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6 謎の事件と聖人候補
866 調査報告
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866
「お疲れ様、どうだった魔術師部隊の様子は?」
偵察隊としての隠密活動を終えて戻ってきたセーヤとソーヤを、私は焼きたてのマルマッジ・マフィンとホットミルクを出しながら労った。
ソーヤは目を輝かせて、マフィンをもう口いっぱいに頬張っている。いつもながら見事な早業だ。
「いただきます! おお、このマルマッジの香りのマフィンとても美味しいですね。表面にはサクッとした食感もあり、中はしっとりとしていて食べやすい。上に皮ごと輪切りで乗っているのもとても良い見栄えです。さわやかな柑橘の風味とほのかな皮の苦みがまた……これはミルクにもお茶にもよく合いますね」
「ありがとうソーヤ。たくさんあるからゆっくり食べながら話してね」
「メイロードさま、私はともかく御髪を整えさせていただきたいのですが?」
「あー、はいはい。セーヤ、髪を梳かしながらでいいからは話してちょうだい」
「承知いたしました」
「承知いたしました」
そこから聞いた軍部の話は、思った以上に深刻だった。
軍部の中でも最も重要視されている〝魔術師〟部隊は帝国軍の攻防の要であり、その指揮系統の現在の頂点は第一皇子だ。もちろん帝国軍の頂点は皇帝ではあるが、重要な部隊の指揮権は将軍や皇子に委ねられており、未来の皇帝となる第一皇子ゼン・シドはその中でも最も重要な部隊である〝魔術師〟部隊が任せられているのだ。
「そうなると、その部隊内で問題が起これば、それはすなわちゼン皇子の責任っていうことで、彼の評価が下がるってことだよね」
「そうでございますね。幸い、現状では他の皇子たちが次の皇帝を狙うといった動きはありませんが、問題が表面化すればゼン皇子の立場が悪くなることは避けられないでしょう」
「現在のシド帝国が安定しているとはいえ、第一皇子の能力に不安を抱かせるような風評が立った場合、どんな政治的問題が浮上するかわかりませんからね」
「それに、この国では正式な後継者として認められるための〝立太子礼〟が終わるまでは、正式な皇太子と認められませんからね。来年には式典が行われる予定と聞いていますから、この微妙な時期に第一皇子の失策が公となるのはなんとしても避けたいでしょう」
「そうよね……当然、ゼン皇子は事態の一刻も早い終息を望んでいるわね」
いまはまだ部隊内の小さな不和だが、問題はそれを解決できない状況が長引くことだ。軍部で最も重要な部隊内での問題を、その長でありながら、次の皇帝たる第一皇子が解決できないという評価を受けることは、絶対に許されないのだ。
(それは個人としての評価を気にしているというより、むしろ政治的だったり外交的な理由ってことだよね。大変だなぁ……皇族も)
「その状況なら、極力内々に解決したいところよね? それなのにグッケンス博士を召喚したってことは、部隊内では早急な解決は望めないって判断があったということかな?」
「はい。特に今年入隊した子たちが、かなりの武闘派揃いなんですよ。先輩だからという理由で、自分たちが正当に評価されないのは〝魔術師〟部隊のためにならないと豪語しているんです。勝負すればどちらが優秀かはすぐにわかると息巻いているそうで、当然面白くない先輩〝魔術師〟たちも受けて立ち勝負しようとしていて、もう一触即発という状況だそうで……」
「でも、それでもし先輩たちが負けるようなことになったら、もう統制が取れなくなっちゃわない?」
「ええ、いまの状況では、どちらが勝っても負けても遺恨を残すだろうし、結果として著しい士気の低下は不可避だと、上層部は考えています。それで、いまは上官が試合の差し止めをしているのですが、それはそれで問題の先延ばしにしかならず、部隊の人間関係は最悪のままです」
「あちゃー〝魔術師〟の性格的弱点がよく出ている話よね。プライドが高くて、実力主義で、個人主義。およそ軍隊には向かいない連中をなんとか束ねていた均衡が、いままでと毛色の違う新入りたちの登場で一気に崩れたって感じよね」
「まさにその通りですね。魔法学校では〝先輩を敬う〟などという美徳は教えませんから、しかたのない部分はありますが、新しく入ってきた者たちは過剰に傲慢という印象です」
「特に新入りたちのリーダーになっているエンヴィー伯爵家の男が、とにかく試合試合と目の色を変えていました。実力が上の自分が部隊の一番下に置かれるということが我慢ならないようで、魔術師部隊に魔法学校のような完全実力主義を取り入れさせたいようでした」
「それはまた、極端な子が入っちゃったわね」
「ええ、この子はメイロードさまと同じく伯爵位を持つ貴族の家の出身ですが、あまり豊かとはいえない家のようで、自分の出世を〝魔術師〟としての能力に賭けているそうです。そのためなのでしょうが、極端な実力至上主義で魔法学校時代から有名でした。もちろん、首席の実力を持った優秀な〝魔術師〟ではありますが……」
「あなたたちの見立てでは、彼もまた若い魔術師にありがちな問題を抱えているわけね」
「はい、実力というものの考え方が学生のままですから」
「その辺りが突破口になりそう……かな?」
私はグッケンス博士に相談する内容を考えながら、だんだんモリモリになっていく髪型のことも気にせずハーブティーを飲んでいた。
「お疲れ様、どうだった魔術師部隊の様子は?」
偵察隊としての隠密活動を終えて戻ってきたセーヤとソーヤを、私は焼きたてのマルマッジ・マフィンとホットミルクを出しながら労った。
ソーヤは目を輝かせて、マフィンをもう口いっぱいに頬張っている。いつもながら見事な早業だ。
「いただきます! おお、このマルマッジの香りのマフィンとても美味しいですね。表面にはサクッとした食感もあり、中はしっとりとしていて食べやすい。上に皮ごと輪切りで乗っているのもとても良い見栄えです。さわやかな柑橘の風味とほのかな皮の苦みがまた……これはミルクにもお茶にもよく合いますね」
「ありがとうソーヤ。たくさんあるからゆっくり食べながら話してね」
「メイロードさま、私はともかく御髪を整えさせていただきたいのですが?」
「あー、はいはい。セーヤ、髪を梳かしながらでいいからは話してちょうだい」
「承知いたしました」
「承知いたしました」
そこから聞いた軍部の話は、思った以上に深刻だった。
軍部の中でも最も重要視されている〝魔術師〟部隊は帝国軍の攻防の要であり、その指揮系統の現在の頂点は第一皇子だ。もちろん帝国軍の頂点は皇帝ではあるが、重要な部隊の指揮権は将軍や皇子に委ねられており、未来の皇帝となる第一皇子ゼン・シドはその中でも最も重要な部隊である〝魔術師〟部隊が任せられているのだ。
「そうなると、その部隊内で問題が起これば、それはすなわちゼン皇子の責任っていうことで、彼の評価が下がるってことだよね」
「そうでございますね。幸い、現状では他の皇子たちが次の皇帝を狙うといった動きはありませんが、問題が表面化すればゼン皇子の立場が悪くなることは避けられないでしょう」
「現在のシド帝国が安定しているとはいえ、第一皇子の能力に不安を抱かせるような風評が立った場合、どんな政治的問題が浮上するかわかりませんからね」
「それに、この国では正式な後継者として認められるための〝立太子礼〟が終わるまでは、正式な皇太子と認められませんからね。来年には式典が行われる予定と聞いていますから、この微妙な時期に第一皇子の失策が公となるのはなんとしても避けたいでしょう」
「そうよね……当然、ゼン皇子は事態の一刻も早い終息を望んでいるわね」
いまはまだ部隊内の小さな不和だが、問題はそれを解決できない状況が長引くことだ。軍部で最も重要な部隊内での問題を、その長でありながら、次の皇帝たる第一皇子が解決できないという評価を受けることは、絶対に許されないのだ。
(それは個人としての評価を気にしているというより、むしろ政治的だったり外交的な理由ってことだよね。大変だなぁ……皇族も)
「その状況なら、極力内々に解決したいところよね? それなのにグッケンス博士を召喚したってことは、部隊内では早急な解決は望めないって判断があったということかな?」
「はい。特に今年入隊した子たちが、かなりの武闘派揃いなんですよ。先輩だからという理由で、自分たちが正当に評価されないのは〝魔術師〟部隊のためにならないと豪語しているんです。勝負すればどちらが優秀かはすぐにわかると息巻いているそうで、当然面白くない先輩〝魔術師〟たちも受けて立ち勝負しようとしていて、もう一触即発という状況だそうで……」
「でも、それでもし先輩たちが負けるようなことになったら、もう統制が取れなくなっちゃわない?」
「ええ、いまの状況では、どちらが勝っても負けても遺恨を残すだろうし、結果として著しい士気の低下は不可避だと、上層部は考えています。それで、いまは上官が試合の差し止めをしているのですが、それはそれで問題の先延ばしにしかならず、部隊の人間関係は最悪のままです」
「あちゃー〝魔術師〟の性格的弱点がよく出ている話よね。プライドが高くて、実力主義で、個人主義。およそ軍隊には向かいない連中をなんとか束ねていた均衡が、いままでと毛色の違う新入りたちの登場で一気に崩れたって感じよね」
「まさにその通りですね。魔法学校では〝先輩を敬う〟などという美徳は教えませんから、しかたのない部分はありますが、新しく入ってきた者たちは過剰に傲慢という印象です」
「特に新入りたちのリーダーになっているエンヴィー伯爵家の男が、とにかく試合試合と目の色を変えていました。実力が上の自分が部隊の一番下に置かれるということが我慢ならないようで、魔術師部隊に魔法学校のような完全実力主義を取り入れさせたいようでした」
「それはまた、極端な子が入っちゃったわね」
「ええ、この子はメイロードさまと同じく伯爵位を持つ貴族の家の出身ですが、あまり豊かとはいえない家のようで、自分の出世を〝魔術師〟としての能力に賭けているそうです。そのためなのでしょうが、極端な実力至上主義で魔法学校時代から有名でした。もちろん、首席の実力を持った優秀な〝魔術師〟ではありますが……」
「あなたたちの見立てでは、彼もまた若い魔術師にありがちな問題を抱えているわけね」
「はい、実力というものの考え方が学生のままですから」
「その辺りが突破口になりそう……かな?」
私はグッケンス博士に相談する内容を考えながら、だんだんモリモリになっていく髪型のことも気にせずハーブティーを飲んでいた。
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