利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

597 人材確保

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597

「これはこれは、マリス伯爵様!」

サイデムおじさまが仕事の書類を手に持ったまま、妙に恭しく頭を下げつつもニヤニヤしながら私をいつもの執務室へと迎え入れた。

「もう! メイロードでいいですから! 《伝令》でお伝えした通り、領主って言っても、田舎の貧乏領地なんですから、伯爵っていっても名前だけです!」

おじさまは、相変わらず笑っている。私をからかうネタが増えて嬉しいのが丸わかりだ。

「まぁ、アーサーが突然現れた父親に領地を押し付けられそうだって話を困り顔でしていたからな。こんな日が来るかもな、とは思っていたんだ」

「知ってたんですか?!」

アーサー・マリスは、彼を探し出して先先代のシルベスター公爵が訪ねてきたときに、自分の出自についてすべてサイデムおじさまに伝えていたのだそうだ。

「まぁ、アーサーはまったく貴族に戻る気はなかったし、そのうち親父さんも亡くなっちまったから、その話も立ち消えになったと思っていたんだがな。巡り巡ってお前が領主とは……」

相変わらずおじさまは笑っているが、だとすれば……おじさまはずっと以前から私の出自を知っていたということ。
ならば私を公爵家に差し出すという、おじさまがずっと苦労してきた、上級貴族との強力なコネを簡単に作れる方法もあったはずだ。でも、おじさまはそんなそぶりすら見せたことがない。

(商売命のおじさまも、親友との絆のほうが大事なんだなぁ)

おじさまの私に対する処遇に感動していると、そのやさしいおじさまに頭を叩かれた。

「こら! ボケてる場合じゃないだろう! 仕事しろ!」

「人が感動してるのに……」

ともあれ、確かにいまは時間がない。ここにきた理由は、人材探しだ。いまの〝マリス領〟には税務局以外に動ける人材がいない。自治に任されていると言えば聞こえはいいが、まぁほったらかしだ。まずは早急に行政を整備しなければ、なにもできない。

実際に行ってみた税務局は、とてもしっかり仕事をしてくれていて、領内にも精通した人材が多く、これから役に立ってくれそうだ。できる限り増員して財務も任せていきたいと考えているが、さすがに彼らだけでは〝領地経営〟という大仕事はできない。ちゃんと機能する形で自領の維持管理をしていこうとすれば、実務に優れた人物や領地の運営に詳しい人材を確保しないと、策を打っていく準備すら困難だ。

それに信用できる人材であること以外にもうひとつ、であることも重要だ。この条件を満たすとなると、事情をよく知るおじさま経由で探すのが一番早い。

「うちの領地の運営を助けてくれそうな優秀な人材、見つかりそうでしょうか?」

事前に《伝令》でリクルートをお願いしていた私の言葉に、おじさまは資料とともにいく人かの名前をあげた。

「まずキッペイだ。この話がキッペイに伝わった直後から、絶対に行かせてくれと懇願されてる。正直、俺としては手元に置いておきたいんだが、とにかく絶対に譲らないって感じでなぁ……」

そのベビーフェイスの見た目で、いまではサイデム商会のアイドル、そして商人ギルドで最も使える男との評価も受けているキッペイの実務能力の高さはおじさまの折り紙付きだ。コミュニケーション能力もとても高く渉外担当としてもかなり期待できる。おじさまはすごく惜しそうだが、来てもらえるならぜひともお願いしたい。

「それからセイツェが、そろそろ引退したいと言ってきてたんだが、田舎暮らしができるならお前のところへ行ってもいいらしいぞ」

上流貴族の家で長く家令を勤められたセイツェさんは、私のマナーの先生でもある。新米貴族である私にとっては、これ以上ない人材だ。セイツェさんにのんびり田舎生活を過ごしてもらえるかどうかは私次第だろうが、ご無理をさせない程度にお手伝いいただくだけでも十分ありがたい。

「この男もどこから聞いたのか知らないが、ぜひ働かせてほしいそうだ」

次におじさまが名前を出したのは意外な人物だった。以前沿海州で味噌作りに取り組んだとき、タガローサからの密命を受けエジン先生の味噌蔵の妨害をしにきた人。当時ベザサールという偽名で私たちと敵対した本名ヘクトルだ。

あの事件を通して信仰に目覚め、極めて真面目な人物となったというところまでは知っていだが、その後の彼は非常に親切で有能な管理者として、評価される人物になっているという。

「タガローサのところでみっちり仕事をしていたらしくてな。商売の裏も表もよく知っている上、数字にも文章にも強いし管理能力もとても高い。なかなか使える男だ。タガローサの捨てたあの東の里の味噌蔵もきっちり立て直してみせたしな。こいつもお前のもとで働けるならどんなことでもする、っていう勢いでな……」

そういえば、あのとき私を神の使いとか言っていた気がする。あんまりそういう風に扱われたくはないけれど、確かに話を聞く限りその能力は魅力的だ。

「経理関係はシラン村協同組合の経理主任のガリオン、あれの娘婿のクバルがやりたいと言ってきている」

「ああ、イスにいたガリオンさんの娘さん一家、シラン村に移住したんですよね。ガリオンさんと一緒にシラン村協同組合で働いているとは聞いていましたが……そうですか、それは心強いですね」

軍備というか、自治領の自衛軍については、レストン・カラックさんに隊長になってもらい、自衛軍の整備などのアドバイザーにはイス警備隊の隊長モリック・パサードが付いてくれるそうだ。

「パサードはイスにも大事な男だから常駐はさせられんが、組織の編成や必要な武器の選定といった兵隊にしかわからないことは任せられる男だ。頼りにしていいぞ」

「助かります。そういうところは、私にはてんでわからないので……。それでも盗賊とか悪いことを企む人たちへの対抗手段はきっちり持っていないと、抑止力になりませんからね。もちろん魔物退治もしなければいけないでしょうし、災害時の復興支援ができる組織にもなれるよう見据えて準備しないと……」

おじさまはちょっと真面目な顔になる。

「わかっているか? これからお前はたくさんの役人や兵隊を食わせて行かなきゃならんのだ。領地経営は絶対に失敗してはならない。そんなことになれば、そこに住む人々すべての生活に影響が及ぶからだ。そのつもりで慎重に、だが大胆に動け。わかっているだろうが、厳しいぞ。いまの北東部には、おそらくお前の望むようなことがことができるような経済的基盤がない。小手先の改革ではジリ貧だ。時間をかけ過ぎれば資金が持たん!」

私もおじさまの目を見て、うなずく。

「ありがとうございます、サイデムおじさま。心して領主の大役努めます。おじさまとも大きな商取引ができる領地に、早くなれるように頑張ります」

私の財力をよく知っているおじさまはあえて資金提供を持ち出さなかった。だがおじさまに借りないというだけで、どちらにせよ最初は私費を投じざるを得ない。そして、それを続けて個人の資金で運営を回し続けている限り、健全な領地経営にはならない。そのために、早く動いて結果を出せ、というおじさまのアドバイス、肝に銘じておこう。
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