430 / 840
4 聖人候補の領地経営
619 作戦の下準備
しおりを挟む
619
私がこの〝麦食い〟掃討作戦に街の人の協力を頼まず、誰もついてこなくていいと言ったのにはいくつか理由がある。
ひとつ目の理由は、いつものアレだ。そう、グッケンス博士たちにいつも呆れられているバケモノじみた魔法力を隠すため。
派手な魔法を惜しみなく何度も使うところを至近距離から大勢に見られて、いらぬ噂が立つことを避けたかった。私の魔法力量や戦闘能力を推察されそうな噂はできるかぎり立てたくない。貴族となったいま、私にはいままで以上の慎重さが必要なのだ。
この作戦のために私が考えている魔法は、なかなか大きなものなので、目にする人間は極力少なくしておくに限る。
(魔法が使えることを隠し立てする必要はもうないけど、だからといって目立ちすぎて変な人たちに目をつけられるなんて絶対いやだからね。特に軍部とか最悪! 魔法で名を売る気がない私としては、私の魔法に関する情報はもう徹底的に隠蔽したい。私の魔法の詳細は〝言わない・見せない・教えない〟を徹底していくんだ)
というわけで、そのための努力を惜しまない。
私はアタタガ・フライとともに上空から広域の《索敵》と《地形探査》を行い、この周囲に人がないことを確認し、敵のおおよその位置を掴んだ。〝麦食い〟の集団は、確かにとんでもない数のようだ。この大量の危険な攻撃をしてくる〝虫の形をした魔物〟を相手に、人の手だけで駆除を試みたら、地域の人たちにどれだけ被害が出るかわからない。
(やっぱり私がやるのが正解だよね)
まず、私は時間をかけて〝麦食い〟の生息地域周辺に《迷彩魔法》を施した《土障壁》を張り巡らせた。ちょうど魔法を使った工事現場の目隠し壁のようなもので、その場所の最も自然に見える景観だけが見える壁だ。きっと、周囲に人がいたら、いきなり〝麦食い〟が消え、ただの草原に戻ったように見えているだろう。虫の飛べる高さ以上にしてあるので、虫は逃げられないし、人も中へは入れない。これでよっぽどの上空から覗きでもしない限り、中で私がしている作業は外側の人は見えることもない。
《迷彩魔法》を施した壁をここまで広域に、一気に張り巡らせるのはかなりの魔法力を消費する。でも、私の魔法力量を持ってすれば大したことではないし、これは絶対必要な下準備だ。
唸りを上げる大量の虫を眼下に見て、再び鳥肌が立ち始めるのを無理やり押さえ込み、アタタガ・フライに侵入経路と決めた場所へと下ろしてもらう。
「ふぅ、これで周囲への配慮は大丈夫かな。それじゃ〝麦食い〟の生息地域へ入りますか……」
ここまできたら、もう仕事を終えるまで、自分の虫嫌いのことは考えないようにすると決めた私は《迷彩魔法》で自分の姿を消した。さらに私の躰の周りに《物理結界》を作った。三重の防壁を施したので何百匹襲ってきても〝麦食い〟の毒針による攻撃は、これで完璧の防げるはずだ。
防御を固めた私は意を決して、群れへと近づいていき、やはり倒れそうになった。まだまだ、距離的には本隊からは遠いのだが、それでもその凄まじい数ははっきりと視認できる。
それは、大量の点が集まった何かで、その点は常に動いている。そして、見渡す限りの草原がその〝点〟で埋め尽くされているのだ。
(これ、どれだけいるの?! 百万とかいうレベルじゃないよね……千万単位? いや、もっとだ……彼らが通ってきた草原地帯は、もうあらかた食い荒らされてる。本当に一刻の猶予もないわ、これ)
すべてを喰らい尽くして増殖する〝麦食い〟の被害は上空から見た時からわかってはいたが、間近から見るその惨状は目を覆いたくなるほどひどいものだった。これでは、他の動物たちの食料もなくなってしまう。
近づいたことで私の結界にも〝麦食い〟の攻撃が及び始めた。攻撃と言っても《迷彩魔法》で隠れている私が見えているわけではないから、ただ飛んできて《物理結界》に激突しているだけなのだろうが、ビタン、ビタンと結界に体当たりして、つぎつぎにグシャリとつぶれていくさまは見るに耐えない。それに、このままでは視界がこの死骸でうまってしまいそうだ。
「いやぁーー!! もう、あっちにいってーーー!!」
私はたまらず結界の外側に《雷鳴柱》を立てまくり、魔法の電柵を構築。結界の外側で〝麦食い〟を叩き落とすことにした。
この急ごしらえの魔法の電柵はうまく機能してくれて、そこからはもう防壁までたどり着く虫はいなくなり、私はあの虫が潰れるいやな音をそれ以上聞かずに済んだ。その代わりに電柵の外側に大量の虫が落ちているのは、見えないことにして気持ちを立て直す。
魔法の成否は集中力が大きく関係する。特にいまから私がやろうとしているような、複数の魔法を一定時間持続して正確に行使しなければならない魔法では、気の緩みは命取りだ。
大量の虫が動き回る不気味な羽音も、空さえ隠すほどの黒い集団の不気味さも、バチバチと電柵の周りに落ちる不気味な虫の様子も、いまだけは忘れる。
「よーし! 〝麦食い掃討作戦〟開始!」
私がこの〝麦食い〟掃討作戦に街の人の協力を頼まず、誰もついてこなくていいと言ったのにはいくつか理由がある。
ひとつ目の理由は、いつものアレだ。そう、グッケンス博士たちにいつも呆れられているバケモノじみた魔法力を隠すため。
派手な魔法を惜しみなく何度も使うところを至近距離から大勢に見られて、いらぬ噂が立つことを避けたかった。私の魔法力量や戦闘能力を推察されそうな噂はできるかぎり立てたくない。貴族となったいま、私にはいままで以上の慎重さが必要なのだ。
この作戦のために私が考えている魔法は、なかなか大きなものなので、目にする人間は極力少なくしておくに限る。
(魔法が使えることを隠し立てする必要はもうないけど、だからといって目立ちすぎて変な人たちに目をつけられるなんて絶対いやだからね。特に軍部とか最悪! 魔法で名を売る気がない私としては、私の魔法に関する情報はもう徹底的に隠蔽したい。私の魔法の詳細は〝言わない・見せない・教えない〟を徹底していくんだ)
というわけで、そのための努力を惜しまない。
私はアタタガ・フライとともに上空から広域の《索敵》と《地形探査》を行い、この周囲に人がないことを確認し、敵のおおよその位置を掴んだ。〝麦食い〟の集団は、確かにとんでもない数のようだ。この大量の危険な攻撃をしてくる〝虫の形をした魔物〟を相手に、人の手だけで駆除を試みたら、地域の人たちにどれだけ被害が出るかわからない。
(やっぱり私がやるのが正解だよね)
まず、私は時間をかけて〝麦食い〟の生息地域周辺に《迷彩魔法》を施した《土障壁》を張り巡らせた。ちょうど魔法を使った工事現場の目隠し壁のようなもので、その場所の最も自然に見える景観だけが見える壁だ。きっと、周囲に人がいたら、いきなり〝麦食い〟が消え、ただの草原に戻ったように見えているだろう。虫の飛べる高さ以上にしてあるので、虫は逃げられないし、人も中へは入れない。これでよっぽどの上空から覗きでもしない限り、中で私がしている作業は外側の人は見えることもない。
《迷彩魔法》を施した壁をここまで広域に、一気に張り巡らせるのはかなりの魔法力を消費する。でも、私の魔法力量を持ってすれば大したことではないし、これは絶対必要な下準備だ。
唸りを上げる大量の虫を眼下に見て、再び鳥肌が立ち始めるのを無理やり押さえ込み、アタタガ・フライに侵入経路と決めた場所へと下ろしてもらう。
「ふぅ、これで周囲への配慮は大丈夫かな。それじゃ〝麦食い〟の生息地域へ入りますか……」
ここまできたら、もう仕事を終えるまで、自分の虫嫌いのことは考えないようにすると決めた私は《迷彩魔法》で自分の姿を消した。さらに私の躰の周りに《物理結界》を作った。三重の防壁を施したので何百匹襲ってきても〝麦食い〟の毒針による攻撃は、これで完璧の防げるはずだ。
防御を固めた私は意を決して、群れへと近づいていき、やはり倒れそうになった。まだまだ、距離的には本隊からは遠いのだが、それでもその凄まじい数ははっきりと視認できる。
それは、大量の点が集まった何かで、その点は常に動いている。そして、見渡す限りの草原がその〝点〟で埋め尽くされているのだ。
(これ、どれだけいるの?! 百万とかいうレベルじゃないよね……千万単位? いや、もっとだ……彼らが通ってきた草原地帯は、もうあらかた食い荒らされてる。本当に一刻の猶予もないわ、これ)
すべてを喰らい尽くして増殖する〝麦食い〟の被害は上空から見た時からわかってはいたが、間近から見るその惨状は目を覆いたくなるほどひどいものだった。これでは、他の動物たちの食料もなくなってしまう。
近づいたことで私の結界にも〝麦食い〟の攻撃が及び始めた。攻撃と言っても《迷彩魔法》で隠れている私が見えているわけではないから、ただ飛んできて《物理結界》に激突しているだけなのだろうが、ビタン、ビタンと結界に体当たりして、つぎつぎにグシャリとつぶれていくさまは見るに耐えない。それに、このままでは視界がこの死骸でうまってしまいそうだ。
「いやぁーー!! もう、あっちにいってーーー!!」
私はたまらず結界の外側に《雷鳴柱》を立てまくり、魔法の電柵を構築。結界の外側で〝麦食い〟を叩き落とすことにした。
この急ごしらえの魔法の電柵はうまく機能してくれて、そこからはもう防壁までたどり着く虫はいなくなり、私はあの虫が潰れるいやな音をそれ以上聞かずに済んだ。その代わりに電柵の外側に大量の虫が落ちているのは、見えないことにして気持ちを立て直す。
魔法の成否は集中力が大きく関係する。特にいまから私がやろうとしているような、複数の魔法を一定時間持続して正確に行使しなければならない魔法では、気の緩みは命取りだ。
大量の虫が動き回る不気味な羽音も、空さえ隠すほどの黒い集団の不気味さも、バチバチと電柵の周りに落ちる不気味な虫の様子も、いまだけは忘れる。
「よーし! 〝麦食い掃討作戦〟開始!」
320
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。