利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
546 / 840
4 聖人候補の領地経営

735 最悪の環境

しおりを挟む
735

「軽く吹っ飛ばす、みたいなことをおっしゃってましたけど、いやぁ、思った以上の衝撃をくらいました」

ソルトーニ君は、だいぶ綺麗になってきた頬やひたいの傷を隠しもせず、スッキリした笑顔で私にそう言った。

ここはソルトーニ君の部屋。あの〝覇者決定戦〟のあと、傷が治るまでの間療養中のソルトーニ君を私が見舞いに訪れたというところだ。

「ごめんね。私も対人であれを使ったのは初めてだったの。思った以上に強力だったみたい。ケガの具合はどう?』

「ご心配には及びません。見た目はだいぶ派手ですが、骨まではいってませんから……」

結構な飛距離で打ち付けられ、そのまま気絶して退場したソルトーニ君。打身と擦り傷は当初かなり派手な状態で、私を心配させた。だが、いまのソルトーニ君はベッドに躰を起こした姿だが、たしかにその顔は血色も悪くなく、むしろ以前より明るい雰囲気で元気そうに見える。

私はまず、ソルトーニ君の体調と精神状態について聞いてみた。

「こっそりいただいたあの魔法薬はご指示の通り少しづついただいています。あまり、急に傷が治っては怪しまれますからね。でも、おかげさまで見た目の傷以外はもう大丈夫です。一緒にいただいたお菓子も本当に美味しくて、少し食べるだけで力が湧いてくる気がします。頭の回転も心なしか良くなってきている気もしますね」

私はお見舞いに持ってきた花を飾りながら、部屋に音声を遮断する結界を張り巡らした。

「これで、ここでの会話は外には聞こえないし《索敵》で周囲の警戒もしているから、誰か近寄ればすぐにわかるわ。安心して話してね」

「随分と場慣れしておいでなのですね、メイロードさま。やはり、そういった関係の方なのでしょうか?」
「うーん、ちょっと複雑ね。とりあえず私はシドの軍部とは通じています。そのことについても最初から話すわね……」

私はそこから、私が出会ったこの〝孤児院〟出身の三人の年若い魔術師と彼らに着けられてた《契約の首輪》という禍々しい魔術師を隷属させる魔道具のこと、ここにいる子供たちの多くはおそらく正当な方法でやってきたわけではないだろうこと、そしてミサの中で繰り返し行われているアーティファクトを使った洗脳のことを話した。

「では、彼らは〝聖戦士〟としてではなく、奴隷にされていたということなのですね。しかも、ここにいるすべての大人たちはそれを承知しており、ここでの生活はそうして〝聖戦士〟になるのだと信じて売られていった魔術師たちからもたらされた金で運営されている可能性すらあると……なんてことだ」

ソルトーニ君は、下のクラスの子が主に年齢を理由に〝聖戦士〟として〝孤児院〟を出ていくことを不思議に思っていたらしい。

彼らを送り出すその光景は〝孤児院〟が常日頃言っている最高の魔法力で民を導く〝光の子〟〝聖戦士〟のことを考えると違和感を覚えたが、他の子供たちはあまりそういったことは感じていないようだったそうだ。

「僕は歴史書を読んだり、いろいろなことを覚えるのが好きでした。ですが、あるとき気づいたんです。月に一度の〝特別礼拝〟のあとは、思考力が鈍り、物覚も悪くなることに……僕はそれがイヤだった」

ソルトーニ君は大好きな勉強を妨げられることに耐えられず、どうすれば〝特別礼拝〟を受けずに済むのかを考えたそうだ。

その観察の中で、反抗的な子や下の寮にいる子たちは必ず〝特別礼拝〟を受けており、先生たちに従順で能力が高い子たちは〝特別礼拝〟の時間すらも魔法修練のためにあてることが可能だと知った。

「あくまで個人的な勉強の妨げになるから避けようとした〝特別礼拝〟でしたが、それに行かずに済むようになり始めてから、急激に魔法の技術も高まり、さらに行く機会を減らすことができたんです」

ソルトーニ君の言葉には納得がいった。そして、それこそが、この〝孤児院〟で彼らが切望する〝光の子〟が誕生するに至らなかった大きな原因なのだと、私は思っている。あのアーティファクトは、従順な扱いやすい子供を作り出す一方で、人の心にフタをし考える力をも奪ってしまっているのだ。そうした思考の停滞や記憶力の低下、記憶の欠落を招くようなことを定期的に受けることは、魔法使いにとって最悪の環境なのだということを彼らは知らない。

理由はそれぞれ別だとしても、おそらく八組の子たちはソルトーニ君のように〝特別礼拝〟を少なくしたことで、他の子たちより抜きん出ることができた、ということも考えられる。

(ここは、最高の魔術師を望みながら、魔法習得には最低の環境を自ら作ってきたんだわ。なんてこと……)
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。