利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

590 決勝戦

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590

「え? 次の試合ないの?」

甲斐甲斐しく私にお茶を用意してくれたり、軽食を進めてくれるトルルが、知らせを聞いて驚いている。

なんと二回戦で、私が戦う予定だった相手が棄権してしまったというのだ。というか、倒れてしまって戦線離脱したというのが正しい。

どうやら対戦相手とあまりに拮抗した実力同士の対決だったようで、長期戦となりジリジリと攻防を続けることになったらしい。ついに業を煮やした片方が集中攻撃を行い勝利したのだが、撃破した方が試合直後に魔法力の過剰放出で昏倒した。

(貴族のおぼっちゃまは我慢が苦手だからなぁ……。それはダメだってわかってるはずなのに、目の前の勝負にこだわりすぎて大局が見えなくなってたのかな。それはそれで、魔法使いとしての資質に問題ありだよね)

一度それで死にかけた身としては、絶対やっちゃダメなことだとわかっているのだが、私のように極限まで魔法を使い切ることはあまりない。普通は躰の防御機能が働き、魔法力量が二割を切ると体調が悪くなり始め一割五分を切ると気を失うそうだ。

(魔法力が切れて死にかけるって……あんまりない経験をしちゃったんだなぁ……は、ははは)

一回戦の瞬殺がよっぽどインパクトが強かったのか、決勝戦が行われる時間になると、二年生の競技会としてはあり得ないほどの聴衆が観戦席に鈴なりになっていた。

そして幸か不幸か、不戦勝となった私が進んだ決勝戦。対戦相手は因縁のクローナ・サンス嬢。

(やっぱりか……)

クローナは基本的に力押しだが、良くこの競技会での戦い方を研究していた。多才に技を使い分け、効果的に《基礎魔法》を使っている。そのため、魔法力の消費を抑えられているのだ。

私の一回戦の様子を知っているとすれば、間違いなくクローナも速攻を仕掛けてくるだろう。

決勝では奪うべき旗の数が三本となり、二本先取で勝ちとなる。フィールドも広くなるため、どこを奪いどこを守るかという戦略がさらに複雑になる対戦だ。

《迷彩魔法》でコッソリ敵陣へ忍び込み、ちゃっちゃと旗を奪っちゃうというのもありだし、私としてはこういう省エネな魔法が好きなのだが、今回課せられたミッションではを強要されている。

それに相手はクローナだ。〝瞬殺〟するにしても、彼女の場合、完膚なきまでに圧勝してあげないと、返って禍根を残す気がする。私が友達だからと手を抜くのは彼女のプライドが許さない。クローナはそういう子だ。

私たちに用意されたのは広いフィールド上の三か所の木製の塔。2メートルほどで高くはないが、それぞれの距離が離れているため、防御が難しい。しかも、燃えやすい素材のため遠距離からの火系の魔法を使えば、どこからでも狙えるし狙われる。

(守るか攻めるか……これを防御魔法を使わずに、攻撃特化で攻略するのは難しいよね……ねぇ、クローナ?)

決勝戦、私とクローナはフィールド上で対峙した。

私と違いすでに二回戦っているクローナは、魔法力の消耗も大きいだろうにそんなことはおくびにも出さず、いつもの強気な様子を崩さない。

ワタクシ、昨年は優勝を逃してそれはそれは悔しい思いをいたしましたの。でもそれは戦闘とは違った勝負をさせられたからですわ。でも今年は直接こうしてあなたと対峙できたのです。私の実力、思う存分発揮させていただきますわ。あなたも、私のお友達なら決して手を抜いたりなさいませんように。私、いつでも真剣ですから」

仁王立ちのクローナのいつもの調子に、私はつい笑いそうになる頬を引き締めてうなずいた。

「私も全力でいくからね、クローナ」

勝負開始の合図とともにクローナは自陣の守りをすることなく攻撃を仕掛けてきた。攻撃は《火矢ファイヤーアロー》基礎魔法を組み合わせた炎を飛ばす魔法だ。守りを捨てた相変わらずの速攻だが、超速攻型の攻撃をするだろう私に対するには悪くない選択だ。

(速攻同士になって膠着するのは良くないな。一度出方を見るか……)

私は全体が見渡せる位置に立つと、魔法で四角い小さな石の塊を作り、それに座った。そして微笑んだままクローナの放った攻撃を捕捉し《的指定ターゲット》でその《火矢ファイヤーアロー》を同じ《火矢ファイヤーアロー》で叩き落とした。

その後は、三つの塔を狙い次から次へとフィールド中に打ち込まれるクローナの《火矢ファイヤーアロー》を、私がひとつ残らず正確に打ち落とし続けるという展開になった。

私が、座って微笑んだまま、すべての攻撃を攻撃でブロックする様子に、観客からは歓声が上がる。

「こんなことができるなんて信じられない……なんて正確で見事な捕捉なんだ。あんなこと可能なのか?」
「一体どれだけ訓練を積んだら、あんな正確な魔法が使えるようになるんだよ」

フィールド中に次から次へと放たれた三十ほどの《火矢ファイヤーアロー》を叩き落としたところで、クローナは打ち疲れたのか、次の攻撃を考えているのか、その手を止めた。体力もかなり消耗しているようで息遣いも荒い。

私はクローナが疲れて動きを止めたその隙に立ち上がり、攻撃に転じた。

火矢陣ファイヤーアローズ

私の言葉とともに、目の前には、六十本の《火矢ファイヤーアロー》が並び、私の指の動きに合わせて、正確に三方の木造の塔へと放たれた。

すかさずそれぞれの塔の前に《増幅》のための小さな球体を設置。それぞれ二十本の火矢は球体に一瞬吸い込まれた後、轟音とともに強力な火炎を放射した。クローナの陣地の三つの塔はあっという間に炎に包まれ、見る間に焼け落ちた。三つの旗も黒焦げだ。

この1分にも満たない間の速攻に、なすすべなく自陣の塔が焼け落ちる様子を見ていたクローナは、私の方を向き直ると目をキラキラとさせながら笑っていた。

「すごいわね! さすが私の好敵手だわ! うん、負けた! でも次は勝つ!」

私と爆風を受けて煤だらけのクローナは、笑顔で握手し試合を終えた。

聴衆は大歓声〝魔法競技会〟の歴史に残る名試合と絶賛されることとなった。
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