利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
432 / 840
4 聖人候補の領地経営

621 大歓迎

しおりを挟む
621

(さて、次はどこに行こうか)

第七区の〝麦食い〟大量発生問題を解決した私が、次に向かうことにしたのは最も問題の多い第八区。

この地区はほかの地区と比較して、圧倒的に農地に適した土地が少ない。かといって、カングンのように山林を資源とすることも難しい。この地区の山は魔物だらけなのだ。

売り物になるいい樹木を育てるためには、手入れが欠かせないが、魔物が多いこの地区ではそれができない。そのため林業で生計を立てる人はごくわずかだ。それどころか、魔物との遭遇を避けるために森と人の住む地域の間に緩衝地を作らねばならず、それがさらに農地を少なくしている。

しかも、農地から得られる収入が少ないために、危険だと知りつつお金になる素材を得ようと森に入り命を落とす人たちは一向に減らない。

おそらく私が提供した新しい麦の種を使えば、いままでの倍近い収穫が得られるとは思うが、他の地域で得られる収穫と比較すれば、見劣りするだろうことは予想がつく。

(うーん、どうしてあげたらいいんだろう……)

アタタガの移動箱で、第八区の街“ソホス”へ向かいながら、私は考えを巡らせていた。

いつものように街に続く街道の近くで徒歩に切り替え、ソホスの街へと入る。今回は、やってくる時間もしっかり事前に伝えたので、私が門に近づくと、普段は開けられない大門を開けて、街の人々が迎えてくれた。

先頭には、先日の会議にも出席してくれたサシさんがいる。

「メイロードさま、この遠い地までようこそおいでくださいました。
先日はメイロードさまから土地神を祀る祠を建てるために過分なる費用を頂戴し、一同大変に感激しております」

サシさんによると、この第八区は土地神信仰が大変強い土地なのだそうだ。しかもこの地で信仰されている土地神は“魔物”なのだという。彼らは魔物におびえながらも、その討伐によって得られる食料やお金に依存しなければ生活できない。

そのために、恐れと敬う感情の両方を魔物に持っているのだという。その象徴は“ジャイアントボア”というこの地で一番多い魔獣で、多くの家にこの置物が飾られている。

いままでも魔物を祀る建物はあったそうだが、老朽化してかなりひどいことになっていたのだそうだ。貧しい彼らには、新しく立て直すようなゆとりはなく、何とかしたいという思いのまま、何十年も予算が立たないまま時間だけが過ぎていたそうだ。

「新しいご領主様が、私どもの大切にする神を祀るための祠を作る費用をお恵み下さるとお聞きした時には、街中で大騒ぎでございました」

サシさんを始め、皆さんキラキラして目で私を見ている。そして、一様にテンションが高い。

「明日は祠の完成を祝う祭りを開催する予定になっております。この近辺の歌自慢、踊り自慢、楽器自慢が集まり、土地神様とメイロードさまへの感謝を捧げさせていただきたく……」

この祭りへの参加、どうやら拒否権はなさそうだと私は判断した。

話を総合すると、この“祠開きの祭り”は、彼らにとって一大イベントのようで、皆命がけの勢いで準備してきたらしい。明日の祭りで歌や踊りを披露できる人たちを選ぶために、厳しい選考会が何度も行われ、血のにじむような練習に皆明け暮れてきたという。

(これを、結構ですと言って、蹴っていいわけがないよね)

「盛大な祭りになるのですね。とても楽しみです」

一様に紅潮した彼らに、他に何と言えばいいというのか。私は“私も祭りが見られてうれしいですよ”という態度を崩さないよう気を付けながら、彼らの祠建築の苦労話を聞き、祭りの準備の進捗状況を聞いた。

「以前からございました“魔物殿”という社の宮司が、三日三晩祈祷をとり行なっております。古い社から、メイロードさまがお恵み下さった社殿へ、神様にお渡りいただく儀式を明日は執り行う予定なのでございます」

「そうですか……」

どうも、小さな祠という雰囲気ではない。彼らはかなり立派な建物を作り上げてしまったようだ。

(まぁ、私が《無限回廊の扉》を隠して設置できる場所さえあればいいんだけどね)

「もちろん、メイロードさま専用の祈祷所は、ご指示の通りご用意しておりますのでご安心くださいませ。ご領主様自ら祈りを捧げてくださいますとは、本当にうれしいことでございます」

土地神に理解のある領主がよほどうれしいようで、この八区での私の好感度は爆上がりしている様子だ。お出迎えの後の移動も、なんだか大きな輿のようなものに乗せられて、かなりの大人数に担がれたまま、パレードみたいに宿まで運ばれたし、その間もあちこちから拍手やら声がかかり、花びらがふりまかれた。

私はそのあまりの大歓迎ぶりに戸惑いつつも、〝領主スマイル”を貼り付けて手を振り、沿道の人たちの声援に応えながらなんとか宿までたどり着いた。

(いきなり、パレードとか!? 領主ってこんなこともするわけ)

ご厚意だとわかってはいるものの、貴族的な慣習にまだ対応しきれない私は、明日はどうなることやらと、ちょっと憂鬱になりながら、夜のダイエット宴会を早めに抜け出し、案内された宿で早めの眠りについた。

だが、私は残念ながらすぐに眠りにはつけなかった……
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。