利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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4 聖人候補の領地経営

643 新作

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643

すでに噂を聞いている人、試食をしたことのある人、そういう人たちの想像の中にあったのは、もちろんココア色のカステラだったのだが、開けた袋の中は真っ白だったのだ。

想像とあまりに違う外観に、恐る恐る袋の中からその白い塊を取り出した人々が口に入れると、驚きと美味しさに皆笑顔になってくれている。

「何これ、すごく甘いけど、中はちょっとほろ苦くていい香り!」
「この白い粉はなんだろう。甘い粉だ……こんなものがあるとはね。おどろいた!」
「真っ白な小さなカステラを割ると、茶色の断面が見えるの。とても綺麗ね。それに本当においしい!!」
「十個に一個、当たりのチョコレートソース入りがあるらしいよ。これかな……うわ、当たったよ! トロリとしていて最高だね!!」
「ええ、私も当てたい!」
「私も!」

周囲の声を聞く限り、今回の工夫は成功のようだ。

白い粉の正体は〝粉糖〟。つまり粉のような細かいお砂糖だ。
私はロームバルトの飴の木の産地アンクルーデに小さい領地をいただいているので、飴の木の樹液はいつでも手に入る。菓子作りに上白糖は欲しい素材だったので、飴の木を使ってその研究はしていた。今回は飴の木を乾燥させ、堅く結晶化したものを細かくすりつぶして粉状の砂糖を作っている。粉糖作りはものすごく手がかかる上に湿気を吸いやすく、なかなか厄介なのだが、そこは薬作りで鍛えた魔法がある私、振動系の魔法をうまく使って作り上げることができた。

(魔法を応用すれば、そんなに難しいことじゃないんだけど、魔法でこんなことをする人は、まぁこの世界にはいないかな)

この真っ白でふわふわのパウダーシュガーで甘さを強調したため、ココア生地の甘味を抑えほのかな苦味をつけて味のメリハリもつけた。もちろん、子供でも食べられる程度のものだが、甘すぎるよりもこの方が後を引く味になるし、お茶などの飲み物との相性もいい。

さらなるお楽しみとして、十個に一個の〝当たり〟もつけてみた。ごく少量なので、これくらいの量のチョコレートなら許されると判断して、おまけ的に使い、ついでに〝カカオの誘惑〟の主力商品であるチョコレートのアピールもしてみた。

お客様の反応に私がほくそ笑んでいると、甲高い女性の声が聞こえてきた。

(おっと、どうやらマルコとロッコのパフォーマンスが始まったみたいね)

華麗なスパチュラさばきで、ココア入りの生地のクレープを華麗に作るふたりに、お嬢様たちが群がっている。
このクレープを作る道具は、フライパンのヘリを落として作った急ごしらえのクレープパンだが、魔石コンロを使っているおかげで温度管理は完璧にできているため、思ったより使い勝手は良さそうだ。

この日のためにマルコとロッコは完璧にクレープ作りをモノにしてくれていて、かっこよく生地を跳ね上げたりするパフォーマンスも決めてくれて、大いに客を盛り上げている。

その横では、鈴カステラを華麗な手捌きで作るソーヤの姿。こちらには子供たちが釘付けだ。この屋台ではチョコレートで目鼻をつけて薄切りのアーモンドの耳をつけ串に刺したものをサービスとして子供たちに提供していく予定だ。

(こういうものがあると、お祭り感が出て楽しいよね)

「うへぇ、こりゃえげつない勢いだなメイロード」

私の屋台に群がる人々の熱気に驚いた様子を見せながらやってきたのはサイデムおじさま。なぜおじさまがやってきたのかというと、私の入れ知恵で、会場に何店舗か飲み物の屋台を出すことを提案したからだ。それをおじさまが請け負っているので、おじさまもサイデム商会の屋台を監督にきている。

「飲み物の屋台は儲かっていますか、おじさま?」

「ああ、お前の予想通り、甘いものを食べ続けるためには、飲み物が必須のようでな。お前のところへ来た客は根こそぎもらってる。いやぁ、飲み物は原価率が低いからいい商売だ。スープ類もかなり売れてる、やはり塩気のあるものが欲しくなるようだな。明日からはパン系の屋台も入れるつもりだ」

おじさまは思わぬ儲けにホクホク顔で、私が特別にとっておいてあげたマルコたちの作り立てのココア生地を使ったクレープを食べている。これは会場限定の三角の紙に入ったオープンタイプのもの。中身は生クリームと甘く煮た林檎だ。

「本当はこれにもチョコレートソースをかけると、さらに美味しいんですが……」
私が残念そうに、そう言うのをおじさまが遮る。

「なんだよ、これバカうまいぞ!!」

おじさまは、大口でバクバクとあっという間にクレープを食べ尽くした。これもどちらかといえば甘味を抑えて、さらに林檎をキャラメリゼして香ばしさと苦味を足しているので、ちょっと大人味なのだ。それがうまいことおじさまにもハマったらしい。

「恐ろしい奴だな……こんな秘密兵器をこの短期間に投入してくるとは……」

気に入ったようなので、今度は四角に畳まれたクレープもご馳走する。

「こちらはお持ち帰り用に作ったものです。生クリームを使っているので日持ちはしませんけどね。中身は一緒ですよ」

おじさまは、手の上にちょこんの乗るサイズに畳まれたクレープを二口ぐらいで食べ切って満足げだ。

「もう少し味わって食べてくださいよぉ~」

苦笑する私に、おじさまは口を拭い、自分の店から運ばせたお茶を飲んでこう言った。

「勝てるな、メイロード!」

私も笑顔で返す。

「もちろん、そのつもりです」
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