異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。

猫正宗

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アダムとイヴ

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次は集めた人間たちの処遇である。

「……ふむ。どうしたものかなぁ」

ルシフェルは悩んだ。
信仰奴隷なんかは、放置しておいたらいつの間にか餓死してそうだ。
せっかく改心させたというのに、それではあまりに勿体ない。
仕方がないので空に連れて行くことにする。

ただし天国に住まわせるのは何となく嫌だなと思ったルシフェルは、天空城のある巨大な浮島に適当な集落を作り、そこに信仰奴隷を囲うことにした。

「それじゃあ早速……」

タブレット端末を取り出すと、移動アプリを起動する。
宿の片隅に転送ゲートを設置した。
繋いだ先はアイラリンド超天空城だ。
これで天国と王都を楽に行き来できるようになった。

この転送ゲート、ルシフェルが許可した者であれば誰でも使える。
逆に許可していない者には使えない。
ルシフェルは天使メイドにお願いする。

「悪いんだけど、誰か、このゲートを使って信仰奴隷たちを天空城まで連れて行ってくれないかな? んっと、そうだな……。ギルセリフォンあたりに引き渡してくれれば良いと思う。城の外に集落を作って囲うように伝えて」
「畏まりました。わたくしが承ります」

引き受けたのは木曜の座天使メイド、ハミシーだ。
ハミシーは信仰奴隷ふたりの首根っこを掴み、細い両腕で引きずる。
ルシフェルに礼をして転送ゲートの向こうに消えていった。



お次は幼い兄妹である。
彼らの処遇をどうするか。
ルシフェルには考えがあった。

「ねえジズ。ちょっと良い?」
「もちろん良いの! えへへ、ルシフェル様ぁ、どうしたの?」
「えっとね。ジズに、この兄妹の世話をして欲しいんだ」
「人間の世話? むー、めんどくさいの」

ジズが難色を示す。

「人間なんか放り出せば良いの。そして、適当に野垂れ死ねばいいと思うの」

これだ。
ルシフェルは、折につけ天使たちが見せる、人間への邪険な態度が少し引っ掛かっていた。

まぁかつての大戦『終末戦争ハルマゲドン』で父なる神を人間たちに殺された経緯から、天使が人間を蛇蝎だかつの如く嫌うのは理解できる。
とはいえ気にならない訳ではない。

特に可愛らしくルシフェルに懐いたジズなんかが、人間に対して横柄な態度を取るのは見ていて気持ち良くはない。

だからルシフェルは兄妹をジズに預けることにした。
世話を通じての交流を望む。
そして人間への態度を軟化させて欲しい。
これは言わば、ジズへの情操教育の一環であった。

親が子にペットを買い与えるようにジズに人間の子を与えるのは、そこはかとない背徳感が漂う。
だがそれはそれ。
細かなことはどうでも良いのだ。

「ジズ、お願い。この通り!」

ルシフェルが顔の前で、パンと手を合わせた。
ジズを拝む。

「……むー。ジズ、本当は嫌だけど、ルシフェル様にそこまで言われたら、断れないの」
「わっ、さすがジズ! ありがとうね」
「えっへん! ルシフェル様、もっと褒めて褒めてー。頭撫でて欲しいの!」

ジズはルシフェルに抱きつき、一通り甘えてから幼い兄妹を振り返る。
そして言い放った。

「人間! 喜ぶがいいの。今日からジズが下等なお前たちの飼い主なの!」
「ふぁ⁉︎」

ルシフェルは初手からずっこけた。
なんか思ってたのと違う。

「ストップ! ジズちょっと待った!」
「はぇ?」

ジズはルシフェルに向けて首をこてんと倒した。
可愛い。

「ルシフェル様、どうしたの? ジズ、何か間違えた?」
「いま飼い主って言ったでしょ? そうじゃなくて、ジズには二人の友達……。いや、そうだな。二人のお姉さんになって欲しいんだよ!」
「お姉さん?」

ジズは想像する。
長女として甲斐甲斐しく弟妹ていまいの面倒をみる自分の姿――

……悪くない。
むしろちょっと良いかも知れない。
天国でいっつも子ども扱いされてばかりのジズは、軽く年長者に憧れていた。



妄想のなかで立派な長女になったジズは、でへへと頬を緩ませる。
かと思うと年長者らしく眉をキリリとさせた。
幼い兄妹に胸を張る。

「えっへん! わたしがお前たちのお姉さんのジズなの! お前たち、名前は!」

問われた兄妹は、床に額を擦り付けた。
妹が言う。

「あの、天使さま……」
「ジズは空獣だから、天使じゃないの!」
「じゃ、じゃあ、ご主人さま」
「ご主人様でもないの! これからジズのことは『ジズお姉ちゃん』と呼ぶといいの!」
「う、うん。ジズお姉ちゃん」

お姉ちゃん……。
ジズの頬がまた緩んだ。
悪くない。
やっぱり思った通り悪くない。
ジズは案外チョロかった。

「それで名前は? 名前を教えるの!」

今度は兄が応える。

「ジズお姉ちゃん、ボクたち、もう名前は無いんです。奴隷商が言ってました。お前たちの名前はもう無い。だから買い手がついたら新しい名前をつけてもらえって」

奴隷に名前をつけるのは主人の権利だ。
幼い兄はそのことを言っていた。
ジズはルシフェルにお願いする。

「ルシフェル様、ルシフェル様ー。こいつら名前がないの。だから付けてあげて欲しいの」
「ふむ……」

それならとルシフェルは考える。

「……タロとジロ……いやこれは無いな。じゃあ一姫二太郎……これだと姉と弟か。それならドリとグラ……いやいやしっくりこない。ムックとガチャピン。マリオとルイジ――」

ルシフェルに命名センスはなかった。
諦めてジズに託す。

「ごめん、思いつかないや。なんならジズが名前をつけてあげたら?」
「うーん。それじゃあ……」

今度はジズが悩む番だ。
あれこれと考えてから、ジズはぴこんと閃いた。

「決めた、これにするの!」

出来たばかりの弟分を指差して言う。

「お前は『アダム』!」

次に妹分を指差す。

「そしてお前は『イヴ』! これから二人はそう名乗るといいの!」

こうして幼い兄妹はアダムとイヴになった。
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