利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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6 謎の事件と聖人候補

917 双子球

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917

私は落ち着いているアピールのため、豪華で持ちにくいティーカップを慎重に持ち上げてお茶を一口飲んでから、なるべくゆっくりとした口調で話を進めた。

「確かにグッケンス博士の内弟子として経験は積ませていただいておりますが、まだまだ修行中の身でございます。殿下に過大な評価をいただくほどではありません」

これは私の正直な気持ちだが、私がとんでもなく難しいダンジョンを速攻で攻略した事実を知られているとすれば、ユリシル皇子には響かないだろう。

「それに調査隊はすでに入られているのでございましょう? 気は揉めると思いますが、お待ちになれば、すぐ結果は明らかになるのではないですか?」

私の言葉にユリシル皇子は、少し考え込んでから口を開いた。

「このことは口外しないでもらいたいのだが、実は問題がすでに起きているんだ」

皇子の口調は重い。

「ギルドが選抜した優秀な冒険者たちで構成されていた調査隊は、早い段階でダンジョンへと向かってくれた。そんな彼らにはこの危険な任務のため、ある魔道具が軍部から貸し出されたんだ。それは〝双子球〟というもので、ふたつの球が同時に作られたものだ。そのひとつを持ち出し壊したとき、どんな場所にいてももうひとつの球も壊れるというもので、危険を迅速に知らせてくれる」

「まさか……」

「ああ、彼らがダンジョンに入って三日目の昼、軍部に置かれていた〝双子球〟が割れた。もちろんその後なんの連絡もなく、第二の探査隊をどうすべきか早急に対処を決める必要がある。事故の可能性もあるだろうが、現状、ダンジョン内の様子はなにひとつわかっていない……この状態でなんの策も講じずにはおけないが、かといって〝双子球〟が割れるような状況だ。次に入る者たちも相応の危険に晒されると考えざるを得ない」

「確かに判断が難しいですね。単に攻略が極端に難しかったのか、攻略不可能な何かがあるのか……」

「君はすでにグッケンス博士から聞いていると思うが、シド帝国は武勇に優れた先人たちが長く要職にあったことで、魔法への理解が徐々に低くなってしまった。もちろん重要性は理解していたのだが、魔法は人を選ぶ。粒揃いの国家魔術師を揃えるのは昔から難しいことだったのだ。

主力とできないとなると軍は金を出さぬし、人材も割かない。人材育成は魔法学校任せとなり、重要視されなくなるとともに魔法の研究も停滞してしまった。

冒険者となると、さらに魔法使いの質が下がることが多い。今回も国家魔術師を応援につけるべきだったのかもしれない」

「そのことは伺っております。それに数少ない魔法を使う優秀な者たちを戦力として使うことにのみ注力した軍部の方針によって、それ以外の道が長く閉ざされている現状も、結果的に魔法使いたちの力を削ぐことになっているんですね」

「耳が痛いな……だがその通りだね。魔法力を増やすことばかり考えていた血統主義の貴族が生み出したのは、どちらも中途半端な者ばかりなのに自尊心だけは高い〝魔法騎士〟ぐらいだ」

自らも〝魔法騎士〟であるユリシル皇子は自嘲的に笑った。

貴族たちが憧れる〝魔法騎士〟は、エリートのみが選ばれる仕事だが、魔法学校を早めに切り上げてくるような者たちばかりのため、自分が使う魔法以外への理解がなく、それで十分だと考えている。そんな彼らがやがて軍の中枢に入るのだから、あとは推して知るべしだ。

「だが、このところ軍部に大きな影響を与える魔法研究がいくつか続いたようで、予算が増やされ、研究職に就ける魔法使いは増えたそうだよ。今更感はあるが、大きな変革だね。本来ならば大々的に告知して褒賞を出し、研究の重要性を知らしめたいところだが、ドールが魔法使いの安全のために情報制限をかけてしまったため、それも叶わなかった。実に惜しいね」

その研究者は私だ。魔法によるフリーズドライ技術は、兵糧管理に大きな変革をもたらしたと聞いている。あのときは研究発表をなかったことにされ、すべての情報を軍部に持ち逃げされてさすがに泣いたけど、きっといつの日か普通の人々の生活でも使えるようになる、そう思うことで納得した。

(でも、そのおかげで研究者の待遇が改善されたなんて知らなかったな。いい結果になってよかった)

「それで、君の意見を聞きたかったんだ。第二陣の探索隊にはどんな者たちが相応しいだろう。三階層まで危険がないことがわかれば十分なのだが……」

「でも、それを依頼した第一陣は戻ってきていなくて、消息不明なんですよね。私としては封鎖をお勧めしますけど……調査もせずに封鎖するには帝都に近すぎますね」

「ああ、もし大量の魔物が湧き出すようなダンジョンだった場合、帝都を守らなければならなくなる。多くの人々の命がかかっているんだ。どうしても早急に情報が欲しいところだね」

「見てくればいいんですよね」

「え? ああ、その通りだ。まさか、グッケンス博士に頼んでくれるのかい? いや、それはできないよ。博士にはすでに多大な尽力をいただいている。お手を煩わせては……」

「博士はいま、魔法学校の学生たちの成績をつけるために大忙しなんです。もちろん頼めませんよ」

「博士がお忙しいのはわかっているよ。だから意見を聞くのも憚られて、こうして直弟子である君にきてもらっている……え? まさか!」

「急ぐのでしょう? まぁ、見てくるだけでいいなら、とりあえず私が行ってきます」



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