利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
447 / 840
4 聖人候補の領地経営

636 パレス菓子博覧会

しおりを挟む
636

その日の夜、私はイスのマリス邸の居間で、ややぐったりしながら、菓子勝負に駆り出されることになった顛末をセーヤとソーヤに話した。

「そういうわけで、おそらく相手の背後にはタガローサがいると思う。だから、後手ではあるけれど、相手のやり口の目星はなんとなくつくんだ。でも、確証はないから、相手のやろうとしていることの確認をふたりにお願いしたいの」

そして、私の前に神妙に座っているセーヤとソーヤに私は密命を伝える。

「お任せください、メイロードさま。必ずや、敵の作戦暴いてまいります!」
「なんだか頭にきますよね。食べ物をこんな争いの道具にするなんて! 絶対悪巧み見つけますから!」

こうしてベテランの隠密も真っ青の私のステルス妖精さんに、今回も敵に関する情報収集をお願いした。

「ふたりはやすやすと見つかったりはしないとは思うけど、決して無理はしないでね。約束よ」

私の言葉にうなずいたふたりは、すぐに部屋から消えた。あとは結果待ち……というわけにもいかない。対策を考えなくては。

(でも、今日は無理だわ……)

いろいろとディープな話を聞きすぎたせいか、さすがに精神的な疲労でぐったりだったため、その日はゆっくり温泉風魔石風呂に入って、早めに就寝した。

翌日は、朝からおじさまの家の居間に陣取り、書類を広げて対策を考えていた。
(対外的には、私はおじさまの家に泊めてもらっていることになっている。おじさまもそう思っているだろうけど、実際は、夜はイスの私邸に戻ってるんだけどね)

今回の話は、巷には〝パレス菓子博覧会〟としてすでに告知の上、宣伝されている。さすがに、不正疑惑を……と言った話を喧伝するのは外聞が悪いとのことで、パレスの人たちには、純粋にうまい菓子に投票して貰えば良いということになり、イベントをすることになったそうだ。

投票は住人登録証を示して記名された投票用紙をもらう形式なので、ひとりで複数の投票は行えない。投入時にも登録証を確認されるので人の票を使うこともできない。菓子を購入したときにもらえる店の名前が押された紙も投票時に回収するので、買わずに投票もできない。

帝国が主催するイベントでの不正は絶対に許してはならないと、妨害行為などを含め公正を欠く行為に対しては厳罰が課せられることも告知されている。もちろん投票を促すため、投票者には抽選で優勝した店の菓子が贈られたり、優先的に買う権利が与えられるという、楽しいイベントもついている。
自分で使ってもよし、この権利もまた売ればかなりの高値になるだろう。

では、出店する側はどういう形式かといえば、会場に同じ大きさの店を開き、店の商品を販売する。認められた範囲内での店の装飾、レイアウトは自由。商品は店の主力商品、新作商品、その店で取り扱うものならば何でもいいという。当日は半額まで値引きしていいが、定価を店頭に表示し、博覧会後にはそれぞれの店で必ずその値段で売り続けることが求められている。違反すれば失格、後日違反がわかった場合も失格の上厳罰となる。

ここにまずひとつ落とし穴。

うちの店〝カカオの誘惑〟の商品は、すでに半年先まで予約が入っている。店から持ち出せる商品などないのだ。もちろん、私が《生産の陣》を使えば、いくらでも量産は可能だが、店にも全然置いていないほどレアな商品が、屋台でドカドカ積み上げられているのはおかしいだろう。そんな職業倫理を疑われるようなことをすれば、店の評判にも傷がつく。

(つまり、既存のチョコレート菓子はこの勝負で使えないってことだ)

もちろん、これを相手は狙ってきている。たくさんの人たちに食べさせなければ、たくさんの票を集めることは不可能だ。これは、予約の取れない人気店〝カカオの誘惑〟が、人気すぎる故に、この勝負に必要な主力商品の在庫が用意できないことをわかって提案された勝負方法なのだ。

(おそらく、もうすでに向こうは大量の菓子の準備を終わらせているんだろうなぁ……)

相手の用意したルールがすでに決まっていて、異議も言えずに従わなければならないこの状況は最悪だ。

ここで二つ目の落とし穴。

この競技のルールとして、店で売る予定のない商品は使えない。だから、チョコレート専門店である〝カカオの誘惑〟はチョコレート縛りということになる。でも、大量のチョコレートは使えない。新商品を作るにしても、ものすごく制約が大きいのだ。

頭を抱える私のところへサイデムおじさまがやってきた。おじさまには屋台の発注をお願いしている。インパクトを出すため、チョコレート色で統一してもらう予定だ。

「おい、メイロード。まだ什器ジュウキの指定が何にもないが、どうするつもりだ? もう数日しかないんだからな!」

「そんなこと言われても、まだ何を売るかも決めてないのにわかるわけないじゃないですかぁ! 大体屋台で菓子を作るわけには……あ!」

そこから私はブツブツ言いながら考え始めた。

(そうか、そうだよね……せっかく屋台があるならそれを生かさなきゃ! あれとこれを使って……うん、いける!)

「おじさま、目立つ色の小袋の調達を大量にお願いします。千枚は欲しいかな。それに大きく〝カカオの誘惑〟って入れてもらって下さい。あと、このぐらいの大きさの紙箱用意できます?」

私は長方形の箱の大きさを手で示した。

「わかった、まかせろ! それにも屋号は入れるのか?」
「もちろん、大きく入れて下さい!」

おじさまは私の要望をノートに書き取ると、またすぐ何処かへと去っていった。人のことは言えないが、忙しい人だ。

やっと頭が動き出し、どうにかこちらの作戦の目星がつき、細かいことを考える余裕ができてきた頃、やっと1日が終わった。

(明日からは本格的な準備と試作かぁ……はぁ、間に合うかな)

しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。