利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
769 / 840
6 謎の事件と聖人候補

958 映像を飛ばす魔法

しおりを挟む
958

翌日の寝覚めは爽快……とは残念ながらいかなかった。

我が家のベットは金属の加工ができる工房に針金の製作依頼をするとことから始め、改良に改良を重ねたボックスコイル採用の最高の寝心地だし、リネン類もきちんと洗濯されたいいものを揃えている。パジャマも沿海州にある着道楽の街ランテルにある〝コウダイ屋〟さんで仕入れてきた、絹織物よりさらに軽く肌触りのいい〝ハナマユリガ〟の繭糸で織られた薄紅色の反物を使って手縫いしたお気に入りのパジャマだ。枕だってもちろんこだわりの手作り。羽毛たっぷりでふっかふかだ。

この心地よい寝室でぐっすり眠ったので疲労はだいぶ抜けたし、頭もちゃんと働いているけれど、完全復活とまではいえない気分だ。

(ちょっとまだだるいかな? まだまだ寝ていられる気がするし、なんならニ、三日ベッドでゴロゴロしていたい気分)

「ポーション一発で元気百倍! ってなればいいのになぁ……」

ついそんなことも呟いてしまう。

この世界の疲労回復特効薬である〝ポーション〟をはじめとする魔法薬全般の効果がとても低いという特異体質のせいで、私の健康管理は食事に気をつけ睡眠をしっかり、そして適度な運動という極めて健康的でベーシックなやり方だ。

(しかもみんなには絶大な効果のある異世界食材も、私には普通に美味しい以上の特別な効果はないんだよね)

私は大きなため息をついたあと、気合を入れてベッドから躰を起こし起き上がる。

「いまはダラダラを楽しんでる場合じゃないよね! よし、気合をいれろー!」

両頬を軽く叩いた私は、ベットから飛び降り朝風呂でシャキッと目を覚ましてからキッチンへと向かった。
もちろんお風呂のあとのヘアケア時間はしっかりセーヤに捕まったが、それもマキでお願いする。私は朝食メニューを考えながらこの時間を過ごすことが多い。

(今朝は中華風のお粥にしてみようかな。海鮮粥に青菜の炒め物それに温泉卵……搾菜ザーサイも刻んでおこうっと。お茶も中国茶を用意して。グッケンス博士はちょっとクセの強いスモーキーな中国紅茶ラプサンスーチョンが気に入ってたから……)

「はい、よろしいですよ、メイロードさま。今日もお美しいお髪でございます」
「ありがとうセーヤ、今日はかわいいポニーテールね!」
「これが早かったので。できればもっとお時間を……」
「いいえ、これが素敵よ! 最高だわ! さあ行きましょう」

キッチンでは《念話》で今日の朝食メニューを伝えていたソーヤがしっかり準備をしてくれていた。

「おはようございます、メイロードさま」
「おはよう、ソーヤ」

私はテキパキと割烹着に身を包み、キッチンで作業を始める。

(ああ、落ち着くなぁ)

湯気の立つ鍋、野菜を刻む包丁の音、外から聞こえる木々の揺れる音と小鳥のさえずり……平和だ。

昨日までの真っ暗なダンジョンでの殺伐とした日々が嘘のようだ。

「やっぱり私はこっちがいいな」

「そうでございますとも!」

ソーヤも台所仕事をしながら上機嫌だ。

「ああ、伝言がございました。

グッケンス博士が軍部での緊急会議を招集されたそうでございます。五名の将軍もいらっしゃるそうで、まとめ役はドール参謀本部長とのことでした。

ダンジョン内の様子を説明するため、実際にあのダンジョンを経験したエルディアス・テーセウス様も出席されます。

「博士の対応が早くて助かるわ。あとはお国の方にお任せできるといいわねぇ」

「それは……どうでございましょう」

ソーヤは少し苦笑いして話を続けた。

「『メイロードは目立ちたくないだろうが、気にはなるのだろうし、状況は知る必要があるだろう』とのことで、博士が《無限回廊の扉》を利用した映像投影魔法を秘密裏に会議室に構築してくださるそうです。

なんでも中継ポイントとして博士がメイロードさまがお作りになった回廊偽装バッグの口を開けたものをお使いになるとかで、メイロードさまにはこの口の空いたバッグと直接繋いだ扉をいまいる場所の壁に作るように、と」

「なるほど……それにしてもすごいわね。軍部の会議室なんて、いろんな結界魔法が山ほど仕掛けられているはずなのに、そこから映像を送るなんて、さすがというか博士らしいというか……」

「それも《無限回廊の扉》ありきの魔法だそうですよ。なんだか博士も楽しそうでした」

(絶対前からいろいろ使い道を研究してたわね。考えてみればせっかく新しいおもちゃが手に入ったんだから、博士が研究しないわけがないか)

キッチンで働いているところにセイリュウもやってきた。
「おはよう、メイロード。体調はどうだい?」
「しっかり寝たのでスッキリしました。あとは美味しいご飯を食べれば完璧です」
笑顔の私に彼はホッとした表情を浮かべる。

(本当は完璧とはいえないけど、あんまり心配させられないよね)

「それじゃ私たちは遅めのご飯をいただきながら、会議の中継を見せていただくとしましょうか」

カウンターに並ぶ温かなお料理、窓を開けてそこに《無限回廊の扉》の扉とし、空間を狭めて博士の持っているバッグへと直接繋ぐと、確かにそこには金ピカ調度品のある会議室が見えた。

(これでも、軍部はすごくおとなしいインテリアなんだよねぇ。このセンスは一朝一夕には変わらないなぁ)

会議室にはまだ博士とドール参謀だけだ。

「では、これでマリス邸と?」

それはドール参謀の声だった。

「ああ、映像と音声はこちらからの一方通行しかまだできんがな。お前さんは妙に勘が鋭いからのぉ。一応、伝えておく。じゃが……」
「もちろん、何も申しませんよ。グッケンス博士の技術など、凡百のわれらに再現できようもございませんから」

「ふん! よくわかっておるの」

どうやら博士は私の《無限回廊の扉》のことも伝えず、すべてを自らが開発した高度な特殊技術として、この遠隔映像投影魔法を説明してくれたようだ。秘密が多い私のために、博士に嘘をつかせることになるのは、なんだか申し訳ない気持ちだが、軍部の重鎮であるドール参謀には絶対知られたくないことなので、ここは博士に感謝するしかない。

「ありがとうございます、博士……」


しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。