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4 聖人候補の領地経営
735 最悪の環境
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735
「軽く吹っ飛ばす、みたいなことをおっしゃってましたけど、いやぁ、思った以上の衝撃をくらいました」
ソルトーニ君は、だいぶ綺麗になってきた頬やひたいの傷を隠しもせず、スッキリした笑顔で私にそう言った。
ここはソルトーニ君の部屋。あの〝覇者決定戦〟のあと、傷が治るまでの間療養中のソルトーニ君を私が見舞いに訪れたというところだ。
「ごめんね。私も対人であれを使ったのは初めてだったの。思った以上に強力だったみたい。ケガの具合はどう?』
「ご心配には及びません。見た目はだいぶ派手ですが、骨まではいってませんから……」
結構な飛距離で打ち付けられ、そのまま気絶して退場したソルトーニ君。打身と擦り傷は当初かなり派手な状態で、私を心配させた。だが、いまのソルトーニ君はベッドに躰を起こした姿だが、たしかにその顔は血色も悪くなく、むしろ以前より明るい雰囲気で元気そうに見える。
私はまず、ソルトーニ君の体調と精神状態について聞いてみた。
「こっそりいただいたあの魔法薬はご指示の通り少しづついただいています。あまり、急に傷が治っては怪しまれますからね。でも、おかげさまで見た目の傷以外はもう大丈夫です。一緒にいただいたお菓子も本当に美味しくて、少し食べるだけで力が湧いてくる気がします。頭の回転も心なしか良くなってきている気もしますね」
私はお見舞いに持ってきた花を飾りながら、部屋に音声を遮断する結界を張り巡らした。
「これで、ここでの会話は外には聞こえないし《索敵》で周囲の警戒もしているから、誰か近寄ればすぐにわかるわ。安心して話してね」
「随分と場慣れしておいでなのですね、メイロードさま。やはり、そういった関係の方なのでしょうか?」
「うーん、ちょっと複雑ね。とりあえず私はシドの軍部とは通じています。そのことについても最初から話すわね……」
私はそこから、私が出会ったこの〝孤児院〟出身の三人の年若い魔術師と彼らに着けられてた《契約の首輪》という禍々しい魔術師を隷属させる魔道具のこと、ここにいる子供たちの多くはおそらく正当な方法でやってきたわけではないだろうこと、そしてミサの中で繰り返し行われているアーティファクトを使った洗脳のことを話した。
「では、彼らは〝聖戦士〟としてではなく、奴隷にされていたということなのですね。しかも、ここにいるすべての大人たちはそれを承知しており、ここでの生活はそうして〝聖戦士〟になるのだと信じて売られていった魔術師たちからもたらされた金で運営されている可能性すらあると……なんてことだ」
ソルトーニ君は、下のクラスの子が主に年齢を理由に〝聖戦士〟として〝孤児院〟を出ていくことを不思議に思っていたらしい。
彼らを送り出すその光景は〝孤児院〟が常日頃言っている最高の魔法力で民を導く〝光の子〟〝聖戦士〟のことを考えると違和感を覚えたが、他の子供たちはあまりそういったことは感じていないようだったそうだ。
「僕は歴史書を読んだり、いろいろなことを覚えるのが好きでした。ですが、あるとき気づいたんです。月に一度の〝特別礼拝〟のあとは、思考力が鈍り、物覚も悪くなることに……僕はそれがイヤだった」
ソルトーニ君は大好きな勉強を妨げられることに耐えられず、どうすれば〝特別礼拝〟を受けずに済むのかを考えたそうだ。
その観察の中で、反抗的な子や下の寮にいる子たちは必ず〝特別礼拝〟を受けており、先生たちに従順で能力が高い子たちは〝特別礼拝〟の時間すらも魔法修練のためにあてることが可能だと知った。
「あくまで個人的な勉強の妨げになるから避けようとした〝特別礼拝〟でしたが、それに行かずに済むようになり始めてから、急激に魔法の技術も高まり、さらに行く機会を減らすことができたんです」
ソルトーニ君の言葉には納得がいった。そして、それこそが、この〝孤児院〟で彼らが切望する〝光の子〟が誕生するに至らなかった大きな原因なのだと、私は思っている。あのアーティファクトは、従順な扱いやすい子供を作り出す一方で、人の心にフタをし考える力をも奪ってしまっているのだ。そうした思考の停滞や記憶力の低下、記憶の欠落を招くようなことを定期的に受けることは、魔法使いにとって最悪の環境なのだということを彼らは知らない。
理由はそれぞれ別だとしても、おそらく八組の子たちはソルトーニ君のように〝特別礼拝〟を少なくしたことで、他の子たちより抜きん出ることができた、ということも考えられる。
(ここは、最高の魔術師を望みながら、魔法習得には最低の環境を自ら作ってきたんだわ。なんてこと……)
「軽く吹っ飛ばす、みたいなことをおっしゃってましたけど、いやぁ、思った以上の衝撃をくらいました」
ソルトーニ君は、だいぶ綺麗になってきた頬やひたいの傷を隠しもせず、スッキリした笑顔で私にそう言った。
ここはソルトーニ君の部屋。あの〝覇者決定戦〟のあと、傷が治るまでの間療養中のソルトーニ君を私が見舞いに訪れたというところだ。
「ごめんね。私も対人であれを使ったのは初めてだったの。思った以上に強力だったみたい。ケガの具合はどう?』
「ご心配には及びません。見た目はだいぶ派手ですが、骨まではいってませんから……」
結構な飛距離で打ち付けられ、そのまま気絶して退場したソルトーニ君。打身と擦り傷は当初かなり派手な状態で、私を心配させた。だが、いまのソルトーニ君はベッドに躰を起こした姿だが、たしかにその顔は血色も悪くなく、むしろ以前より明るい雰囲気で元気そうに見える。
私はまず、ソルトーニ君の体調と精神状態について聞いてみた。
「こっそりいただいたあの魔法薬はご指示の通り少しづついただいています。あまり、急に傷が治っては怪しまれますからね。でも、おかげさまで見た目の傷以外はもう大丈夫です。一緒にいただいたお菓子も本当に美味しくて、少し食べるだけで力が湧いてくる気がします。頭の回転も心なしか良くなってきている気もしますね」
私はお見舞いに持ってきた花を飾りながら、部屋に音声を遮断する結界を張り巡らした。
「これで、ここでの会話は外には聞こえないし《索敵》で周囲の警戒もしているから、誰か近寄ればすぐにわかるわ。安心して話してね」
「随分と場慣れしておいでなのですね、メイロードさま。やはり、そういった関係の方なのでしょうか?」
「うーん、ちょっと複雑ね。とりあえず私はシドの軍部とは通じています。そのことについても最初から話すわね……」
私はそこから、私が出会ったこの〝孤児院〟出身の三人の年若い魔術師と彼らに着けられてた《契約の首輪》という禍々しい魔術師を隷属させる魔道具のこと、ここにいる子供たちの多くはおそらく正当な方法でやってきたわけではないだろうこと、そしてミサの中で繰り返し行われているアーティファクトを使った洗脳のことを話した。
「では、彼らは〝聖戦士〟としてではなく、奴隷にされていたということなのですね。しかも、ここにいるすべての大人たちはそれを承知しており、ここでの生活はそうして〝聖戦士〟になるのだと信じて売られていった魔術師たちからもたらされた金で運営されている可能性すらあると……なんてことだ」
ソルトーニ君は、下のクラスの子が主に年齢を理由に〝聖戦士〟として〝孤児院〟を出ていくことを不思議に思っていたらしい。
彼らを送り出すその光景は〝孤児院〟が常日頃言っている最高の魔法力で民を導く〝光の子〟〝聖戦士〟のことを考えると違和感を覚えたが、他の子供たちはあまりそういったことは感じていないようだったそうだ。
「僕は歴史書を読んだり、いろいろなことを覚えるのが好きでした。ですが、あるとき気づいたんです。月に一度の〝特別礼拝〟のあとは、思考力が鈍り、物覚も悪くなることに……僕はそれがイヤだった」
ソルトーニ君は大好きな勉強を妨げられることに耐えられず、どうすれば〝特別礼拝〟を受けずに済むのかを考えたそうだ。
その観察の中で、反抗的な子や下の寮にいる子たちは必ず〝特別礼拝〟を受けており、先生たちに従順で能力が高い子たちは〝特別礼拝〟の時間すらも魔法修練のためにあてることが可能だと知った。
「あくまで個人的な勉強の妨げになるから避けようとした〝特別礼拝〟でしたが、それに行かずに済むようになり始めてから、急激に魔法の技術も高まり、さらに行く機会を減らすことができたんです」
ソルトーニ君の言葉には納得がいった。そして、それこそが、この〝孤児院〟で彼らが切望する〝光の子〟が誕生するに至らなかった大きな原因なのだと、私は思っている。あのアーティファクトは、従順な扱いやすい子供を作り出す一方で、人の心にフタをし考える力をも奪ってしまっているのだ。そうした思考の停滞や記憶力の低下、記憶の欠落を招くようなことを定期的に受けることは、魔法使いにとって最悪の環境なのだということを彼らは知らない。
理由はそれぞれ別だとしても、おそらく八組の子たちはソルトーニ君のように〝特別礼拝〟を少なくしたことで、他の子たちより抜きん出ることができた、ということも考えられる。
(ここは、最高の魔術師を望みながら、魔法習得には最低の環境を自ら作ってきたんだわ。なんてこと……)
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