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第5章 呪いの手紙編
第48話 呪いの手紙編⑤
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病院って独特の雰囲気と匂いがするわよね。足を踏み入れた瞬間から感じる”それ”に、何とも言えない感覚に苛まれている。
リディアは病院に来るのが初めてなのか、珍しいもの見たさでキョロキョロしている。
「っと…この病室ね。」
「…そうみたい。」
病室の扉の横には、部屋番号と名札が掲げられていた。アタシたちは間違いのないように確認し、そっとドアをノックした。
すぐに女性の声ではいはーいと返事が聞こえてきた。少し高くて優しい声色の女性はドアの隙間から顔を覗かせ、アタシとリディアを見つけて『あっ』と声を出した。
「これは、レッドフォード伯爵!お初にお目にかかります、わたくしデニー・マクミランの母のクロエと申します~。」
下がり気味の目尻と話し方も相まって、おっとりという言葉が似合いそうなお母様だと感じた。関係のないことを考えてしまった思考を払い、アタシは彼女にお土産を渡す。
「本日は急なお願いにも関わらず、ご対応していただきありがとうございます。こちらつまらないものですが、よろしければ…。」
「あら、あらあら…!すみません、お気遣いありがとうございます~…!」
そう言って差し出し合ったアタシとマクミランさんの左腕は、呪いで真っ黒になっていた。お互い思わず相手の腕を見てしまい、2人同時に謝罪を入れた。
「ごめんなさい、つい見てしまって。やはり、呪いにかかった方はそういう見た目になるのですね。私だけじゃなくて少し安心してしまいました。」
「いえいえ、気になりますものね!」
アタシは相手を気負わせないように、明るく振舞う。
「あら、そちらの方はお嬢様ですか?」
「ええ、アタシの娘のレティシアです。レティシア、挨拶なさい。」
「こんにちは、レティシアです。」
ここ数か月でリディアもレティシアに成りきるのに慣れてきたのか、躊躇いもなく偽名を名乗りお辞儀をする。アタシとリディアはマクミランさんに促され、病室の中に入っていった。
「…ママ、その人が例の?」
「そう、レッドフォード伯爵よ。デニー、挨拶しましょうね。」
病室のベッドで寝ていた少年が体を起こし、アタシたちに頭を下げる。
「こんにちは、デニー・マクミランです。気軽にデニーって呼んでください。」
デニーはそう言いながら、か細く微笑んだ。彼は心臓の病気で入院しているらしく、魔法による治療を受けているそうよ。年齢は8歳と比較的リディアと近く、そんな小さな体で懸命に治療を受けていると考えると胸が痛くなるわね。
病室に入ると簡易的な椅子を2つ用意され、アタシとリディアは一礼して腰を掛ける。
「私、レティシアって言います。デニーよろしくね!」
椅子から降りたリディアは、デニーの元に行き握手を求めた。デニーは恥ずかしがりながらもおずおずと手を差し出し、リディアの握手に答えた。
「…?」
リディアは握手をする手を離すことなく、握り続けている。デニーもマクミランさんも不思議そうな顔をしているけど、特に何も言わずに待ってくれている。
何の前触れもなく過去視の力を使うのやめなさいと言いたいところだけど、これ以上変に思われるのは避けたくてアタシは黙って2人を見守る。
「…この子、少し特殊な魔法が使えるんです。それで、デニー側の呪いの手紙の効果を確かめているそうです。」
「な、なるほど?」
アタシは辛うじてそれだけ伝えると、再び視線を2人に戻した。
「…もう大丈夫。デニー、ありがとう。」
数十秒黙っていたアタシたちだったけど、沈黙を破ったのはリディアだった。
「今度はお母さんの方。手、少し見せて?」
「え?ええ、はいどうぞ。」
先ほどと同じように、リディアはマクミランさんと握手をするような形になり力を使っている。その間に、デニーが興味深いことを話し始めたわ。
「このE病棟の患者と看護師の間でだけ有名な、ある都市伝説があるんです。それが実は呪いの手紙の原因じゃないかとまで言われていて。」
「…詳しく聞かせていただけるかしら?」
デニーはゆっくり頷くと、『お話は得意じゃないので、分かり辛かったらごめんなさい。』と前置きをする。そのタイミングでリディアの過去視が終わったのか、リディアは小さくありがとうと言って自分の席に戻った。
「私も聞きたい、その都市伝説。」
「お話しますね、その名も”ヘンリー少年の手紙”です。」
リディアは病院に来るのが初めてなのか、珍しいもの見たさでキョロキョロしている。
「っと…この病室ね。」
「…そうみたい。」
病室の扉の横には、部屋番号と名札が掲げられていた。アタシたちは間違いのないように確認し、そっとドアをノックした。
すぐに女性の声ではいはーいと返事が聞こえてきた。少し高くて優しい声色の女性はドアの隙間から顔を覗かせ、アタシとリディアを見つけて『あっ』と声を出した。
「これは、レッドフォード伯爵!お初にお目にかかります、わたくしデニー・マクミランの母のクロエと申します~。」
下がり気味の目尻と話し方も相まって、おっとりという言葉が似合いそうなお母様だと感じた。関係のないことを考えてしまった思考を払い、アタシは彼女にお土産を渡す。
「本日は急なお願いにも関わらず、ご対応していただきありがとうございます。こちらつまらないものですが、よろしければ…。」
「あら、あらあら…!すみません、お気遣いありがとうございます~…!」
そう言って差し出し合ったアタシとマクミランさんの左腕は、呪いで真っ黒になっていた。お互い思わず相手の腕を見てしまい、2人同時に謝罪を入れた。
「ごめんなさい、つい見てしまって。やはり、呪いにかかった方はそういう見た目になるのですね。私だけじゃなくて少し安心してしまいました。」
「いえいえ、気になりますものね!」
アタシは相手を気負わせないように、明るく振舞う。
「あら、そちらの方はお嬢様ですか?」
「ええ、アタシの娘のレティシアです。レティシア、挨拶なさい。」
「こんにちは、レティシアです。」
ここ数か月でリディアもレティシアに成りきるのに慣れてきたのか、躊躇いもなく偽名を名乗りお辞儀をする。アタシとリディアはマクミランさんに促され、病室の中に入っていった。
「…ママ、その人が例の?」
「そう、レッドフォード伯爵よ。デニー、挨拶しましょうね。」
病室のベッドで寝ていた少年が体を起こし、アタシたちに頭を下げる。
「こんにちは、デニー・マクミランです。気軽にデニーって呼んでください。」
デニーはそう言いながら、か細く微笑んだ。彼は心臓の病気で入院しているらしく、魔法による治療を受けているそうよ。年齢は8歳と比較的リディアと近く、そんな小さな体で懸命に治療を受けていると考えると胸が痛くなるわね。
病室に入ると簡易的な椅子を2つ用意され、アタシとリディアは一礼して腰を掛ける。
「私、レティシアって言います。デニーよろしくね!」
椅子から降りたリディアは、デニーの元に行き握手を求めた。デニーは恥ずかしがりながらもおずおずと手を差し出し、リディアの握手に答えた。
「…?」
リディアは握手をする手を離すことなく、握り続けている。デニーもマクミランさんも不思議そうな顔をしているけど、特に何も言わずに待ってくれている。
何の前触れもなく過去視の力を使うのやめなさいと言いたいところだけど、これ以上変に思われるのは避けたくてアタシは黙って2人を見守る。
「…この子、少し特殊な魔法が使えるんです。それで、デニー側の呪いの手紙の効果を確かめているそうです。」
「な、なるほど?」
アタシは辛うじてそれだけ伝えると、再び視線を2人に戻した。
「…もう大丈夫。デニー、ありがとう。」
数十秒黙っていたアタシたちだったけど、沈黙を破ったのはリディアだった。
「今度はお母さんの方。手、少し見せて?」
「え?ええ、はいどうぞ。」
先ほどと同じように、リディアはマクミランさんと握手をするような形になり力を使っている。その間に、デニーが興味深いことを話し始めたわ。
「このE病棟の患者と看護師の間でだけ有名な、ある都市伝説があるんです。それが実は呪いの手紙の原因じゃないかとまで言われていて。」
「…詳しく聞かせていただけるかしら?」
デニーはゆっくり頷くと、『お話は得意じゃないので、分かり辛かったらごめんなさい。』と前置きをする。そのタイミングでリディアの過去視が終わったのか、リディアは小さくありがとうと言って自分の席に戻った。
「私も聞きたい、その都市伝説。」
「お話しますね、その名も”ヘンリー少年の手紙”です。」
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