利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

588 試合直前

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588

私とオーライリが昨年と同じ選手控え室に入ると、すでに多くの選手が座っていたが、私たちの方に目を向けるものはなく、ほぼ無視された。

(まぁ、オーライリは前回予選敗退、私は一回戦敗退だからね。ライバル視されて睨まれるよりはずっとましかな……)

ただクローナだけは、私たちの方を見て一瞬笑顔を見せてから、真剣な顔をして頷き、すぐ私たちの方を見ないように目を逸らした。対戦相手である私とオーライリとは距離を置こうと考えているようだ。勝負事にストイックな彼女らしい。私は小さく手を振って〝わかってるよ〟という合図をしたあとは、近づかずにいることにした。オーライリも苦笑している。

(クローナはこういう時、本当に真剣だから〝お友だちモード〟で近づかない方がいいよね……)

出場選手が全員揃うと、昨年と同じく、控室で行われたくじ引きで対戦相手が決められた。

私の一回戦は、あまり面識のない男子生徒で成績優秀者のアドル・カイテル君。もちろん貴族。ちなみに今回の本戦出場者で貴族でないのは私とオーライリだけだ。

(まぁ、予選を勝ち上がってきているんだから、みんな優秀なんだけどね。私は今年も予選免除の推薦枠……昨年一回戦敗退なのになぜって思われてるだろうなぁ……)

当然嫌味やら文句やら言われそうなところだが、幸か不幸かこのひと月は、学校にほぼいなかったので、そういった批判を聞く機会もなかった。かといって私を推薦したシルベスター 生徒会長に直接文句を言えるような生徒もいないだろう。

私の推薦は、学校当局がグッケンス博士に気を使った結果だ、といった噂も流れているとは聞いた。私不在でまことしやかな噂はいろいろ飛び交ったようだが、結局また昨年のように一回戦で敗退して恥を晒すだけだ、といったところで下馬評はまとまっているらしい。

そのせいなのだろう、私が対戦相手と決まったとき、カイテル君はものすごくほっとした顔をしていた。当然と言えば当然だ。前年一回戦敗退の私……これで楽に魔法力を温存して次の対戦に向かえると思われても仕方がない。

カイテル君ももちろんだが、一年生は昨年の試合で学んでいる。

この“魔法競技会”で勝ち上がっていくためには、慎重な魔法力調整が不可欠だ。勝ち進むほどに、強敵と対戦しなければならず、大きく魔法力を消費せざるを得ないこの対戦形式では、手をうまく抜く場面を作る必要がある。一、二回戦でいかに省エネできるか、という個人の戦略もまたこの競技会における重要な要素なのだ。

自分の魔法力を温存しながらどうやって相手を攻略するか、その攻撃方法やタイミングを含めての競技なのだ。泣き言を言っても、魔法力がなくなれば昨年私と戦ったブレイアード君のように、勝ち上がりながらも戦えない状況に陥り、不名誉な棄権をすることになる。

(一回戦の相手として、私は手を抜けるいい相手だと思われてるよね、きっと……)

おそらく私の最初の対戦相手であるカイテル君は、大きく魔法力を消費する攻撃を極力避けてくるだろう。

一年生の試合よりもやや実戦に近い形式になる二年生の対戦は、基本的に陣地取りのような対人戦となる。人に対する直接攻撃は禁止だが、妨害や間接的な攻撃は可能。
相手の陣地内に置かれている目標物を奪いとる、もしくは破壊すれば勝ちとなる。目標物やフィールドは毎回始まるまでどんなものか教えてもらえないので、攻撃方法を事前に組み立てておくことは難しいが、セオリーはある。

最初はお互いに防御系の魔法で自陣を強化し、その後攻撃に移るのが基本的な戦い方だ。いかに自陣の強化を行い、攻撃へ移るまでの時間を短縮するかが重要となるので、魔法を操るスピードもとても重要となっている。

私の前の試合は、どれも似たような展開だったようで、オーライリは残念ながら防御魔法の構築に時間をかけすぎて、敵の攻撃をかわせず、惜しいところまで行ったのだが、結局一回戦敗退となってしまった。真面目で慎重なオーライリらしい負け方だ。

クローナは自陣の防御は最低限にした速攻で、攻めに攻めまくって敵陣の旗を燃やし尽くしたそうだ。

(なんてクローナらしい……)

だが、自陣の防御を手薄にしたことで、かなり危ないところまで攻め込まれてもいて、完勝というわけではなかった様子だ。控え室に帰ってきたクローナは黙ったまま唇を噛み、次の試合に備えようと休んでいた。

(だいぶ魔法力消費が大きかったみたいね。しっかり休めるといいけど……)

私は心配しながらも、やはり近づくことはせずクローナを遠くから見ていた。

「アドル・カイテル、メイロード・マリス! 競技場へ移動しなさい」

監督官の呼び出しがきた。私の〝絶対に負けられない魔法競技会〟の第一回戦が始まる。

「はい!」

そうしっかりと答えた私は、今日は隠すようなことをせず、長いままセーヤにセットしてもらった緑の髪を翻し、競技場へ向かって歩いて行った。

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