利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
478 / 840
4 聖人候補の領地経営

667 畑の準備

しおりを挟む
667

「これで鏡を……かい?」
「はい。お願いできますか」

私が訪ねたのはイスにある〝ジスタン工房〟ここはイスの六傑(魔術師ギルドができたからいまは七傑なのかな?)と呼ばれる職人ギルドの代表者ナバフ・ジスタンさんの営む金属加工工房だ。

応接室に通された私はマジックバッグの中から、いくつかの大きな石を取り出した。正確にはそれは〝隕鉄〟という、純度の高い鉄が主成分の隕石だ。どうしてすっぱり切れているのかはわからないが、これの発見時、そのスッパリ綺麗に切れた断面が鏡のように光を反射することで〝イワムシ草〟に光を大量に与え、それによって〝イワムシ草〟は成長していた。

私はシド帝国で最も高い技術を持つ金属加工工房のひとつであるこの〝ジスタン工房〟に、この〝隕鉄〟を使った巨大な鏡の製作を依頼したのだ。

「この鉄を薄く大きく、できれば大人の身長の二倍以上の大きさまで伸ばして、薄い鉄板を作り磨いて欲しいのです」

私はまず第一に考えられるこの鉄の鏡を使う方法を試すため、その加工をお願いした。

「そしてもうひとつ、私の住むシラン村のガラス工房で、いま大きなガラスを作ってもらっています。その表面に銀を流して欲しいのです。それを、できるだけ多く50枚できれば100枚作っていただきたいのですが……できますか?」

もうひとつのアイディアとして私がお願いしたのは、ガラス表面への銀の析出を利用した鏡の製作だ。高校で習う化学実験〝銀鏡反応〟というやつを思い出して、もしかしたらと思い相談してみた。私もそう科学に明るいわけではないのだが、貴族たちが使っている鏡を見る限りその技術はありそうにみえたからだ。とはいえ、鏡はこの世界ではとても高価なもの。となると最高の技術が必要な高度な仕事なのだろう。

「かなり高価な材料になってしまうが、大丈夫か?」
「はい、いくら使っていただいても構いません」
「それにな……銀の鏡を作る技術はあることはあるんだが、ものすごく歩留まりが悪い……大きな鏡となれば成功できるとは約束できんのよ……」

親方は、私の望む大きな鏡へのハードルの高さを説明してれたが、それは私の想定内だった。

「これを試していただけませんか?」

私は粉末状のものが入った大きな瓶を取り出した。

「この白い粉は一体……?」

私はここで少しだけ声を潜めた。

「これは〝ブドウ糖〟別名〝グルコース〟と呼ばれるもので、食べ物です。今回はツテを使って極秘裏に入手しご用意しましたが、芋から取れるデンプンと酸を反応させることでも作ることができるものです。ただし、その場合は食用にはできませんけどね。

これを銀の鏡を作るときに混ぜて使ってみてください。きっと、良い結果になると思います」

私の言葉に、信じがたいという顔をしているが、粉の入った瓶を見るジスタン親方のその瞳は大きく見開いていた。

隕鉄を使った鏡は光を反射する用途として確かに使えるが、屋外での耐久性を考えると腐食しにくいガラスに硝酸銀を析出させた鏡も出来れば試してみたい。この世界でのこうした技術はまだ発展途上、親方にその技術があるかどうかも賭けではあったが、このグルコースというアイテムがあれば、きっと大きな鏡もできるに違いないと私は思っている。

(少しだけ親方にグルコースの生成についてのヒントも与えちゃったけど、まぁ、これはこの世界にすでにある物質を掛け合わせるだけだしね)

もしこの事業がうまく運べば、これから何度もお願いすることになるので、早くジスタン親方には生成法を確立して欲しい。このヒントはそのための先行投資ということで許してもらおう。

親方はそこでふっと笑った。

「なんでこんなことを、こんな小さいお嬢が知っておるのかねぇ……まぁ、いいさ。何をする気なのか知らないが、こいつは、おもしれぇな……わかった、やってやるよ!」

こうしてジスタン親方は、私の仕事を請け負ってくれた。これで第一段階はクリアだ。だが、他にも必要なものがある。私は今度はイスの芸人ギルドを訪ねた。代表であるケイト・マシアさんは、大歓迎してくれ、たくさんのお菓子を用意して歓待してくれた。それと同時に私の〝伝説〟を下敷きにしたたくさんの脚本も見せられたが……

「メイロードちゃんのお話は、とーっても創作意欲をかきたてるみたいで、いまもたくさん本が書かれているの、売れてるの。ほらほら、これなんか本当に感動的でいいお話なのよぉ。これを舞台化できないなんて、悲しすぎるでしょお」

どうやらサイデムおじさまに依頼していた〝メイロード・マリス〟に関する物語の舞台化は一切許可しないという約束は、ちゃんと守られているようだ。さすがに、サイデムおじさまから止められては、マシアさんも動きが取れないらしい。

(サイデムおじさまが無理なら、私から直接許可を得ようと……コリないなぁ)

「それはとても申し訳ないのですが、私はこれ以上目立つことはどうしてもしたくないので……ごめんなさい!」

「ああん、お姉さん悲しいわぁ、無念だわぁ」

細身でとても色っぽいマシアさんは、悲しそうな顔をしていてもとても綺麗だ。だが、マシアさんに会うたびにこの話を振られるので、お互いあいさつのようになっていて、それ以上は粘られることもなくは話に入ることができた。

「白い塗料?」

「はい屋外でも使えるなるべく白い塗料が大量に必要なのですが、お心当たりはありませんか? 芸術にお詳しいマシアさんなら、絵具や染料、塗料にもお詳しいのではないかと思いまして……」

私の言葉を聞いてマシアさんは秘書らしき人に耳打ちし、その後はしばらく茶飲み話をしながら楽しく過ごした。大人気のうちに上演できなくなった〝薔薇の騎士〟に代わり、いまは王妃を陰ながら守る謎の騎士を主役にした物語が大人気だそうだ。

(それ絶対、マリリア様とロームバルトに嫁がれたベラミ姫の話だよね。設定だけ微妙に変えて舞台化したのかぁ。そういえば、おふたりはあの激甘王国で元気にやってるかなぁ……)

そんなことを考えていると、秘書の方が箱を抱えて戻ってきた。

「こちらは絵具の、こちらは顔料の色見本でございます」

秘書さんがそこから取り出して見せてくれたのは、同じ大きさのタイル状のものに塗られたたくさんの白い色の塗料だった。

「屋外でのご使用ということならば、こちらの〝白岩ビャクガン〟という一部の高山でしか採取できない岩を細かく砕いたものを使用した塗料がよろしいのではございませんでしょうか」

それは確かにひときわは白く、岩が材料のため野外での劣化も少ないという理想的なものだった。

「完璧です。これを買いたいです!」
「承知いたしました。それではご用意しておきましょう」

秘書さんは、必要な量も金額も一切聞くことなく、にっこりと笑って部屋を出て行った。これはいくらでもモノは準備できるということであり、私がそれに見合う対価を支払えると信用してくれているということだ。

私はマシアさんに心から礼を言った。

「ありがとうございます。マシアさんの私への信頼は決して裏切りません。おかげで新しい仕事の準備が進められます」

私の言葉にマシアさんは艶然と微笑んでタバコを燻らせた。

「また、新しい伝説の始まりなのでしょうか……楽しみなことです。きっとまた素晴らしい脚本が増えますわね。ふふ……次にお会いするときには、きっと上演許可をくださいませ、ね、メイロードちゃん!」
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。