オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸

文字の大きさ
52 / 72
第5章 呪いの手紙編

第52話 呪いの手紙編⑨

しおりを挟む
_あれから数日。
アタシとリディアとオーブリー夫妻は、マリア・オーブリーのお墓に来ていた。定期的に夫妻が来ているのか、彼女のお墓は苔1つ無い綺麗な墓石だった。

「この国では、お墓参りというのは頻繁にするものではないでしょう?だけど、私と妻は、定期的にここに来ているんです。マリアが寂しくないように。」

そう言ったのは、夫のシド・オーブリーさんだった。手慣れているのか、夫婦はテキパキとお墓のお手入れをしていく。アタシとリディアは部外者だから、お花とお供え物を持って端で待機しているわ。

「…お嬢様が亡くなられた日のこと、覚えています。間に合わなくて申し訳ありません。」
「あらあら、やめてくださいレッドフォード伯爵。伯爵は私たち夫婦の無茶なお願いを叶えてくれたではありませんか。」

そう言って、アタシは妻のロベルタ・オーブリーさんに窘められた。供えられた花の香りが、風に乗ってアタシの鼻に届く。


_______。

「一通りお祈りも済みましたし、帰りましょうか。レッドフォード伯爵とレティシアちゃん、是非うちに寄っていってください。マリアの好きだったアップルパイとポテトフライを用意したんです。…ちぐはぐなメニューで申し訳ないですけど。」

この国の故人への弔いにはいくつかの方法があり、親族や関係者で集まって故人の好物を食べる食事会もその1つだったりするわ。

「ええ、お邪魔しますわ。」
「その時に娘の手紙をお渡ししますね。…すみません、本当はここで渡そうと思ったんですけど、無くしてしまいそうで怖くてね…。」
「いえいえ、大丈夫ですわ。」

オーブリー夫妻はお墓の周りを軽く片付け、アタシたちは墓地を後にする。

「…あ、待って。」

それまで無言を貫いていたリディアが口を開き、マリアのお墓の前に駆け寄った。

「あらら、どうかしましたか?レティシア様。」
「…個人的に、マリアにご挨拶したくて。」
「まあ、嬉しい。マリアもきっと喜びますわ。」

リディアはお墓の前でお祈りをすると、小さく呟く。

「マリア・オーブリーに聖女リディアの祝福がありますように。」
「…まあ、あらあら。」
「ははは、素敵ですね。マリアにも、きっと届くことでしょう。」

オーブリー夫妻はリディアの祝福を本気にしていないのか、微笑ましい表情でリディアを見守っている。
まあ、それが普通の反応ね。小さい子供が、聖女リディアの名前を借りているようにしか見えないものね。

今度こそ本当に、アタシたちはマリアのお墓を後にした。

_______。

_帰りの移動車の中。
オーブリー夫妻と別れたアタシとリディアはそのまま、バナハン共同墓地に向かっていた。

「マリアの遺品の中に、ヘンリーに宛てた手紙があったんだね。」
「ええ。この後に病状が悪化して、それどころではなくなってしまったと言っていたわ。この手紙のことを知ったのは、マリアが亡くなってからだって。」

オーブリー夫妻はアタシたちの話を聞いてくれた。呪いの手紙のこと、ヘンリー・マッカリース少年のことを。

最初は半信半疑といった調子だったけど、話を進めていくうちに娘に関する核心的な情報がいくつか出てきたおかげて、夫婦は2人とも信じてくれたわ。
娘の唯一のお友達であった彼が苦しんでいるのなら協力してあげたいと申し出てくれて、アタシとリディアに手紙を託してくれたの。

「アンタの力にかかっているわ。最後まで気を抜かないようにね。」
「もちろん。アディもね?」

この呪いの手紙騒動は終わりに近づいている。呪いの主も救われてほしいわね。
アタシは動かしづらい左腕に力を込めて、移動車のハンドルを握りしめた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

処理中です...