利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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6 謎の事件と聖人候補

893 〝退魔教〟

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893

それから数日の間、セーヤとソーヤは調査を続けていた。

ふたりのステルス能力をもってすれば、ほぼどこでも自由に出入りできることは実証済みだが、未だ謎だらけの〝ストーム商会〟の中枢についての調査は、そう簡単には進まなかった。

そんな調査に大きな収穫が現れたのは、五日ほど経過したある日。

その間にセーヤとソーヤは〝ストーム商会〟の社員や取引先全員の名前や住所、その家族構成まで調べ上げ、目についた書類は細かな連絡事項から重要書類そして帳簿に至るまで、すべて目を通してあやしいところを探してくれたそうだ。

(相変わらずとんでもない調査能力ね)

そうして基本情報はガッチリ抑え終わっていた調査五日目、ついに〝ストーム商会〟の営業事務所に例の顔を隠したフードの人物が姿を見せたのだ。マースさんの調査で聞いていた通りフードをかぶっており、セーヤがこっそり見たときにはマジックバッグらしきものに入ったを受け取って、すぐに立ち去ろうとしていた。

ふたりはそこから尾行に入った。万全を期すため、二方向から追跡を行い、姿を完全に隠して、そのフードの人物を追いかけていった。

「とても慎重な人物だという話を聞いておりましたので、かなり用心しました。たしかに要所要所で何度も周囲の確認を行い、真っ直ぐに目的地にも進まず、背後に人がいないか常に見ていましたね。なかなかうまい移動でしたよ。つけられることを嫌っているのは明らかでした」

だが、どんなに気を配ったところで、私専属スパイたちの監視を掻い潜るのは不可能だ。

「そのひとは、いったいどこへ向かっていたの?」

私が聞くと、ソーヤが机の上に広げたエストレートの街の地図を指差した。

「こちらでございます。〝退魔教〟という、少し変わったものを信仰している教会でした」
「教会?」
「ええ、ですが教会といっても神を信じ祈るのではなく、悪神を祀り鎮め、祈りによって人々の平和を乱さないようにするというもののようです」

〝退魔教〟は、大きな宗教組織ではないがいくつかの教会を持ち、一定数の信者もあるらしい。その護符には魔物を遠ざける効果があるとされているため、この世界の魔物を恐れる人々はその護符欲しさに入信する人も多いそうだ。実際魔物がたくさん生息するのだから、こういった護符が有り難がられるのはわかる気がする。

「まぁ、その〝護符〟とやらにどの程度の効果があるのかはわからないけれど、お守りみたいなものなんでしょう。それを持つことで安心できるなら悪くはないかもね」

この世界の宗教は〝聖天神教〟を除いては、ほとんどが土着のものだ。祈る対象も千差万別だということは、よくわかっている。恐ろしいものには力があり、その力を信ずる人たちがそれを信仰の対象にするということもあるだろう。

(だけど、と〝ストーム商会〟の結びつきはなんだろう?)

フードの人物がその教会へ入ったということは、そこと〝ストーム商会〟には何らかのつながりがある。

「教会の中には難なく潜入できました。フードの人物は教会の司祭らしき人物と少し言葉を交わしてから、裏へ周りわれわれが探していたあの人物のいる部屋へ向かいました」

「ということは……いたのね」

「そうです。その教会の一室にラケルタ・バージェがいました。ピークスさんからいただいていた似顔絵の通りの人物だったので、間違いないと思います。ただ、彼は〝教区長〟様と呼ばれていて、名前は隠しているようでしたね」

どうも話が複雑になってきた。〝ストーム商会〟から持ち出されたものがお金かそれ以外かはまだ不明だが、それは誰にも見られないよう慎重に〝退魔教〟という、魔物を信仰の対象とする教会へと運ばれている。そしてラケルタ・バージェはその〝退魔教〟の司祭の立場にあり、しかも〝教区長〟という高い地位にいる。

「フードの人物は女性でございました。サシャとう名前で、信徒のひとりだったようです」
「そのサシャという娘には《忍び足》という音を立てずに移動できるスキルがあるそうで、それで運搬役を任されているようでした」
「ああ、なるほど。ただ命令されて運んでいるなら、そのサシャは運んでいるものについては中身を知らないのかもしれないわね」
「おそらくそうでしょう。マジックバッグは開けられることなくバージェに渡されていましたから。サシャは、ただ貴重なものだといわれて運び役をさせられたのではないでしょうか。たとえば、多額の寄付であるとか……」
「おそらくそうでしょうね。それで、受け取ったマジックバッグをバージェはどうしたの?」

そこでふたりは顔を見合わせた。

「それなのですが、バージェはそのマジックバッグを開けると、その中に入っていたたくさんの小指ほどの大きさの小さな球体を暖炉に投げ入れたのです」
「暖炉に? 燃やしちゃったの!?」
「いえ、確認いたしましたところ暖炉は偽装で、暖炉の奥に地下へつながる長い空洞があるようでした」

ただ、その地下へと長く続く空洞はセーヤやソーヤが入れるような太さではなく、またセーヤたちだからこそ感じることができた正体不明の不穏な魔法の気配があったという。

「いまの段階であれを強引に調査しようとすれば、なんらかの痕跡を残してしまうかと思い、今日はこれだけをお持ちいたしました」

セーヤが開いた手にあったのは、暖炉に放り込まれる直前にうまくちょろまかした球体の一粒だった。手にとった私が《鑑定》すると、それは〝魔道具〟だった。だが、詳細な鑑定には少し時間がかかりそうな複雑なものだ。なんらかのプロテクトがかかっている。

「見た目よりずっしりと重いのね。ありがとう。これは大事な証拠品だわ」

それにしても、その暖炉からつながっている先のことが気になる。〝退魔教〟の施設を調べてもらえば、地下に繋がる場所があるかもしれない。

「ここまであからさまにあやしいと調査せずには置けないわ。明日からは〝退魔教〟の施設を調べましょう。お願いね」
「はい、もちろんでございます」
「おまかせを」
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