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4 聖人候補の領地経営
786 賑やかな売り場
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サイデム商会の売り場は、以前より拡充している。
おじさまが〝帝国の代理人〟となったことに合わせて大規模な改築が行われたからだ。店の看板には皇宮御用達のエンブレムが掲げられ、店内もより洗練された〝イス風〟のスタイルに変更された。そしてそれに伴い、以前あった貴族専用のフロアを別の棟に移し、一、二階すべてを一般向けの売り場に改装したのだ。フロアデザインは女性を意識し、以前より明るい雰囲気に作り替え、ゴテゴテした装飾を排除した。この店舗デザインは、パレスの金ピカ路線とは一線を画した〝イスの美意識〟を体現したものになっており、とても素敵な売り場だと思う。
フロア内にはあらゆる地域から集められた一流の品物が並べられ、いくつか人気の商品では独立したブースを作り、よりきめ細かい顧客サービスが受けられるようになっている。そうした小さな専門店でお客様と店員さんがやりとりしている様子は、高級なデパートの雰囲気により近くなっている気がする。
客層に目を向ければ、貴族以外が対象とはいえ、ここはイス随一の高級商店なので、やはり富裕層という出立ちの方が多いし、特に女性はみなさん目一杯のおしゃれをして買い物に来ている。私はしばし女性たちのファッションを観察してみたが、やはりイスの女性たちは地方の人たちと比較すると格段におしゃれだ。だが、パレスともまた違う。貴族趣味と庶民のファンションが融合している感じで、個性的ではあるが派手さは抑え目だ。流行の髪型の人が多いパレスに比べ、その髪型も多様だし、着る物にも一手間加えているいる人が多い。うれしいことに私の手がけたシュシュの利用率もかなり高く、色とりどりのさまざまな髪飾りで使用されていた。どうやらシュシュ人気は定着してきているようだ。
以前私が〝香玉〟作りの副産物である〝ローズウオーター〟をここで売り出したとき、大々的に試供品を使って商品を広めて成功したことがあり、おじさまはそれから積極的にこの方法を取り入れている。
もちろんこの方法にはそれなりの費用が発生するので、この店の客筋の良さがあってのことではあるけれど、効果は絶大で、売り上げにはかなり貢献しているようだ。そういえば、この販売方法についてのロイヤリティを支払いたいとおじさまは言っていた。だが、この方法は見れば真似できてしまう方法なのでそれには値しないとお断りした。これは商品の一部を無料で提供するという英断ができるかどうか、という売り手の考え方の問題だ。
これが可能である、しっかりした在庫があり投資もできる商店は、残念ながらまだこの世界にはそう多くない。
(私の最初の商品〝メイロード・ソース〟だって《生産の陣》があったから、コストを考えずにいられたわけで、でなかったらやはり試食販売を大々的にすることは難しかったかもしれないなぁ……。大変だったもんなぁ、マヨネーズ作り……)
私は慣れない小さな躰で泡立て器片手に試行錯誤しながら作った、マリス商会の最初の商品のことを懐かしく思い出した。
(試食といえば〝金の籠〟の売り場も移動したんだよね)
〝金の籠〟は私の作った焼き菓子を中心とした菓子ブランドで、サイデム商会だけで販売しており、当然試食も行っている。私は店を探して周囲を見渡す。そして、どうやら食品系が集まっているらしい区画を見つけ、そこへと足を向けた。
途中、乾物や味噌の売り場を抜けると、そこには懐かしい沿海州産の商品が並んでいた。ラーメンの普及とともに、サイデム商会はいまでは沿海州と積極的に食品の取引をしているので、乾物も豊富に取り揃えられているが、輸送費もかかる上、品質重視のためかなりいいお値段ではある。まだまだ昆布を庶民が気軽に使う日は遠そうだ。生産量が増え、味噌の価格は全体的に下がってきているが〝西の森味噌〟は格段に貴重品扱いされ、高級品の位置づけで定着し、ここでもとても大事そうに展示されている。
(苦労した甲斐があったね。元気かなぁ、エジン先生。相変わらず研究頑張ってるんだろうな。また陣中見舞いに美味しいものを持っていこうっと)
そんなことを考えながら乾物売り場を抜けると、甘い香りの一角にたどり着いた。たくさんの人たちが並んでいるその店が〝金の籠〟だった。
以前は棚置きで、大きめの本棚ぐらいの場所に置いていたのだが、いまでは〝金の籠〟という素敵なロゴの看板があるカウンターになっていて、店前には見本商品。背後に商品を置くスタイルになっていた。
予約の方もかなり多いようで、決して安くはないというのに、かなり大量に買って行かれる方も多い。
(すっかり高級菓子として定着したみたいね)
この広い売り場には私とサイデムおじさまの思い出がたくさん詰まっている。私たちがいろいろ苦労しつつもなんとか商品化したものを、こうしてたくさんの人たちが喜び楽しみにしてくれていることは、素直にうれしいと思えた。
「うん、悪くないわ」
楽しそうにクッキーを抱えている人々を見ながら、私は笑顔で売り場を離れる。そろそろおじさまが執務室へ戻る時間だ。
サイデム商会の売り場は、以前より拡充している。
おじさまが〝帝国の代理人〟となったことに合わせて大規模な改築が行われたからだ。店の看板には皇宮御用達のエンブレムが掲げられ、店内もより洗練された〝イス風〟のスタイルに変更された。そしてそれに伴い、以前あった貴族専用のフロアを別の棟に移し、一、二階すべてを一般向けの売り場に改装したのだ。フロアデザインは女性を意識し、以前より明るい雰囲気に作り替え、ゴテゴテした装飾を排除した。この店舗デザインは、パレスの金ピカ路線とは一線を画した〝イスの美意識〟を体現したものになっており、とても素敵な売り場だと思う。
フロア内にはあらゆる地域から集められた一流の品物が並べられ、いくつか人気の商品では独立したブースを作り、よりきめ細かい顧客サービスが受けられるようになっている。そうした小さな専門店でお客様と店員さんがやりとりしている様子は、高級なデパートの雰囲気により近くなっている気がする。
客層に目を向ければ、貴族以外が対象とはいえ、ここはイス随一の高級商店なので、やはり富裕層という出立ちの方が多いし、特に女性はみなさん目一杯のおしゃれをして買い物に来ている。私はしばし女性たちのファッションを観察してみたが、やはりイスの女性たちは地方の人たちと比較すると格段におしゃれだ。だが、パレスともまた違う。貴族趣味と庶民のファンションが融合している感じで、個性的ではあるが派手さは抑え目だ。流行の髪型の人が多いパレスに比べ、その髪型も多様だし、着る物にも一手間加えているいる人が多い。うれしいことに私の手がけたシュシュの利用率もかなり高く、色とりどりのさまざまな髪飾りで使用されていた。どうやらシュシュ人気は定着してきているようだ。
以前私が〝香玉〟作りの副産物である〝ローズウオーター〟をここで売り出したとき、大々的に試供品を使って商品を広めて成功したことがあり、おじさまはそれから積極的にこの方法を取り入れている。
もちろんこの方法にはそれなりの費用が発生するので、この店の客筋の良さがあってのことではあるけれど、効果は絶大で、売り上げにはかなり貢献しているようだ。そういえば、この販売方法についてのロイヤリティを支払いたいとおじさまは言っていた。だが、この方法は見れば真似できてしまう方法なのでそれには値しないとお断りした。これは商品の一部を無料で提供するという英断ができるかどうか、という売り手の考え方の問題だ。
これが可能である、しっかりした在庫があり投資もできる商店は、残念ながらまだこの世界にはそう多くない。
(私の最初の商品〝メイロード・ソース〟だって《生産の陣》があったから、コストを考えずにいられたわけで、でなかったらやはり試食販売を大々的にすることは難しかったかもしれないなぁ……。大変だったもんなぁ、マヨネーズ作り……)
私は慣れない小さな躰で泡立て器片手に試行錯誤しながら作った、マリス商会の最初の商品のことを懐かしく思い出した。
(試食といえば〝金の籠〟の売り場も移動したんだよね)
〝金の籠〟は私の作った焼き菓子を中心とした菓子ブランドで、サイデム商会だけで販売しており、当然試食も行っている。私は店を探して周囲を見渡す。そして、どうやら食品系が集まっているらしい区画を見つけ、そこへと足を向けた。
途中、乾物や味噌の売り場を抜けると、そこには懐かしい沿海州産の商品が並んでいた。ラーメンの普及とともに、サイデム商会はいまでは沿海州と積極的に食品の取引をしているので、乾物も豊富に取り揃えられているが、輸送費もかかる上、品質重視のためかなりいいお値段ではある。まだまだ昆布を庶民が気軽に使う日は遠そうだ。生産量が増え、味噌の価格は全体的に下がってきているが〝西の森味噌〟は格段に貴重品扱いされ、高級品の位置づけで定着し、ここでもとても大事そうに展示されている。
(苦労した甲斐があったね。元気かなぁ、エジン先生。相変わらず研究頑張ってるんだろうな。また陣中見舞いに美味しいものを持っていこうっと)
そんなことを考えながら乾物売り場を抜けると、甘い香りの一角にたどり着いた。たくさんの人たちが並んでいるその店が〝金の籠〟だった。
以前は棚置きで、大きめの本棚ぐらいの場所に置いていたのだが、いまでは〝金の籠〟という素敵なロゴの看板があるカウンターになっていて、店前には見本商品。背後に商品を置くスタイルになっていた。
予約の方もかなり多いようで、決して安くはないというのに、かなり大量に買って行かれる方も多い。
(すっかり高級菓子として定着したみたいね)
この広い売り場には私とサイデムおじさまの思い出がたくさん詰まっている。私たちがいろいろ苦労しつつもなんとか商品化したものを、こうしてたくさんの人たちが喜び楽しみにしてくれていることは、素直にうれしいと思えた。
「うん、悪くないわ」
楽しそうにクッキーを抱えている人々を見ながら、私は笑顔で売り場を離れる。そろそろおじさまが執務室へ戻る時間だ。
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