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6 謎の事件と聖人候補
1018 聖域の楽師
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1018
「あとは〝天〟にわれらが勝利を祈るとしよう」
ソーヤからの《念話》で伝えられたその言葉は、グッケンス博士の私への暗号であり、私の支援が必要だという合図だった。
いつものように今回の件についても、私は絶対に正体を明かすような行動はしたくなかった。この〝巨大暴走〟との戦いが確実になったあと、私はグッケンス博士に私にできることと、それを発動したときにどうごまかすかについて入念に打ち合わせをした。
「パレスにそしてイスに、この大陸に、私の大切な友だちやお世話になった方々がたくさんいらっしゃいます。もし魔王がこの世界にその実体をもって姿を現せば、人々だけじゃなく、すべてが脅かされる世界が始まってしまいますよね。それだけはイヤなんです! だから、私は私に使えるものはなんでも使って全力で魔王と〝巨大暴走〟の阻止に動こうと思います」
「ありがとうよ、メイロード。それは本当に心強いことだ。そなたの協力が得られれば、きっとこの難局も多くの犠牲を出さずに乗り越えられるかもしれん……だが……」
「ええ、この戦いのあとも私の生活は続きます。ですから、私が関わっていることはなにがなんでも隠し通す、これは絶対条件です」
「そうよのぉ……〝稀有で、しかも強大な力を持つ〟そんな事実が少しでも知られれば、もうお前さんの人生に安息は来ないじゃろうからなぁ」
グッケンス博士の言葉には実感がこもっていた。
「わしはとある事情で、自らの能力を公にする必要が生じての。そのことに後悔はないのじゃが、それでも名を得てしまった人生は金銭や名誉とやらには恵まれたものの、とても不自由なものになっていった。まして、メイロードの力はわしとは比べものにならぬ唯一無二のものじゃ」
「そうですねぇ……そうなんですよねぇ……」
私は大きくため息をつく。せっかく美味しくできた自信作、ツヤツヤのチョコレートでコーティングしたラム酒とコーヒーを香るオトナ味のラムボールにも手が伸びない。
(私が女性であることもさらに問題をややこしくするよね、きっと。私の〝婚約者〟役を引き受けてくださったサイデムおじさまにも、とてつもない迷惑がかかりそうだし、やっぱり絶対、絶対隠密行動必須!)
「ともかく、少しでも犠牲が少ない状態でこの〝巨大暴走〟を収束させましょう! あくまでも、グッケンス博士と〝魔術師〟の皆さんのお力ということで、強引に!」
「それに多少の〝天〟の助け、じゃな」
「そう! 強引でもなんでも、徹頭徹尾そういうことで!」
ーーーーーーーーーー
私は駆け足で早速《無限回廊の扉》を抜け、セイリュウもいる高山の聖域へと向かった。
清浄な空気に包まれたこの聖域には、今日も美しい竪琴の音色が響いている。というより、この美しい音楽が常時流されるようになったおかげで、この聖域はさらに格が高くなってきているとセイリュウが言っていた。
その影響から天界の方々の降臨もときどきというレベルではなく起こっているそうだ。そしてその方々のリクエストで天界向けのコンサート的なことまで行われているのだが、そのたびに天界の方々は楽師の名演奏に感激されおひねりを落としていくそうだ。それがまたとんでもないもので、いまではほかでは見られない貴重な植物や鉱物が、季節すら関係なくあちこちに見られるようになっている。
(いつだったか、サフランがどうしても見つからないって愚痴ったら、いつの間にかこの聖域でサフランが見つかったし……まぁ、おかげで完全この世界産パエリアを完成できたのは嬉しかったな)
そんなことを思いながら、その音の響く場所へ近づく。そこには小さな舞台のような場所が美しい大理石で作られていた。その中央には一脚のこれまたとっても高価そうなアンティークの椅子が置かれていて、その上の私が作ったクッションに乗せられているのは、わが音楽の師でもある〝竪琴〟だった。
〝竪琴〟は私の気配に気がつくと、歓迎の気持ちを伝える小曲を演奏しながら《念話》をしてきた。
〔いらっしゃいませ、メイロードさま。今日はどんなご用でしょう?〕
音楽三昧の生活を望んでいる〝竪琴〟には、きっとうれしくないだろうお願いだが、これを頼める相手は他にない。
私はその美しい〝竪琴〟に、少し困った顔になりながらも微笑みかけた。
「ミゼル、私と一緒にパレスの戦場まで行ってくれる?」
この唐突な戦場へのお誘いに、ミゼルは再び自らの弦をかき鳴らしながら答えた。
〔もちろんでございます。ワタクシはメイロードさまの守り弓。あなたの向かわれる場所ならば、何処へでもお供いたしますとも〕
ミゼルは勇ましい旋律の曲を弾き終えると、その言葉とともに光り輝く〝竪琴〟から豪華な飾りに彩られた弓型の〝武装魔具〟へと形を変えた。
「ありがとう。それじゃ、みんなを助けにいきましょう」
私は弓となったミゼルを手に取り、再び《無限回廊の扉》を抜け、今度は戦場近くに隠して設置していた扉を出た。
そこはすでに魔獣たちの怒号渦巻く埃に塗れた戦場、すでに〝巨大暴走〟との最後の決戦の火蓋は切られていた。
「あとは〝天〟にわれらが勝利を祈るとしよう」
ソーヤからの《念話》で伝えられたその言葉は、グッケンス博士の私への暗号であり、私の支援が必要だという合図だった。
いつものように今回の件についても、私は絶対に正体を明かすような行動はしたくなかった。この〝巨大暴走〟との戦いが確実になったあと、私はグッケンス博士に私にできることと、それを発動したときにどうごまかすかについて入念に打ち合わせをした。
「パレスにそしてイスに、この大陸に、私の大切な友だちやお世話になった方々がたくさんいらっしゃいます。もし魔王がこの世界にその実体をもって姿を現せば、人々だけじゃなく、すべてが脅かされる世界が始まってしまいますよね。それだけはイヤなんです! だから、私は私に使えるものはなんでも使って全力で魔王と〝巨大暴走〟の阻止に動こうと思います」
「ありがとうよ、メイロード。それは本当に心強いことだ。そなたの協力が得られれば、きっとこの難局も多くの犠牲を出さずに乗り越えられるかもしれん……だが……」
「ええ、この戦いのあとも私の生活は続きます。ですから、私が関わっていることはなにがなんでも隠し通す、これは絶対条件です」
「そうよのぉ……〝稀有で、しかも強大な力を持つ〟そんな事実が少しでも知られれば、もうお前さんの人生に安息は来ないじゃろうからなぁ」
グッケンス博士の言葉には実感がこもっていた。
「わしはとある事情で、自らの能力を公にする必要が生じての。そのことに後悔はないのじゃが、それでも名を得てしまった人生は金銭や名誉とやらには恵まれたものの、とても不自由なものになっていった。まして、メイロードの力はわしとは比べものにならぬ唯一無二のものじゃ」
「そうですねぇ……そうなんですよねぇ……」
私は大きくため息をつく。せっかく美味しくできた自信作、ツヤツヤのチョコレートでコーティングしたラム酒とコーヒーを香るオトナ味のラムボールにも手が伸びない。
(私が女性であることもさらに問題をややこしくするよね、きっと。私の〝婚約者〟役を引き受けてくださったサイデムおじさまにも、とてつもない迷惑がかかりそうだし、やっぱり絶対、絶対隠密行動必須!)
「ともかく、少しでも犠牲が少ない状態でこの〝巨大暴走〟を収束させましょう! あくまでも、グッケンス博士と〝魔術師〟の皆さんのお力ということで、強引に!」
「それに多少の〝天〟の助け、じゃな」
「そう! 強引でもなんでも、徹頭徹尾そういうことで!」
ーーーーーーーーーー
私は駆け足で早速《無限回廊の扉》を抜け、セイリュウもいる高山の聖域へと向かった。
清浄な空気に包まれたこの聖域には、今日も美しい竪琴の音色が響いている。というより、この美しい音楽が常時流されるようになったおかげで、この聖域はさらに格が高くなってきているとセイリュウが言っていた。
その影響から天界の方々の降臨もときどきというレベルではなく起こっているそうだ。そしてその方々のリクエストで天界向けのコンサート的なことまで行われているのだが、そのたびに天界の方々は楽師の名演奏に感激されおひねりを落としていくそうだ。それがまたとんでもないもので、いまではほかでは見られない貴重な植物や鉱物が、季節すら関係なくあちこちに見られるようになっている。
(いつだったか、サフランがどうしても見つからないって愚痴ったら、いつの間にかこの聖域でサフランが見つかったし……まぁ、おかげで完全この世界産パエリアを完成できたのは嬉しかったな)
そんなことを思いながら、その音の響く場所へ近づく。そこには小さな舞台のような場所が美しい大理石で作られていた。その中央には一脚のこれまたとっても高価そうなアンティークの椅子が置かれていて、その上の私が作ったクッションに乗せられているのは、わが音楽の師でもある〝竪琴〟だった。
〝竪琴〟は私の気配に気がつくと、歓迎の気持ちを伝える小曲を演奏しながら《念話》をしてきた。
〔いらっしゃいませ、メイロードさま。今日はどんなご用でしょう?〕
音楽三昧の生活を望んでいる〝竪琴〟には、きっとうれしくないだろうお願いだが、これを頼める相手は他にない。
私はその美しい〝竪琴〟に、少し困った顔になりながらも微笑みかけた。
「ミゼル、私と一緒にパレスの戦場まで行ってくれる?」
この唐突な戦場へのお誘いに、ミゼルは再び自らの弦をかき鳴らしながら答えた。
〔もちろんでございます。ワタクシはメイロードさまの守り弓。あなたの向かわれる場所ならば、何処へでもお供いたしますとも〕
ミゼルは勇ましい旋律の曲を弾き終えると、その言葉とともに光り輝く〝竪琴〟から豪華な飾りに彩られた弓型の〝武装魔具〟へと形を変えた。
「ありがとう。それじゃ、みんなを助けにいきましょう」
私は弓となったミゼルを手に取り、再び《無限回廊の扉》を抜け、今度は戦場近くに隠して設置していた扉を出た。
そこはすでに魔獣たちの怒号渦巻く埃に塗れた戦場、すでに〝巨大暴走〟との最後の決戦の火蓋は切られていた。
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