利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
538 / 840
4 聖人候補の領地経営

727 不利な条件

しおりを挟む
727

そして、あっという間に〝覇者決定戦〟の日はやってきた。

この〝孤児院〟には、特に競技場といった施設はなく、こうした魔法競技が行われる場合、多くの子供たちに見学させるため、広場に《土魔法》を使った簡易的なベンチを作りそこで観戦をすることになっているそうだ。

(なるほど、これはどこでも使えて便利よね)

この簡易競技場も下位の組の子供たちの中で《土魔法》の使える子たちが、数日かけて魔法で作り上げたものだ。これも魔法訓練だといえばそうかもしれないが、相変わらず子供たちを魔法が使える〝労働力〟として便利に使っている感じがする。

当日の朝、私は用意された八組の者だけが着られる、明らかに下位の組の子供たちが着ているものとは素材の質からまったくちがう服に袖を通した。そして白地に金の刺繍が襟と袖口に施されたローブを身にまとい、他の四人に続いて最後に会場へと入っていった。

すると、私の登場とともに、観戦席の子供たちからびっくりするほど大きな歓声が上がった。

「メイロードさまーー! 頑張ってくださーい!」
「メイロードさま、応援してますーー!」
「がんばれぇーー!」

期せずして、ここ数日の〝奉仕活動〟は、私の大応援団を子供たちの中に作ってしまったようだ。先生方も、かつてこれほどひとりに対して、子供たちが熱烈に応援する様子を見たことがなかったらしく、かなり戸惑いを見せている。

笑顔で手を振る私に、またわっと大きな歓声が響く。他の四人の出場者は予想もしなかった展開に苦々しげに私を見ているが、私は平然とした顔でみんなの声援を受け止め、初手から主役の座をかっさらってみせた。

(ふふ、私のクッキーや焼き芋、美味しかったんだね。まぁ別に、これは意図したことじゃないんだけど、みんなが私に親近感を持ってくれるのはありがたいし、これが挑発になって他の出場者の頭に血が上ってくれたら、こちらはやりやすいしね。ここは素直に喜んでおこうっと)

入場から新参者がスター扱いされ、対戦者四人の学園トップだというプライドをいたく傷つけることになったこの〝覇王決定戦〟。きっとどの子も完膚なきまでに私をやっつけてやろうと魔法を繰り出してくるだろう。

だが、ハンス・グッケンス博士の内弟子として修行を積んできた私を舐めてもらっては困る。彼らが知る魔術師との格の違いを、私はしっかり教えてあげるつもりだ。

とはいえこの試合、もともと新参者の私には非常に不利なルールになっている。

なぜなら、すでに八組にいる四人の序列は確定しているため、今回の〝覇者決定戦〟は私がどの位置に入るかを確定するための試合ということになり、必然的に私は四人と順番に対戦することになるからだ。

当然試合が重なるほど魔法力が削られるわけで、試合をたくさんこなせばこなすだけ、使える魔法力量は減っていき、苦しい立場に立たされることになるのだ。

彼らが結託しているとすれば、最初の相手である序列四位のバグースード君から、私の魔法力を削りにくると考えられる。試合の展開を長引かせ、私にたくさんの魔法力を使わせて、その上で自ら仕留めようと考えているだろう。

(まぁ、私に負けるとは四人の誰ひとりも思っていなさそうだけどね)

試合の勝敗は、相手が倒れた場合に決し、倒れなかった場合でも、審判を務める〝先生〟が一方のそれ以上の試合続行が不能と判定した場合もそこで勝敗が決まる。本人による降参の意思表示も有効だ。いずれにせよ必ず判定により優劣を決し、引き分けはない。

第一試合をする太めで躰の大きいバグースード君についての子供たちからの評判は、いわゆる〝ガキ大将〟のそれだった。暴力的で、気に入らない相手には魔法だけでなく直接的な暴力も加えている。体格がいい上に、食事も十分与えられている八組のバグースード君と、そうでない寮の子では勝負にならないことをわかっていて喧嘩をふっかけてくるというタチの悪さだ。禁止されているはずの私闘も八組の子は〝教育的指導〟でまかり通ってしまうというのだから、あとはお察しだ。

バグースード君の魔法は《土魔法》の中でも、岩石を扱う魔法に特化している特殊なものだ。石礫を投げ飛ばすだけの魔法だが、大小さまざまな石をときには複数投げつけてくるその攻撃の殺傷能力は高く、彼の攻撃で怪我をさせられたり、骨折したという子も多くいた。

実は彼が自分の暴力性を抑えられないのには理由があると私は考えている。バグースード君は、この岩石系の魔法の適性が高いために、自らの躰の表面に薄い岩石のような硬い皮膚が形成されており、人から受ける殴る蹴る程度の攻撃はまったく効かないのだ。そのため、彼には人の痛みがまったく理解できず、想像すらできない。加減もわからないため、人を簡単に傷つけてしまう。

(どうやらナイフも簡単には通らないぐらい強いらしいんだよねぇ……ただし強烈な魔法攻撃を繰り返し使われたら、さすがに対抗できないみたいだけど)

「まぁ、頑張ってみなよ。俺には物理攻撃も魔法攻撃も痛くも痒くもないぜ」

バグースード君は、私がどう見ても小さく弱々しい子供のため、そこまで高い技能を有しているということを信じられずにいるようだ。基礎魔法程度の攻撃なら受けきれる自信もあるのだろう。でっぷりした躰で仁王立ちしながら、私を見下ろしている。

「それでは、ふたりとも位置についてください。試合始め!」

〝先生〟の合図で第一試合が始まった。予想通りバグースード君は、頭上にたくさんの石や岩を作ると、それを私に投げつけ始めた。かなりの数の石礫が私の方へ降ってきたが、そのときにはすでに私の《防御魔法》は完璧に展開済みだった。五重に張り巡らした《物理結界》はひとつの石も通さず、ここまで頑丈な防壁を築かなくても問題なさそうだった。

「チッ、なんだよ。守ってばかりじゃ勝負になんないだろ!」

彼を恐れて防御一辺倒になっていると考えたのか、なかなか反撃してこない相手にいらだったバグースード君は、更なる攻撃のため、いままでより大きな岩を頭上に作り始める。

(じゃ、そろそろご希望にお答えして反撃といきましょうか)

私は彼が岩を作るのに夢中になっている隙に、素早く魔法を放った。おそらく、彼が想像もしていなかっただろう、魔法を。
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。