異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。

猫正宗

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帝国軍 vs 傭兵団

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辺境伯軍司令部は自軍の傭兵たちを上手く言い包めて激戦区へ送り込んだ。

辺境伯に雇われた傭兵の総数は五千。
当初、司令部はその全てを騙して戦地に送るつもりであった。

だが実際に送り込めたのは四千ほどだ。
残り千名の傭兵たち――そのほとんどが用心深く聡いリーダーに率いられた傭兵団である――は、不穏な作戦概要から危険を敏感に感じとり、戦線を離脱していた。

死地に送り込まれた四千の傭兵たちの命運は決まっている。
全滅である。
だが全滅するまでに、少しでも帝国兵を道連れにしてくれれば、それで良い。
辺境伯軍司令部はそう考えている。

しかし彼らは知る由もない。
その四千の傭兵たちにはバザック傭兵団が、つまりはルシフェルたちが含まれていることを――

ルシフェルは戦いに勝利して辺境伯へと恩を売った暁には、この作戦の立案に関わった司令部の者どもすべてを信仰奴隷にして、天国送りにするつもりであった。



セルマン帝国第五軍を率いるアレキサンド将軍は、その日の開戦当初、傭兵たちの吶喊とっかんを罠かと警戒した。
傭兵たちは雄叫びをあげて突撃してくる。
しかしこれらの傭兵は囮で、どこからか辺境伯軍本隊の急襲があるやも知れぬ。

いまや誰の目にも劣勢であるほどまで追いやられた辺境伯軍だ。
どんな奇策を用いてくるか分からない。
しかし戦いが進むにつれ、アレキサンド将軍はこれが罠ではなくただの無謀な玉砕攻撃であることを悟った。
無駄に命を散らされる傭兵たちを哀れむ。

しかしこれは戦争だ。
アレキサンド将軍は策もなく暴れるだけの傭兵たちを殲滅すべく、主力部隊の半数である一万の兵を展開した。
作戦行動に移らせる。
重装歩兵隊を並べて傭兵たちの進攻方向に蓋をする。
その後、騎兵隊で左右から挟撃した。

一箇所に集められた傭兵たちの頭上に、砲兵部隊の砲撃が降り注ぐ。
恐慌をきたした傭兵たちは我先にと逃げ出した。
けれども逃げ道は、アレキサンド将軍の計略により巧みに誘導されている。
傭兵たちを待ち受けていたのは事前に準備されていた罠の数々だ。

傭兵たちは次々に罠に嵌められ、数を減らしていく。
落とし穴に落とされ、落石に潰され、待ち伏せしていた弓兵隊から雨のように矢を射掛けられる。

そこかしこで絶叫が木霊した。
傭兵は自分たちを騙した司令部に、呪詛を吐きながら死んでいく。
バタバタと倒れ、屍が積み重なっていく。
四千からいた傭兵たちは、既にその数を二千八百にまで減らしていた。
実に三割が死傷した。
元々全体を指揮する策など持ち合わせぬ烏合の衆ではあったものの、それでも多少は機能していた傭兵部隊が破綻するに十分な損耗である。



「ルシフェルの旦那ぁ! もう限界だ! これ以上は保ちやせんぜ!」

バザックは前方から飛んでくる矢を戦斧で叩き落としながら叫ぶ。
バザックの全身は傷だらけだった。
それはバザック傭兵団の皆も同様である。
無傷なものはいない。
しかし誰ひとりとして死んではいなかった。
壊滅的被害を出しながら敗走している最中においては奇跡的なことだ。

とは言えこれには裏がある。
ルシフェルはバザック傭兵団にこう命じていた。

「無理に敵を倒そうとしないで良いです。だから絶対に死なないで。即死さえしなければ必ず助けてあげますから」

実際には死んだとて『死者蘇生』で蘇らせることは可能だ。
しかしルシフェルは傭兵たちに、
「死者蘇生を実現するには複雑な条件があり、簡単には実行できない。ヤーコブ氏の蘇生はたまたま条件が整っていたから出来たのだ」
と説明していた。
そうしないと傭兵たちに次から次へと親類縁者の蘇生を乞われてキリがないためである。

戦地において傭兵たちはルシフェルの言い付けをよく守った。
決して無理はせず、己の安全を第一に行動する。
それでもここは壊走の地だ。
重傷を負う者は続出した。
だがそんな傷はルシフェルが即座に癒す。
時には修理アプリの『全体修復』機能を実行して負傷した傭兵団員を纏めて治した。

傭兵たちはこれを『範囲回復エリアヒール』だ何だと騒いで驚愕していた。
失われた神代魔法だという。
しかしこれは当のルシフェルの預かり知らぬ出来事である。



一方的に蹂躙され続ける傭兵たち。
屍の山は更に高く積み上がる。

動ける傭兵の数は既に二千足らず。
戦える者はもっと少ない。
開戦からもう五割が損耗していた。
セルマン帝国第五軍はすでに残敵掃討に作戦行動を移行している。

ルシフェルが尋ねる。
 
「ね、シェバト。そろそろ頃合いかと思うんだけど、どうかな? もう十分にピンチは演出できたんじゃない?」

ルシフェルがここまで反撃もせずに耐えていたのは、単に演出の問題であった。
この地で罠に嵌められた傭兵たちは、もう十分に絶望を味わった。
死を覚悟している者すら大勢いよう。

そこに颯爽と救世主メシア――これはルシフェルたちのことである――が現れ、自らを窮地から救い出してくれたらどう思うか。

きっとルシフェル一行に、心から感謝するに違いない。
そうすれば後にルシフェル教が興った暁には、死地から生還した生き残り全員とまでは言わずとも、一定数くらいは信者になってくれるかもしれない。

身も蓋もない言い方をすれば、これは『最初から知らない傭兵全員を助けてやる義理なんてないのだし、だったらある程度絶望を味わわせてから生き残りに恩を着せよう』と、そういう旨の便乗作戦であった。

シェバトが応える。

「はい、私も頃合いかと存じます。いま生き残っている人間どもは、後のルシフェル教信者候補。これ以上、悪戯に数を減らされますのも望ましくはございません」

ルシフェルは頷いた。
シェバトの同意を得て、命令を下す。

「じゃあみんな、お願いしてもいい? 七座天使メイド隊は、残った傭兵さんたちを守ってあげて。シェバトは俺の護衛をお願い」
「畏まりました。御心のままに」

座天使メイドたちが散開していく。
シェバトは不測の事態に備えてルシフェルの盾となるべく、一歩前に歩み出た。

「あとは帝国軍をどうするかだけど……。ねぇグウェンドリエル、ちょっと良いかな?」
「もちろんですわ。なんなりとお申しつけ下さいませ」
「うん、ありがとう。えっと俺さぁ、別に帝国兵を進んで殺したい訳じゃないんだよねー」

ルシフェルはあくまで辺境伯ヒースクリフに恩を売りたいだけ。
大量殺人がしたい訳じゃない。

しかしヒースクリフは帝国を憎んでいる。
なればここで帝国第五軍を壊滅するまで叩いて叩いて叩きまくれば飛び跳ねて喜ぶに違いない。
ばっちり恩も売れる。

けれどもルシフェルはヒースクリフがそれほどまでに帝国を憎悪している事なんて預かり知らぬし、仮に知っていたとしても、たまたま敵対しただけの帝国兵を虐殺したくはない。

なのでやっぱり次のように命じる。

「だからさ、グウェンドリエル。帝国の兵士を無闇に殺さずに、敵将のアレキサンド将軍だっけ? その人だけを捕まえて、ここまで連れてきて欲しいんだ。……出来る?」

これは単に帝国軍を全滅させるよりも難度の高い任務だ。
しかしグウェンドリエルは事もなく頷いた。

「ええ、承知致しましたわ。造作もないことです。それではルシフェル様。行って参りますわ!」

グウェンドリエルが一礼をした。
頭を上げる際に、金髪縦ロールを優雅にかき上げる。
髪がキラキラと光を反射した。

グウェンドリエルはルシフェルに背を向けると、近所でも散歩するかのような気負いのない足取りで、戦地を歩き出した。
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