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4 聖人候補の領地経営
673 村の宴会は騒がしく始まった
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673
村の中央には、大きな火が焚かれ、辺りを明るく照らしている。その火を使って川魚や大きな肉、それに野菜も焼かれていて、もういい香りをあたりに漂わせていた。
すでに何度か村の周囲での狩りもしたそうで、今日は鹿肉を振る舞ってくれるそうだ。
皆さん、直に座るか薄い敷物を敷いた場所に座っていて、家族単位で場所をとっている。だが、男衆は集まって何か話しているし、女衆は料理や子供の世話で慌ただしくしているので、まだあまり落ち着いている人たちは少ない。
私のためには一段高くなった場所に、おそらくこの村で一番いい敷物とクッションが並べられた場所が用意されていて、どうやらそこに座っていて欲しいということらしい。
(私としては、村のお姉様方の作っているお料理を見たりしながら、ぜひうろちょろしたいところだけど〝ご領主様〟は、そうもいかないか……とりあえず最初だけは、おとなしくしていよっと)
恭しく差し出していただいた柑橘を絞って香りをつけたお水を飲みながら、私は所在なげにちんまりと座っていた。
駆け回る子供たちはご馳走の気配と、いつもと違う大人たちの様子に興奮しているようで、小さな子たちはひっきりなしに駆けずり回り、なかには私の様子をじっと見ている子たちもいたりして、なかなかに賑やかだ。
「おい、子供たちを少し静かにさせないか!」
私に気を使って、マズロさんが大きな声で女衆に向かってそう言ったが、私は笑顔でそれを制した。
「賑やかでいいじゃないですか。私は大丈夫ですから、どうぞ気になさらないでください」
「そ、そうですか……ありがとうございます。なんだか、いつもよりうるさくしてるんで……」
「それを言うなら、大人も結構うるさくしてますからね」
周りを見渡せば、初めてみた鏡の話や動く草の話を、大人たちも大いに興奮しながら語り合っている。
「はは……たしかに、俺……あ、いや私も含めて、みんなあんなものを見たのは初めてなんで、どうにも気持ちが昂っているようです」
マズロさんは頭を掻きながら苦笑いしているが、それは当然だろうと思うし、話し合ってくれるのは意欲があっていいことだ。
「〝イワムシ草〟は、いまでは沿海州でも少なくなってしまった植物ですし、シドの方はご存知なくて当然です。でも、これからはその性質を観察して研究していきましょう。たくさんより品質の良い〝イワムシ草〟が生産できるように、みんなで頑張っていきましょうね」
「はい、誠にそうでございますね。ここでしか作れない作物は、きっと村の名産品となりましょう。それが人の役に立つ貴重な植物となれば、私たちも誇らしくやる気も出ます」
実直で真面目なマズロさんが率いてくれるこの村は、きっといい仕事をしてくれるだろう。
私はこの村の〝イワムシ草〟栽培に関して、新たにふたつの働き方を提案した。専業ではなく、週の半分を私の畑で働く人たちだ。これは女性や他の仕事も持つ人々のために必要だと考えた。特に村が安定するまでは、私から支給される〝イワムシ草〟畑の仕事に対する給金が村人の大きな収入となるので、他の仕事を持つ人たちにも収入の機会を増やしておきたいと考えてのことだ。
「現状では、工房を持つ方も技術のある方も、それだけの専業では収入が足りないでしょうし、お子さんのいるご家庭でも働きたい女性もいらっしゃるでしょうから、半日の勤務などといった希望にも応じたいと考えています。そういった皆さんにも、時間に応じてきっちり賃金はお支払いする用意があることも皆さんに伝えてください」
「ご厚情痛み入ります」
これらの方法は、すでにシラン村のメイロード・ソース工場で取り入れているので、ノウハウはあるし、賃金の処理についてもシラン村から経理担当の方を招聘する予定だ。
「こんな風に不安なく、できたばかりの村で過ごせるなど、本当に夢のようで……以前の村では日照りが続き、草を噛むような日もありました。子供たちにも辛い日々だったと思います。この村に作られている畑は、土も素晴らしいですし、実っていた作物の質も素晴らしいものでした。あれだけでも、ここは天国かと思いましたよ。あれもメイロードさまが魔法でなされたのでございますか?」
「え、ああ、そんなところです。お役に立っているようでよかった」
私は《緑の手》の話をするわけにもいかないので、やや挙動不審になりつつごまかしながら話を続けようとした。だが、私の座る場所から見える視線の先の女の子が気になる。じっと私を見ている女の子は、五、六歳というところか。どうもその視線は、私の顔ではなく頭に向かっている様子だ。
(ああ、これかな)
私はその女の子を手招きした。
今日の私の服装は、パーティードレスのリメイクだ。何故、そんなことをしているのかというと、おじさまから貴族のパーティードレスは二度と同じものを公式の場では着られない、と聞かされたから。
ドレスはタンスの肥やしになるか、下げ渡されるのが普通だそうだ。だが、そんなもったいないことは絶対に許せない。それでなくとも、貴族用のドレス生地は最上級の貴重な布を使っている極上品。ほぼ新品のままのこれをただ死蔵するなんて私のクラフト魂が認めず、速攻でリメイクを開始した。
豪華すぎるレースはできる限り取り除き、動きやすいようひざがかくれるぐらいの長さの丈に調整し、こうした山の中の道でも歩けるよう、余った裏地を使ってドロワーズも作ってみた。
かなりドレスダウンはしたものの、もとの質が良いだけに、リメイクしても明らかに〝貴族仕様〟だとわかるカジュアルドレスが仕上がったので、こうして〝領主〟をしているときにはちょうどいいだろうと着てきたわけだが……
「これが気になるのね」
私は山歩きの邪魔にならないよう、髪を束ねていたシュシュを外し、女の子に笑顔で差し出した。
村の中央には、大きな火が焚かれ、辺りを明るく照らしている。その火を使って川魚や大きな肉、それに野菜も焼かれていて、もういい香りをあたりに漂わせていた。
すでに何度か村の周囲での狩りもしたそうで、今日は鹿肉を振る舞ってくれるそうだ。
皆さん、直に座るか薄い敷物を敷いた場所に座っていて、家族単位で場所をとっている。だが、男衆は集まって何か話しているし、女衆は料理や子供の世話で慌ただしくしているので、まだあまり落ち着いている人たちは少ない。
私のためには一段高くなった場所に、おそらくこの村で一番いい敷物とクッションが並べられた場所が用意されていて、どうやらそこに座っていて欲しいということらしい。
(私としては、村のお姉様方の作っているお料理を見たりしながら、ぜひうろちょろしたいところだけど〝ご領主様〟は、そうもいかないか……とりあえず最初だけは、おとなしくしていよっと)
恭しく差し出していただいた柑橘を絞って香りをつけたお水を飲みながら、私は所在なげにちんまりと座っていた。
駆け回る子供たちはご馳走の気配と、いつもと違う大人たちの様子に興奮しているようで、小さな子たちはひっきりなしに駆けずり回り、なかには私の様子をじっと見ている子たちもいたりして、なかなかに賑やかだ。
「おい、子供たちを少し静かにさせないか!」
私に気を使って、マズロさんが大きな声で女衆に向かってそう言ったが、私は笑顔でそれを制した。
「賑やかでいいじゃないですか。私は大丈夫ですから、どうぞ気になさらないでください」
「そ、そうですか……ありがとうございます。なんだか、いつもよりうるさくしてるんで……」
「それを言うなら、大人も結構うるさくしてますからね」
周りを見渡せば、初めてみた鏡の話や動く草の話を、大人たちも大いに興奮しながら語り合っている。
「はは……たしかに、俺……あ、いや私も含めて、みんなあんなものを見たのは初めてなんで、どうにも気持ちが昂っているようです」
マズロさんは頭を掻きながら苦笑いしているが、それは当然だろうと思うし、話し合ってくれるのは意欲があっていいことだ。
「〝イワムシ草〟は、いまでは沿海州でも少なくなってしまった植物ですし、シドの方はご存知なくて当然です。でも、これからはその性質を観察して研究していきましょう。たくさんより品質の良い〝イワムシ草〟が生産できるように、みんなで頑張っていきましょうね」
「はい、誠にそうでございますね。ここでしか作れない作物は、きっと村の名産品となりましょう。それが人の役に立つ貴重な植物となれば、私たちも誇らしくやる気も出ます」
実直で真面目なマズロさんが率いてくれるこの村は、きっといい仕事をしてくれるだろう。
私はこの村の〝イワムシ草〟栽培に関して、新たにふたつの働き方を提案した。専業ではなく、週の半分を私の畑で働く人たちだ。これは女性や他の仕事も持つ人々のために必要だと考えた。特に村が安定するまでは、私から支給される〝イワムシ草〟畑の仕事に対する給金が村人の大きな収入となるので、他の仕事を持つ人たちにも収入の機会を増やしておきたいと考えてのことだ。
「現状では、工房を持つ方も技術のある方も、それだけの専業では収入が足りないでしょうし、お子さんのいるご家庭でも働きたい女性もいらっしゃるでしょうから、半日の勤務などといった希望にも応じたいと考えています。そういった皆さんにも、時間に応じてきっちり賃金はお支払いする用意があることも皆さんに伝えてください」
「ご厚情痛み入ります」
これらの方法は、すでにシラン村のメイロード・ソース工場で取り入れているので、ノウハウはあるし、賃金の処理についてもシラン村から経理担当の方を招聘する予定だ。
「こんな風に不安なく、できたばかりの村で過ごせるなど、本当に夢のようで……以前の村では日照りが続き、草を噛むような日もありました。子供たちにも辛い日々だったと思います。この村に作られている畑は、土も素晴らしいですし、実っていた作物の質も素晴らしいものでした。あれだけでも、ここは天国かと思いましたよ。あれもメイロードさまが魔法でなされたのでございますか?」
「え、ああ、そんなところです。お役に立っているようでよかった」
私は《緑の手》の話をするわけにもいかないので、やや挙動不審になりつつごまかしながら話を続けようとした。だが、私の座る場所から見える視線の先の女の子が気になる。じっと私を見ている女の子は、五、六歳というところか。どうもその視線は、私の顔ではなく頭に向かっている様子だ。
(ああ、これかな)
私はその女の子を手招きした。
今日の私の服装は、パーティードレスのリメイクだ。何故、そんなことをしているのかというと、おじさまから貴族のパーティードレスは二度と同じものを公式の場では着られない、と聞かされたから。
ドレスはタンスの肥やしになるか、下げ渡されるのが普通だそうだ。だが、そんなもったいないことは絶対に許せない。それでなくとも、貴族用のドレス生地は最上級の貴重な布を使っている極上品。ほぼ新品のままのこれをただ死蔵するなんて私のクラフト魂が認めず、速攻でリメイクを開始した。
豪華すぎるレースはできる限り取り除き、動きやすいようひざがかくれるぐらいの長さの丈に調整し、こうした山の中の道でも歩けるよう、余った裏地を使ってドロワーズも作ってみた。
かなりドレスダウンはしたものの、もとの質が良いだけに、リメイクしても明らかに〝貴族仕様〟だとわかるカジュアルドレスが仕上がったので、こうして〝領主〟をしているときにはちょうどいいだろうと着てきたわけだが……
「これが気になるのね」
私は山歩きの邪魔にならないよう、髪を束ねていたシュシュを外し、女の子に笑顔で差し出した。
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