利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
379 / 840
3 魔法学校の聖人候補

568 セジャムへの帰還

しおりを挟む
568

地上に帰り着いた私たちは、セジャムの街に戻ったところで一時解散することになった。

徐々に面積が狭くなるという、このダンジョンの特徴に助けられてダンジョン後半はとても早く抜けられた。地図がしっかりできた帰り道は狩りも最小限しかせず、常時《裂風》と《強筋》をかけ続け、最短距離で進んで行けた。おかげで最初の予定より深い第11階層まで到達したのに、予定通り五日目の朝にはセジャムの街に戻ることができた。

ダンジョンから出て、明るい日差しを浴びたときには確かな達成感があり、みんなとてもいい笑顔をしていた。冒険者の方たちと連携をしながらのこのお仕事は、トルルの初ダンジョン体験としても、とても実りあるものだっただろう。

(そして改めてトルルのコミュニケーション能力の高さに感心した。案外こういう仕事は向いているみたいだ)

“剣士の荷馬車”の皆さんは、〝冒険者ギルド〟で帰還報告書を提出した後、今回作成した地図の買い取り交渉をするそうだ。“ヒールロック”の情報つきの第十一階層までの完全地図だ。きっと高値で引き取ってくれるに違いない。

私たちは〝魔術師ギルド〟にスフィロさんからサインをもらった依頼完了届を提出し、ギルドに預けられている私とトルルの報酬をもらい、その後、オルダンさんのところへ奥さんの様子を見に行くことにした。

「では、今夜のお食事は私たちにおごらせてください。おふたりがお泊りの“ミノンの宿”は食事も美味しいと聞いています。そこで祝勝会といきましょう」

スフィロさんがそう提案してくれたので、それまでは彼らと別行動になった。別れる前に私が保管している“ヒールロックの核”をスフィロさんに渡そうとしたのだが、いますぐ換金するわけではないので、そのままでいいと言われてしまった。

(なんだかものすごく信用されてるなぁ、ワタシ……)

その信頼の理由が少し気にはなるが、ともあれ、まずは“魔術師ギルド”での手続きだ。

「はい、依頼完了届を確認させていただきました。お疲れさまです」

受付にいた笑顔のお姉さんは、書類を受け取るとすぐに報酬の計算を手慣れた様子で始めた。この依頼完了届を提出するこの場所は、高い衝立ツイタテで仕切られたボックス席になっている。報酬を受け取る様子を他の人に見られないよう配慮されているのだ。魔法使いの場合報酬が高額になることも多いため、いらぬ争いに巻き込まれないよう、報酬の授受は目につかないほうが良いのだろう。

(冒険者ギルドはこういうところは開けっぴろげだものね。まぁ、報酬額が一ケタ違うとそうなるか……)

私の報酬は一日200ポルを五日分で1000ポル、トルルはその半分の500ポル。これでも、他の依頼票に示されていた額からすれば、半分以下だが、とはいえ学生には大金だ。

偶然だが、ゼリアン狩りと同じような報酬になった。そう考えると数時間で稼げたゼリアン狩りの方がずっと割りのいい仕事だと言えるが、これは基本費用でダンジョン内で得られた物品から得られる報酬は含まれていない。つまりこういった仕事の場合は、能力が高ければ高いほど多くの収入が加算されるわけだ。

とはいえ、現時点でもトルルはゼリアン狩りの報酬と合わせて1000ポルの大金を手にすることになった。

「すごい、この一週間で1000ポルも、夢みたい」

トルルはお金の半分を家族に送金、残りの半分はギルドに預けるそうだ。

「学校に必要なお金は狩猟同好会で帰ってから稼げばいいし、これは将来のために貯金する。“ヒールロックの核”は、いったいいくらになるのかわからないけど、それも貯金する。

……今回の経験でわかったの。私は全然役に立たないって」

「そんなことないよ。トルルのおかけで助かったよ」

私の言葉にトルルは首を振る。

「でも、マリスさんがいなかったら絶対あのお宝は手に入っていなかったし、地図だって作れなかった。魔法学校を卒業したからって、すぐにちゃんとお金がもらえるだけの仕事ができる魔法使いになれるわけじゃないってよくわかった。

だから、貯金しておくことにしたの。いざ仕事に出るとなったら活動費は必要になるもの。いまはしっかりお金を貯めておかなくちゃね」

どうやらトルルはこの短い魔術師体験で、いろいろと考えるところがあったようだ。若い魔術師に降りかかりやすい危険や求められている技術、その報酬の意味についても……

「私も“剣士の荷馬車”の人たちに一人前と認められるように早くなりたいなぁ」

トルルは彼らの仕事ぶりがとても気に入ったらしい。確かに堅実で無理をせず、いいチームワークでしっかり稼ぐ彼らのやり方はトルルにはぴったりだろう。

「それじゃ、ここですることは終わったし、オルダンさんのところへ行きましょうか」
「うん、奥さん元気になってるといいね。途中でお見舞いにお花を買っていこうよ」

私たちは“魔術師ギルド”を出ると、オルダンさんの店へと向かうため〝冒険者ギルド〟の前を通り進んで行った。近くに花屋さんを見つけたので、そこでお見舞い用の花を探していると、冒険者らしき人たちの声が聞こえてきた。

「おい! ついに“ヒールロック”狩りに成功したヤツが出たぞ!」
「地図も十一階層までできたらしい」
「攻略情報つきの地図はかなり高価になりそうだな……」

(さすが噂は早いわね)

セジャムの話題は“ヒールロック討伐”で持ち切りのようだ。

「なんだか、すごくうれしいっていうか、誇らしいっていうか、そういう気分よね」

みんなからすごいすごいと言われるのがよっぽど嬉しかったのだろう。トルルはいまにも自分が行ってきたのだとしゃべり出しそうだったので、慌てて袖をつかんで首を振り、黙っているようにたしなめる。初めての冒険、初めての成功、話したくて仕方がない気持ちはわかるが、少なくともここではだめだ。

での話をすることは、ここでは高値で売れる“情報”をたれ流すのと同じよ。言いたい気持ちはわかるけど、少なくともセジャム近郊では軽々しく話しちゃダメだよ」

トルルはものすごく残念そうだったが、大事なだということに納得してくれたようで口を指で作ったバツ印でふさぎ、そこからはあちこちでささやかれているダンジョンの話題を聞かないようにしながら、道を急いだ。

(おしゃべり大好きのトルルには辛いだろうけど、これも大事な経験だね)

“セジャムのなんでも屋”は開店していて、お店ではオルダンさんが機嫌よく店番をしていた。足の怪我もまったく問題なく治っているようだ。

「ああ、神様! 偉大なるマーブ神の御使い様!」

私が店に入った瞬間、オルダンさんは土下座の勢いで私の前にヒザマヅいて、涙ながらに聖天神教の神様に対する感謝らしきことを言い始めた。当然お店で買い物中の人はびっくり顔でこちらの注目している。

(これはまいったなぁ……)
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。