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4 聖人候補の領地経営
789 筆頭秘書
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789
「それでは皆様のお荷物はこちらでお預かりさせていただき、ご用意させていただきましたお宿へと運ばせていただきますね。今回は、あまり余裕のあるご日程ではないとお伺いしておりますので、お疲れでなければ、早速〝サイデム商会〟にご案内させていただきます」
パレスのお嬢様方は〝帝国の代理人〟としてのおじさましか知らない。おじさまの伴侶となられるのであれば、サイデム商会の拠点であるここイスでのおじさまの立場や仕事について、まずは理解していただく必要があるだろう。
「もちろん、お買い物のためのお時間もたっぷり取らせていただきますので、イスの最新流行のお品物もじっくりご覧くださいませ」
私は深々と頭を下げて、令嬢たちに挨拶した。
「嬉しいわ、メイロード。でも、あなたが頭を下げるのはどうなのかしら? あなたはマリス伯爵家の当主なのですよ。こちらのお嬢様方よりも立場があるのですからね」
「おっしゃる通りではございますが、今回はお許しくださいませ。私はあくまでもご案内係として依頼を受けてこちらに参っております。皆様もどうぞお気を使われず、サイデムおじさまの親戚の子ぐらいに思ってくださいませ。ここでのご滞在中は、私の伯爵としての立場はお忘れいただき、気さくに接していただきますよう、心よりお願いいたします」
私の言葉にお嬢様方も少しほっとしたような表情をされている。
最初にこのことを明確に伝えておかないと、面倒な貴族の序列によって話しかける順番だの、面倒な挨拶のやりとりだのを毎回行う必要が出てきてしまう。もともとそうしたやり取りに慣れていない私にはこうした儀式的なやりとりは煩雑極まりないし、面倒でしかないので最初にできる限り回避させてもらうことにした。
ルミナーレ様は私のおよそ貴族らしからぬくだけた対応に苦笑されているが、おじさまの婚活のために動き回りたいという私の意向を汲んで黙認してくださるご様子だ。
(まぁ、パレスだとなかなかそうはいかないんだろうけどね。ここは自由が尊ばれる商業都市イスだから)
「仕方ありませんわね。では、皆様、今回はメイロードに対しては伯爵として接することはやめましょう。〝案内役〟として仲良くいたしましょうね」
ルミナーレ様の言葉に、お嬢様方は微笑んで頷いてくれた。
「ありがとうございます。皆様のイスご滞在が実り多きものとなりますよう、微力ながらお手伝いさせていただきます」
そう言いながら子供らしい明るい笑顔を向けた私に、皆さん笑顔を返してくれる。
(ふふ、おじさまのためにも印象は良くしておかなくちゃね)
今回の旅行は三泊四日の滞在という、貴族の旅行としてはとても慌ただしいものだ。
お忙しいルミナーレ様は、いまの時期そう長くパレスを離れてはいられないらしく、なかなかの強行軍。
それほどに、サガン・サイデムに取り次いで欲しいという話が多かった、ということなのだろう。
「ともかくわが家にはいま、侍従たちも頭を抱えるほどの紹介依頼状が舞い込んできているの。サイデムは人気者ね」
そう言ってルミナーレ様はコロコロ笑う。
通常の方法でサガン・サイデムとのツナギを取ろうとしても丁寧な断り状が送られてくるだけの状況に、どうしても見合いの場を持ちたい方々は、貴族特有のネットワークを駆使して、最終的におじさまが決して粗略には扱えないドール侯爵家へと紹介をお願いしている、ということのようだ。ルミナーレ様としてはすべてを無視することもできず、かといっていちいち対応もできず、困っていたらしい。
「ですのでね、この辺りで、一度収拾をつけてしまった方がいいと思ったの。こうしてメイロードにも会えて、いい旅行だわ」
サイデム商会に向かう馬車の中で、ルミナーレ様はとても楽しそうに私とお話をされていた。逆にお嬢様方はまだ少し緊張した面持ちだ。
彼女たちにとってもルミナーレ侯爵夫人は貴族社会の高みにある方で、憧れの対象だ。一緒の馬車で移動をすることになっても、気軽に話しかけられるような方ではない。
それが、迎えにきた小さな女伯爵メイロード・マリスとまるで家族のように気軽に楽しげの話し続けている。
(いったいこの子は誰?)
そんな疑問が浮かんでいるに違いない。おそらく彼女たちが持つ私の情報は、シルベスター 公爵家の血縁で若くして田舎の小さな領地を継ぐことになった者ということぐらいだろう。なにせ私はパレスの社交界にまったくと言っていいほど顔を出さないので、彼女たちもこうした〝紳士録〟に記載されている基礎情報以外は知りようもないし、知っているとしてもおじさまが私の後見人であるということぐらいだろう。
私も彼女たちの疑問を感じてはいるのだが、ルミナーレ様は私を離してくれる気配がなく、そのお相手をしているうちに、詳しく自己紹介をする隙がないまま馬車はサイデム商会へと到着してしまった。
「あちらに見えますのが、サイデム商会の誇る帝国でも最大規模を誇る広い売場面積を持つサイデム商会本店でございますが、貴族の皆様には落ち着いてお買い物を楽しんでいただけますよう、こちらの建物に個室をご用意しております。サロン風に整えましたお部屋で、ごゆっくりと厳選いたしました品物をご覧いただきながら、サイデム商会の者よりサガン・サイデムの仕事についてもご説明させていただきます」
新たに作られた貴族や富裕層専用の商談室を備えたこの建物は、いわゆる〝パレス様式〟の貴族趣味とは違う金ピカ要素を極力抑えた〝イス様式〟の高級建築だ。高級感は細工の見事さや置かれた調度品で演出し、金細工はポイントを絞って派手になりすぎないように取り入れられている。
今回皆さんをお通ししたのは中でも一番広い部屋で、この部屋の調度品は国宝級ばかりなのだそうだ。部屋の中はまるでティーサロンのようにしつらえられており、軽食やお菓子も数多く用意されていた。お嬢様方にご紹介したい商品は次の間に大量に用意されており、ここで優雅にお茶を楽しみながら、あれこれ気分よくショッピングを楽しんでいただこうというわけだ。お嬢様向けの商品が多いせいか、女性用品部門の顔見知りの子も応援に来ていた。
「まずは美味しいお茶を召し上がって、一息ついてくださいませ。これも、サイデム商会が新たに販路を開拓いたしました質の良い紅茶に香り高い花弁を合わせた、人気の商品でございます」
ここで私はお茶を楽しむ一堂に、サイデム商会の筆頭秘書キリさんを紹介した。彼女は長くサイデム商会に務め、サイデムおじさまの無茶苦茶な仕事量に翻弄されながらなんとか秘書たちを束ねているとても優秀な方だ。
(まぁ、この間全泣きで私にお礼の《伝令》を寄越したのもこのキリさんなんだけどね)
「それでは皆様のお荷物はこちらでお預かりさせていただき、ご用意させていただきましたお宿へと運ばせていただきますね。今回は、あまり余裕のあるご日程ではないとお伺いしておりますので、お疲れでなければ、早速〝サイデム商会〟にご案内させていただきます」
パレスのお嬢様方は〝帝国の代理人〟としてのおじさましか知らない。おじさまの伴侶となられるのであれば、サイデム商会の拠点であるここイスでのおじさまの立場や仕事について、まずは理解していただく必要があるだろう。
「もちろん、お買い物のためのお時間もたっぷり取らせていただきますので、イスの最新流行のお品物もじっくりご覧くださいませ」
私は深々と頭を下げて、令嬢たちに挨拶した。
「嬉しいわ、メイロード。でも、あなたが頭を下げるのはどうなのかしら? あなたはマリス伯爵家の当主なのですよ。こちらのお嬢様方よりも立場があるのですからね」
「おっしゃる通りではございますが、今回はお許しくださいませ。私はあくまでもご案内係として依頼を受けてこちらに参っております。皆様もどうぞお気を使われず、サイデムおじさまの親戚の子ぐらいに思ってくださいませ。ここでのご滞在中は、私の伯爵としての立場はお忘れいただき、気さくに接していただきますよう、心よりお願いいたします」
私の言葉にお嬢様方も少しほっとしたような表情をされている。
最初にこのことを明確に伝えておかないと、面倒な貴族の序列によって話しかける順番だの、面倒な挨拶のやりとりだのを毎回行う必要が出てきてしまう。もともとそうしたやり取りに慣れていない私にはこうした儀式的なやりとりは煩雑極まりないし、面倒でしかないので最初にできる限り回避させてもらうことにした。
ルミナーレ様は私のおよそ貴族らしからぬくだけた対応に苦笑されているが、おじさまの婚活のために動き回りたいという私の意向を汲んで黙認してくださるご様子だ。
(まぁ、パレスだとなかなかそうはいかないんだろうけどね。ここは自由が尊ばれる商業都市イスだから)
「仕方ありませんわね。では、皆様、今回はメイロードに対しては伯爵として接することはやめましょう。〝案内役〟として仲良くいたしましょうね」
ルミナーレ様の言葉に、お嬢様方は微笑んで頷いてくれた。
「ありがとうございます。皆様のイスご滞在が実り多きものとなりますよう、微力ながらお手伝いさせていただきます」
そう言いながら子供らしい明るい笑顔を向けた私に、皆さん笑顔を返してくれる。
(ふふ、おじさまのためにも印象は良くしておかなくちゃね)
今回の旅行は三泊四日の滞在という、貴族の旅行としてはとても慌ただしいものだ。
お忙しいルミナーレ様は、いまの時期そう長くパレスを離れてはいられないらしく、なかなかの強行軍。
それほどに、サガン・サイデムに取り次いで欲しいという話が多かった、ということなのだろう。
「ともかくわが家にはいま、侍従たちも頭を抱えるほどの紹介依頼状が舞い込んできているの。サイデムは人気者ね」
そう言ってルミナーレ様はコロコロ笑う。
通常の方法でサガン・サイデムとのツナギを取ろうとしても丁寧な断り状が送られてくるだけの状況に、どうしても見合いの場を持ちたい方々は、貴族特有のネットワークを駆使して、最終的におじさまが決して粗略には扱えないドール侯爵家へと紹介をお願いしている、ということのようだ。ルミナーレ様としてはすべてを無視することもできず、かといっていちいち対応もできず、困っていたらしい。
「ですのでね、この辺りで、一度収拾をつけてしまった方がいいと思ったの。こうしてメイロードにも会えて、いい旅行だわ」
サイデム商会に向かう馬車の中で、ルミナーレ様はとても楽しそうに私とお話をされていた。逆にお嬢様方はまだ少し緊張した面持ちだ。
彼女たちにとってもルミナーレ侯爵夫人は貴族社会の高みにある方で、憧れの対象だ。一緒の馬車で移動をすることになっても、気軽に話しかけられるような方ではない。
それが、迎えにきた小さな女伯爵メイロード・マリスとまるで家族のように気軽に楽しげの話し続けている。
(いったいこの子は誰?)
そんな疑問が浮かんでいるに違いない。おそらく彼女たちが持つ私の情報は、シルベスター 公爵家の血縁で若くして田舎の小さな領地を継ぐことになった者ということぐらいだろう。なにせ私はパレスの社交界にまったくと言っていいほど顔を出さないので、彼女たちもこうした〝紳士録〟に記載されている基礎情報以外は知りようもないし、知っているとしてもおじさまが私の後見人であるということぐらいだろう。
私も彼女たちの疑問を感じてはいるのだが、ルミナーレ様は私を離してくれる気配がなく、そのお相手をしているうちに、詳しく自己紹介をする隙がないまま馬車はサイデム商会へと到着してしまった。
「あちらに見えますのが、サイデム商会の誇る帝国でも最大規模を誇る広い売場面積を持つサイデム商会本店でございますが、貴族の皆様には落ち着いてお買い物を楽しんでいただけますよう、こちらの建物に個室をご用意しております。サロン風に整えましたお部屋で、ごゆっくりと厳選いたしました品物をご覧いただきながら、サイデム商会の者よりサガン・サイデムの仕事についてもご説明させていただきます」
新たに作られた貴族や富裕層専用の商談室を備えたこの建物は、いわゆる〝パレス様式〟の貴族趣味とは違う金ピカ要素を極力抑えた〝イス様式〟の高級建築だ。高級感は細工の見事さや置かれた調度品で演出し、金細工はポイントを絞って派手になりすぎないように取り入れられている。
今回皆さんをお通ししたのは中でも一番広い部屋で、この部屋の調度品は国宝級ばかりなのだそうだ。部屋の中はまるでティーサロンのようにしつらえられており、軽食やお菓子も数多く用意されていた。お嬢様方にご紹介したい商品は次の間に大量に用意されており、ここで優雅にお茶を楽しみながら、あれこれ気分よくショッピングを楽しんでいただこうというわけだ。お嬢様向けの商品が多いせいか、女性用品部門の顔見知りの子も応援に来ていた。
「まずは美味しいお茶を召し上がって、一息ついてくださいませ。これも、サイデム商会が新たに販路を開拓いたしました質の良い紅茶に香り高い花弁を合わせた、人気の商品でございます」
ここで私はお茶を楽しむ一堂に、サイデム商会の筆頭秘書キリさんを紹介した。彼女は長くサイデム商会に務め、サイデムおじさまの無茶苦茶な仕事量に翻弄されながらなんとか秘書たちを束ねているとても優秀な方だ。
(まぁ、この間全泣きで私にお礼の《伝令》を寄越したのもこのキリさんなんだけどね)
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