので、彼女の名前をつけさせてもらえたことは喜ばしいことだと思えた。
(この本の知識が広まって、少しでも病気の子供が減りますように……私もシスターファリタもきっと願いは一緒だよね)
「育児書を作ります!」
私はおじさまに向かい決意表明を兼ねてそう言い切った。そんな私をおじさまはわけがわからんという顔で見ている。それはそうだろう。まだ子供の私が、赤ちゃんの取り扱い方や注意点のついての本を書くと宣言したのだ。そもそもそんな知識が私にあることがおかしいと突っ込まれるに決まっていることもわかっている。
だが私は前世で小児外科医の母を持ち、双子の赤ちゃんを育て上げたのだ。この世界ではまだまだ知られていない乳幼児期の注意点ぐらい、いくらだって教えてあげられるし、知ってほしいと思う。それで防げる病はたくさんあるのだから。さきほどセイツェさんから聞き取ったところでも、どうやら間違った赤ちゃんの育て方による病気の可能性があった。だが、このくる病と呼ばれる骨の成形に関わる病気などの場合のリスクは、知識さえあれば抑えることが可能なのだ。
「村の子供たちやお母さんからの聞き取りで、以前からいくつか危険なんじゃないかと思うことがあったんですよ。それが、貴族の子育てでは特に顕著なようなので、それを中心に冊子を作ろうってことです」
私はなんとか理屈をつけて、本を作ることを決めた。但し、一般発売はベラミ妃のご出産を待つことにした。早く出版したい気持ちもあるが、大量の本を出版するためには相応の準備も必要であるし、この本をベラミ妃の出産祝賀記念のものにすることで皇宮から予算をもぎ取り販売価格を下げ、より買いやすくしたいという意図もある。
そして、いち早く一冊だけ作るこの本は〝シド帝国育児秘伝書〟という仰々しいタイトルにして、さらに仰々しい豪華な箔押し製本でご立派に作ることになった。
「これが確かな情報なら、ロームバルトに対しての痛烈な意趣返しになるだろう。こちらを蛮族と決めつけて教養では叶うまいとタカをくくっているロームバルトへ知識を贈るとは。いいぞ、メイロード」
「別に私はそういうつもりじゃないんですけどね。いや、本当に幼児期は色々危ないことがありますから、とにかくお知らせしたいだけなんです」
子育てには特に興味のないおじさまは、リアーナ皇后にいい報告ができそうだというので、満足しているようだ。
「あと、この冊子は早めの出版も考えてくださいね。大事なことが書いてありますから」
「わかったわかった。この豪華本をロームバルトに納品してから、簡易版の出版を考えるさ。さっきの記念出版というのも、いい案だ。皇宮が人々のことを考えているという慈悲深さを与えられるだろうから、お前の言うように援助をもらえるだろう。どちらにとってもいい話だ」
この件については、早く普及させたい知識なので〝メイロード〟の名前を使ってもらってもいいです。本当は嫌ですけど、その方が売れるなら、今回は使ってください。
「お前がそこまで言うとは珍しいな。だが、今回はお前の名前は出さないほうがいいだろう。お前が子供だということは多くの人が知っているからな。たとえ知識が正しくとも、信用を得るのは難しいだろう」
「なるほど……では、御宣託を受けた人物が伝えた知識だということにしてはどうでしょう? それならば、受け入れやすいのではないですか?」
この世界は、私のいた世界よりずっと神との距離が近い。人々はお告げといったものを信じる傾向があるし、間違った内容でなく、確実に効果が出てくればさらに信頼度が上がる。こうした情報の流布は神への信仰を守ることにもつながるので、伝播力もとても強い。
「おい、そうなるとやっぱりお前の名前を出すことになるぞ。うってつけだろう〝聖女メイロード〟が神より授けられた知識をお伝えしましょう……って感じでいくのが一番しっくりくる」
「いやいや、聖女認定だけは勘弁してください。架空の人物でいいじゃないですか! 内容は保証しますから!」
そこからはしばらくゴタゴタしたが、さすがに聖女認定は困るので、結局架空の聖女の残した御宣託に関する書物が発見された、ということにしてその内容を出版することになった、という設定に決まった。先代のイスの孤児院で院長を務めていたシスターファリタという方の残したもの、という触れ込みも決まり、〝神様からの教えーーシスターファリタの育児書〟というタイトルに決まった。
「勝手に名前を使っていいんですか? 実在なんですよね、シスターファリタ」
「あ? ああ、シスターファリタはそんなことを気にするような人じゃなかったから心配するな。子供たちのためならば、きっと喜んで名前を貸してくれるよ。俺も晩年しか知らないが、そういう人だった」
話を聞けば、生涯を貧しい子供たちのために捧げたシスターファリタの生き方は、この本にふさわしいもので、彼女の名前をつけさせてもらえたことは喜ばしいことだと思えた。
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