オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸

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第5章 呪いの手紙編

第50話 呪いの手紙編⑦

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「アンタ途中いきなり元気なくならなかった?デニーの気まずい過去でも見ちゃったの?」

アタシは移動車を運転しながら、リディアに声をかける。リディアは『あー』とか『まあね』とか曖昧な言葉しか返してこない。

「見たくないものまで見えることには慣れているんだけどね。」
「アタシの過去は嬉々として暴露してくれたのに。」
「それはそれ、これはこれ。見ちゃったんだよね、デニーの死の間際を。」

アタシの思考が一瞬固まり、すぐさま目の前の景色を捉え始めた。
リディアは何て言った?デニーの死の間際を見た、ですって?

「…それは本当?」
「聖女リディアの力は嘘をつかない。デニーは病気が悪化して、1~2か月で死んじゃうの。本当は、文通の提案も乗り気じゃなかったんだけどね。」

勝手に未来を見てしまった手前、断るのも罪悪感があったらしい。リディアは意気消沈気味にそう答えた。
アタシは返す言葉が見つからなくて、黙ってしまった。さっきまで親しく話していた人物の、死までの時間というセンシティブな情報を知らされて、何も言えなくなってしまった。リディアが勝手に言っているだけで、確定事項じゃないのに。アタシってば真に受けちゃって、失礼な人よね。

「…まだ分からないから、前向きに考えましょう。大丈夫よ、きっと。」
「…そうだね。」

リディアの表情は晴れないままだったけど、アタシはリディアに元気を押し付けた。

「…そういうアディこそ、何か知ってるんでしょ?」
「何が?」
「マリア・オーブリーのこと。私が彼女の名前を出した時、びっくりしてペン落としていたじゃん。」

あらやだ、気付いていたのねこの子。アタシが動揺してペンを落としていたってことに。

「…アンタのこと信じるから教えるけど、内密にね。5年ほど前ね。まさにヘンリー少年がロジャー魔法大病院に入院していたとされる頃の話よ。」

別の病院の緩和ケア病棟にいる女の子のご両親から、連絡を貰ったの。娘はもう明日にでも死ぬかもしれないけど、モンスタっちが手に入らないってね。
娘の最後のお願いを聞いてあげたくて、ご両親は色々なお店を梯子したけど、どこにもなくてね。当時モンスタっちは発売して2年くらいだったかしら?まだまだ人気が衰えていない時期だったから、店頭に並ぶ機会も限られていてね。

ダメ元でレッドフォード社の経営者であるアタシに連絡してきたのが、オーブリー夫妻。
そう、娘の名前は”マリア・オーブリー”だったわ。


「ほわあ。何という偶然?」
「アンタから名前を聞いて、当時のことが鮮明に頭の中をよぎったわ。色々な話しの中でアタシは聞いていたのよ、マリアが文通をしていたって話を。相手の名前までは聞いていないんだけどね。」

文通相手の子に手紙を出せなくなって、相手からも返信が来なくなった。だからオーブリー夫妻は、相手の子も亡くなったんだと思ったと言っていたのよ。同じように病気で入院しているという相手の事情は、娘から聞いていたみたいでね。

アタシが渡したモンスタっちを、目覚めない娘の枕元に置いて、涙ながらに話してくれたわ。

「…間に合わなかったの?」
「…ええ、アタシの独断で全てを決めるわけにはいかなくてね。…というのは言い訳なんだけど。当時まだレッドフォード社を継いで数年しか経っていなかったから。アタシもヒヨッコだったのよ。」

間に合わせてあげたかったわよ、と溜息交じりに口に出す。そんなアタシの様子を見て、リディアはこの件についてこれ以上は尋ねてこなかった。


「…で、リディア。アンタの力で分かったことは?」
「えっとね、デニーの言っていた都市伝説。あれ物書きのお姉さんが作ったって言っていたじゃん?作り話だけど真実みたい。呪いがそう教えてくれた。」

リディアはそう告げながら、アタシの顔をじっと見ていた。何よ。

「そこにはイケメンしかないわよ。」
「そうだね。」
「………。」

アタシは軽口を言ってみたけど、リディアは肯定の一言で終わらせてしまった。本当に何なのよ。

「多分だけど、ヘンリー少年の魂はこの世界に囚われたままなんだと思う。彼の魂を癒してあげない限り、呪いの手紙がどこかに届き続ける。」
「…ヘンリー少年の遺体を見つければいいって感じかしら?」
「だと思う。私の力を駆使すれば、少し時間はかかるけど遺体を見つけてあげることもできるはず。」

おそらく、リディアは口にしていないだけで、マクミラン親子の呪いから得た情報以外にも、病院そのものから得た情報もあるんだと思うわ。だから、こういう結論に既に辿り着いているんだと思う。

「あとね、今日のやりとりで1つ、思い当たることがあるの。」
「思い当たることって?」
「確信はないから、言わないでおく。数日待ってほしい。必ず新しい情報を掴んでくるから。」
「…?ええ、分かったわ?」

アタシは言われるがまま、リディアの言うことに頷いた。この子にはこの子の考えがあるみたいね。変なことをしないように見守りつつ、お任せしましょう。
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