利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

543 謎の混雑

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543

セジャムの街の入り口もまた、とても混みあっていた。

(大きな街はどこも人の出入りが多くなるから、どうしても入場まで時間がかかるんだよね)

「あれ? なんだかいつもより人が多い気がする。ここまで入り口の門が混んでいることはないはずなんだけど……」

ここの街には何度も来ているというトルルも困惑気味だ。確かに混雑はひどくて、このままだと入るのに二時間待ちという感じ。列ものろのろとしか動かないので、私たちの後ろに並んでいた子供を連れた行商人らしき人もため息をついている。五歳ぐらいのその男の子は、お父さんに気を使って元気そうにしているが、おそらくここへたどり着くまでかなりの距離を歩いてきただろう、時々荷物にもたれかかるようにして足をかばっていた。

「あの、だいぶ時間がかかりそうなので、ちょっとお茶でも飲もうかと思うんですけど、ご一緒にいかがですか?」

私はその行商人らしき男性につい声をかけてしまった。男性はとても驚いた表情を見せたが、人の好さそうな笑顔でありがとうと言ってくれた。彼もまたのどの渇きを覚えていたのだろう。

「もうすぐだと思っていたので、持っていた水ももう子供に飲ませてしまっておりまして……汗をかいたせいか喉が渇いていたのですよ。ありがとう、お嬢さん」

私はごく普通のバスケットに見えるよう手作りのカバーで偽装したマジックバッグの中から、よく冷やしたハーブティーを取り出し、木製のカップへと注いだ。ソーヤが素早く受け取って皆に配ってくれ、私もこの親子連れと立ったままお茶を楽しんだ。

「ああ、お茶だけというのも寂しいですね。これ“芋きんつば”っていうお菓子なんですが、甘いものは疲れが取れますから、おひとつどうぞ」

私の言葉にトルルも自慢げにすすめる。

「これ、うちの里の芋とはちみつを使っているの。おいしいですよ」

少年はあっという間に、お菓子のとりこになったようですごい勢いで食べ始めた。

「これ、ライル! 先にお礼を言いなさい!」

父親の言葉に、はっとしたライル少年は、口にお菓子を入れたまま、あわててありがとうを言った。私とトルルは笑って、気にしなくていいといいながら、少年の口をぬぐい、もうひとつ“芋きんつば”をその小さな手のひらに置いた。

お茶を飲みながら話を聞いてみると、やはり男性はこの辺りの村々をまわる行商人をしており、このセジャムに自宅兼商店を持っていた。店主が行商に出ている間は店番をしてくれる奥さんが、身重で体調がすぐれず子供の世話までは難しいかったので、決まった日に行くことになっている近場の仕事に息子のライルを連れて行ったのだそうだ。

「それにしても、この混雑は参りました。聞いた話ですが、この街の近くに新しいダンジョンができたらしくて、近くにいた冒険者たちだけじゃなく、それを聞きつけた近くの村々の腕自慢やそれにまつわる商売をしようという人たちが一気に集まってきているんですよ。まぁ、景気のいい話で街にとってはいいことなんですが……」

いい素材が得られるダンジョンができるということは、近隣の街にとっては一種のゴールドラッシュだ。ただし、魔物が出るダンジョンには街の人はそう簡単には入れない。それでも、たくさんの冒険者がやってきて、彼らが飲み食いし、道具を揃えるためにお金を使ってくれ、さらにダンジョンで得られた素材をギルドへ売ってくれるとなれば、巡りめぐって街の景気は良くなっていく。

「私もあまり詳しくは知らないのですが、どうやらこのダンジョンの浅い部分はすでにかなり攻略が進んでいるそうで、素材が多いだけじゃなく、あまり強い敵がいないという噂で、それほど入るのは難しくないらしいんですよ。それを聞きつけたんでしょうね。近隣の村の者まで冒険者に交じってやってきてしまって、このありさまです……」

「なるほど、そうだったんですね」

私は列に並ぶ人々を見て納得した。道理で冒険者っぽくない人が多いわけだ。

「お嬢様たちは、まさか冒険者……ということはないですよね。このセジャムでお買い物ですか?」

彼の問いに、自分たちが国立魔法学校の生徒で“天舟アマフネ”に乗るためにここへやってきたことを告げると、彼は大袈裟に驚いてこう言った。

「おお! おふたりは魔法使い様でございましたか。数日ご滞在になるのでしたら、ぜひ私の店へもおいでください。私もしばらくはセジャムの店におりますので、ぜひお礼にこの街の名物など……」

私はくすっと笑って言葉を継いた。

「お安くさせていただきますので、でしょう?」

魔法使いならば、懐も裕福だろうと考えたのだろう。学生の身分、しかも地方の平民出身の学生にそんな財力はありはしないのだが、一般の人々がそんな実情を詳しく知るはずもない。魔法使い=高給取りというイメージが強いのは、仕方がないことだと思うし、実際社会に出れば確かに稼ぐことができる職種ではある。ともかく〝魔法使い〟のブランド力により私たちは上客と値踏みされたらしい。商人としては当然店に来てもらいたいわけだ。

「いやいや、参りましたな。魔法使い様はさすが頭の出来も我々とは違いますねぇ、ははは」

少し気まずげに笑ったあと、彼は息子を抱き寄せ、優しげな表情を浮かべてこう言った。

「お嬢様、先ほどのお茶とお菓子は本当に美味いもので、長旅の疲れを親子共々癒していただきました。見ず知らずの者へのご厚情、なかなかできることではございません。本当にできる限りの勉強をさせていただきますので、ぜひお土産などお買い求めの際は“オルダン商店”にお越しください。息子とお待ちしております」

父の言葉をまねて、ライルも元気に満面の笑みで

「おまちしておりまっす!」

と言うので、そこでみんな笑ってしまった。

「ええ、時間があればぜひ寄らせていただきますね」

どうやら、セジャム滞在は楽しくなりそうだ。やっと見えてきた街を見ながら、私とトルルそしてオルダン親子は笑いあいながら長い行列を街に向かって進んでいった。
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