利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
597 / 840
4 聖人候補の領地経営

786 賑やかな売り場

しおりを挟む
786

サイデム商会の売り場は、以前より拡充している。

おじさまが〝帝国の代理人〟となったことに合わせて大規模な改築が行われたからだ。店の看板には皇宮御用達のエンブレムが掲げられ、店内もより洗練された〝イス風〟のスタイルに変更された。そしてそれに伴い、以前あった貴族専用のフロアを別の棟に移し、一、二階すべてを一般向けの売り場に改装したのだ。フロアデザインは女性を意識し、以前より明るい雰囲気に作り替え、ゴテゴテした装飾を排除した。この店舗デザインは、パレスの金ピカ路線とは一線を画した〝イスの美意識〟を体現したものになっており、とても素敵な売り場だと思う。

フロア内にはあらゆる地域から集められた一流の品物が並べられ、いくつか人気の商品では独立したブースを作り、よりきめ細かい顧客サービスが受けられるようになっている。そうした小さな専門店でお客様と店員さんがやりとりしている様子は、高級なデパートの雰囲気により近くなっている気がする。

客層に目を向ければ、貴族以外が対象とはいえ、ここはイス随一の高級商店なので、やはり富裕層という出立ちの方が多いし、特に女性はみなさん目一杯のおしゃれをして買い物に来ている。私はしばし女性たちのファッションを観察してみたが、やはりイスの女性たちは地方の人たちと比較すると格段におしゃれだ。だが、パレスともまた違う。貴族趣味と庶民のファンションが融合している感じで、個性的ではあるが派手さは抑え目だ。流行の髪型の人が多いパレスに比べ、その髪型も多様だし、着る物にも一手間加えているいる人が多い。うれしいことに私の手がけたシュシュの利用率もかなり高く、色とりどりのさまざまな髪飾りで使用されていた。どうやらシュシュ人気は定着してきているようだ。

以前私が〝香玉〟作りの副産物である〝ローズウオーター〟をここで売り出したとき、大々的に試供品を使って商品を広めて成功したことがあり、おじさまはそれから積極的にこの方法を取り入れている。

もちろんこの方法にはそれなりの費用が発生するので、この店の客筋の良さがあってのことではあるけれど、効果は絶大で、売り上げにはかなり貢献しているようだ。そういえば、この販売方法についてのロイヤリティを支払いたいとおじさまは言っていた。だが、この方法は見れば真似できてしまう方法なのでそれには値しないとお断りした。これは商品の一部を無料で提供するという英断ができるかどうか、という売り手の考え方の問題だ。
これが可能である、しっかりした在庫があり投資もできる商店は、残念ながらまだこの世界にはそう多くない。

(私の最初の商品〝メイロード・ソース〟だって《生産の陣》があったから、コストを考えずにいられたわけで、でなかったらやはり試食販売を大々的にすることは難しかったかもしれないなぁ……。大変だったもんなぁ、マヨネーズ作り……)

私は慣れない小さな躰で泡立て器片手に試行錯誤しながら作った、マリス商会の最初の商品のことを懐かしく思い出した。

(試食といえば〝金の籠〟の売り場も移動したんだよね)

〝金の籠〟は私の作った焼き菓子を中心とした菓子ブランドで、サイデム商会だけで販売しており、当然試食も行っている。私は店を探して周囲を見渡す。そして、どうやら食品系が集まっているらしい区画を見つけ、そこへと足を向けた。

途中、乾物や味噌の売り場を抜けると、そこには懐かしい沿海州産の商品が並んでいた。ラーメンの普及とともに、サイデム商会はいまでは沿海州と積極的に食品の取引をしているので、乾物も豊富に取り揃えられているが、輸送費もかかる上、品質重視のためかなりいいお値段ではある。まだまだ昆布を庶民が気軽に使う日は遠そうだ。生産量が増え、味噌の価格は全体的に下がってきているが〝西の森味噌〟は格段に貴重品扱いされ、高級品の位置づけで定着し、ここでもとても大事そうに展示されている。

(苦労した甲斐があったね。元気かなぁ、エジン先生。相変わらず研究頑張ってるんだろうな。また陣中見舞いに美味しいものを持っていこうっと)

そんなことを考えながら乾物売り場を抜けると、甘い香りの一角にたどり着いた。たくさんの人たちが並んでいるその店が〝金の籠〟だった。

以前は棚置きで、大きめの本棚ぐらいの場所に置いていたのだが、いまでは〝金の籠〟という素敵なロゴの看板があるカウンターになっていて、店前には見本商品。背後に商品を置くスタイルになっていた。

予約の方もかなり多いようで、決して安くはないというのに、かなり大量に買って行かれる方も多い。

(すっかり高級菓子として定着したみたいね)

この広い売り場には私とサイデムおじさまの思い出がたくさん詰まっている。私たちがいろいろ苦労しつつもなんとか商品化したものを、こうしてたくさんの人たちが喜び楽しみにしてくれていることは、素直にうれしいと思えた。

「うん、悪くないわ」

楽しそうにクッキーを抱えている人々を見ながら、私は笑顔で売り場を離れる。そろそろおじさまが執務室へ戻る時間だ。
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。