利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
692 / 840
6 謎の事件と聖人候補

881 爆発事件翌日

しおりを挟む
881

イスという街は、とても噂に敏感な土地柄をしている。

商人たちはどんな些細なことが商売に結びつくかわからないと考えているため、いつも情報収集に余念がない。そもそも、国から発せられる一方的な公告以外に全国一斉に伝えることのできるメディアというものが存在しないこの世界では〝噂〟も立派な情報ツールなのだ。

昨夜の事件も朝には瓦版で一斉に報道され〝サガン・サイデム男爵とメイロード・マリス女伯爵が謎の爆発事件に巻き込まれた〟という情報は、イス中に広まった。

(まぁ、あの場にはたくさんの人がいたからね。それにおじさまと私はイスではあまりにも有名だからなぁ。コソコソ動き回ろうとしたけど、結局あの場で魔法を使ったり、指示出しをすることになっちゃったから、それなりに目立っただろうし……)

私は朝からサイデム商会にきている。

一応現場にいた当事者なので、何が起こったのか知りたかったし、今日はあの〝魔導ランプ〟の製造販売をしている店の担当者から事情が聞けるというのでやってきたのだ。

「噂のせいでマリス商会やイスの自宅には、朝から大量の花やお見舞い品が届けられて、ソーヤたちが対応に追われているんですよ。いや、心配してもらってありがたいんですけど、別に怪我をしたわけでもないのに申し訳なくて」

昨夜から対応に追われて、ややお疲れ気味のおじさまも、私と同様のようで、執務室には大量の花と見舞い品が積み上げられていた。

「お前は〝イスの女神〟だから供物そなえものってとこだろ。俺の場合は、どんな細いつながりでも持っておきたいという連中からの貢ぎものってところだな」

冷徹な商売人であるおじさまは、そう冷静に分析してきたが、私はそれだけではないと思う。

「みなさん心配してくださっているんですから、そんな憎まれ口をきくものじゃないですよ。こんな風に街の人たちが動いてくれるのは、おじさまへの尊敬や感謝があるからじゃないですか」

「へいへい。ありがたいことで、まぁ……そうなのかもな」

街のために日々奔走しているおじさまは、ちらりとあふれんばかりに置かれた花々をみて微笑んだ。

「そうですよ。今回は大きな被害にはなりませんでしたけど、こんな事例があることがわかった以上、早く解決したほうがいいでしょう。とにかく原因究明と対応策ですね」

「ああ、まったく面倒だな!」

おじさまが睡眠不足と苛立ちで髪をぐしゃぐしゃに掻いてしまったところで連絡が入る。

「どうやらストーム商会の者が到着したようだ。行こう」
「はい。その前に男爵様、一応、髪はなでつけてから行ってくださいね」
「ああ、わかってるよ」
「私はこっそり後ろで聞いてますので、尋問はご存分に」
「わかった。しかし便利な魔法だな」
「グッケンス博士直伝ですからね」

おじさまから少し遅れて《迷彩魔法》で姿を消した私が会議室へと向かうと、ストーム商会の人たちが緊張の面持ちで五名座っており、その中でも一番上の方らしい男性が必死の釈明を始めていた。

「ですから、私どもでもこのような事故が起きたことは過去一度もなかったのでございます。故障は事例が何度かございましたが、まさか爆発するとは……もちろん現在、今回の事故の原因を究明すべく、破損したすべての〝魔道ランプ〟を回収し、調査しておりまして……」

「事故と軽く考えているようだが、昨日のあれは〝爆発〟だ。軽症とはいえ怪我人も出ている。こんな事故が起こるような危険なものを、多くの人々が行き交うイスの街の中では使わせられない! 全個回収の上、原因がわかるまでイスの路上での〝魔道ランプ〟使用は禁止だ。いいな!」

「そんな……それだけは、それだけはご勘弁ください、サイデム様!」

滝のような汗を拭きながら、弁明を続けているのは、魔道家電で一躍有名商店となったストーム商会の担当者だ。気の毒ではあるが〝ラーメン横丁〟の名に傷をつけられたおじさまの怒りは凄まじく、原因がすぐに特定できないなら、ストーム商会の商品はいつ爆発するかわからない危険があると、イスで大々的な注意喚起を行うとまで言い出した。

実際、いま現在、魔道家電のどの機構に爆発の原因があるのかわからないのは確かだ。人通りの多い路上に設置されたランプが爆発したら荷馬車が暴走したりする可能性もあるし、オーブンといった家庭で使われる火を扱う商品で爆発が起こったりすれば、火事や火傷もありえ、危険はさらに大きい。それを考えれば、おじさまの注意喚起すべきだ、という主張は正しいし、早急に行われるべきだ。

(原因が特定できなければ、販売停止。原因が特定できても大規模なリコールか……破竹の勢いだったストーム商会には大打撃だね)

私は担当者を気の毒だとは思いながらも、現状では擁護できる要素が見当たらず、黙って話を聞き続けていた。
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。