利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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6 謎の事件と聖人候補

987 ドライアド式整備事業

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987

〝巨大暴走〟発生から三日目。

今日もヒスイからの報告を聞きながら、どうにも落ち着かない一日を私は過ごしていた。

徐々にだが強さを増していく魔物の様子を聞くと、どうしても不安な気持ちが浮かんできて、さらにヒスイに細かいことまで報告をさせてしまう。

でもそのおかげで現状はおそらく参謀本部より早く把握できているように思う。

(ヒスイのレポートは現場からの速報だからね)

それによれば、魔物の襲撃にはムラがあり、大量に襲ってきたかと思うと、少しまばらになり、また大量に押し寄せるという繰り返しの状態が続いている。そのタイミングもほぼ同じだったため、おそらくダンジョンの構造上の問題でそうなっているのだと思われた。

このことが確信を持てる状況になり、パレス軍側の作戦は立てやすくなったようだ。襲撃の規則性が明らかになったことで、人員と物資の補給も安定してきている。

〔パレス側の動きは落ち着いて見えます。魔物の数は相変わらす多いですが、まだ兵士と魔物が直接接触する様子はみられず、魔術師たちで制圧できていますよ〕

ヒスイからのそんな報告に私は少し安堵する。

遠距離攻撃の魔術師たちしか出撃していないということは、まだ人的犠牲は最小限に抑えられていると考えていい。

(ただ〝魔術師〟の皆さんの負担は大きいよね。疲労が蓄積すると魔法力の回復にも影響が出るだろうし……やっぱりあまり長引かないでほしいなぁ……)

とはいっても、いま戦っている魔物はまだ一番戦いやすい入口に近い階層にいるものばかりだ。これから戦いの厳しさは確実に増していくと予測できるのだから、まったく気は抜けない。いまは余力があるだろう兵士たちも疲労が蓄積するという点では、直接衝突が始まれば魔術師と同じように辛くなっていくはずだ。

(先が見えない〝巨大暴走〟……収拾がつくのはいつになるのかな)

ヒスイの話を聞いていて、私にはひとつ気になっていることがあった。

ダンジョン内の魔物はダンジョンの自浄作用によって、数時間で吸収されていく。この作用により、内部の環境は守り続けられているのだ。だが、こうして外部へ放出された魔物の場合、そうはいかない。

で、どうなっているかといえば、ダンジョン周辺には火の魔法で焼かれた魔獣や魔物の死体が大量に積み上がり、道は塞がれ、煙も臭いもひどいという状況だそうだ。

〔ただ、火属性の魔法を使うことである程度は焼き払えていますので、多少はカサを減らせていますが……まぁ埋めてしまったほうが土壌の栄養になるでしょうにもったいない気も致しますね〕

〔あはは、植物の妖精さんらしい感想だね。確かに、埋めちゃえば衛生的にも開けた場所の確保って意味でもいいよねぇ。とはいえこの広い場所じゃ、土系魔法が得意な〝魔術師〟さんがたくさんいなきゃ無理だもんね〕

〔まぁ、人間の魔法程度では無理ですね〕

〔………。えっ? それってどういうことかな〕

〔そういうことです。メイロードさまがお望みなら、あの死骸の山、土に埋め地中に返しますが?〕

〔できるんだ……す、すごいね〕

さすが広域を支配できるパワフルな植物の妖精ドライアド。どうやるのかはよくわからないが、これからの魔法攻撃の邪魔になり、兵士の行手も妨げる山積みの死骸を一掃できるらしい。

〔グッケンス博士の姿は見える?〕
〔いいえ、まだ博士は前線にはきていらっしゃいませんよ。おそらく、参謀本部で作戦を指揮されているのだと思います〕
〔そう……そうよね。博士が前線に出てこなきゃいけないようなら、それはいよいよアブナイってことよね〕

私は急いで《伝令》を用意する。そして宛先をグッケンス博士としてこう吹き込んだ。

『グッケンス博士、ドライアドのヒスイから提案があります。ええと、いまダンジョンからパレス方向に大量の魔物の死骸が積み上げられてますよね。ヒスイはそれを土に埋めて地表をきれいにできるそうです。これやってもらったほうがいいですよね?』

それから私の得意技、羽の生えた風魔法つきの超特急《伝令》で参謀本部の座標へと〝宛先人以外開封不可〟の追加魔法もつけて放つ。

(参謀本部の《伝令》座標は、ドール参謀長から聞いて知ってるからね。ほら、奥様やお嬢様への秘密のプレゼントとか、いろいろ相談にのってたから)

待つこと暫し。私からこの超特急《伝令》を伝授済みの博士からは、ものの数分で答えの《伝令》が帰ってきた。

『あの死骸の処分のために土魔法の使える魔術師の動員をかけるかどうかで会議が揉めておるところじゃった。どうもそこにさける人員は多くとれそうもなくてな。ヒスイの力が借りられればありがたい。メイロードの名が出んよう、わしの知り合いが〝匿名〟で協力してくれると申し出てくれたと言っておこう』

(さすが博士、よく私のことをわかっている。そうしてもらうのが一番いいよね)

そのあとは、埋め戻すタイミングや範囲について《伝令》で何度かやりとりし、魔物の数が最も少ない午前二時にヒスイに動いてもらうと決まった。

〔ヒスイ、これから何度もこの埋め立て作業をやってもらうことになると思うけど、本当に無理してない? 大丈夫なの?〕
〔もちろんでございます。私には造作もないこと。むしろ、お役に立てて恐悦至極でございます!〕

こんなテンションの高いヒスイは見たことがないぐらい楽しげなので、負担はそんなにないのだろう……おそらく。

こうして張り切ったヒスイの活躍で、翌日の朝には綺麗さっぱり道から魔物の死骸は消え去った。そのあまりの徹底整備ぶりに現場は驚愕し、さらに博士は尊敬を集めることになったそうで、面倒くさそうな様子だ。

(すいません、博士。いつも頼っちゃって)

深夜の月明かりの下、岩が砕けるような不気味な音を立てながら、死骸を喰らい土に沈めていく無数の大蛇の如き巨大な根を目撃したという歩哨の証言も相まって

「グッケンス博士の〝知り合い〟怖え!」
「死んだら俺たちも地面に食われるのか?」

と現場の魔術師や兵士たちを震え上がらせた……という。

(うーん、確かにそれはコワイね。ヒスイにもちゃんと分別するように言っておかなきゃ)
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