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最終章 偽聖女編
第60話 偽聖女編④
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「うーん、色々困ったなあ。」
リディアは腕を組みながら、何か考え事をしていた。アタシは心眼で見た光景を、1人頭の中で整理する。
心眼で見た範囲ではあるけど、王城と聖神殿の内部の構造は頭に叩き込んだ。おそらく、敷地内で迷子になってもある程度無事に出てくることはできると思う。
問題は、どう考えても聖女を名乗る異世界転移者らしき女性でしょうね。
「私個人的には、聖女の座をくださいって言われたら『どうぞどうぞ』って渡しちゃうんだけどね。」
「でしょうね。王城から逃げてきた上に、今まで戻ろうとする気配すらなかったもの。」
リディアは頭を上げて私情を挟んできたかと思うと、再び俯きながら辺りをウロウロし始めた。アタシはリディアの考え事が終わるまで、椅子に座って様子を見ていることにした。
しばらくすると、リディアは立ち止まり部屋の一点を眺めていた。何かあるのかと思って視線をそちらに向けてみるけど、特に変わった様子はない。
「…幽霊でも見えているの?」
「ううん、気をそらしていただけ。考え事で頭がパンクしないように。」
思考がまとまったのか、リディアは組んでいた腕を戻してアタシの元に駆け寄る。アタシの座っている椅子の横に音を立てて座り、こちらを見てくる。
「正確に言うと、私は神の末裔ではなく”神がこの世に顕現させた神自身の化身”なの。この設定は覚えてる?」
「設定とか言うのやめなさい。覚えているわよ。」
「神が作ったのはこの世界そのもの。この世界自体が神自身と結びついているとも言えるよね。」
そういうものなのかしら。神という親から生まれたこの世界という子供は、リディアの話の中ではイコールなのね。
「つまり、神の化身である私自身も同義。」
「…それで?」
「如何なる存在であっても、聖女リディアには成り代われない。成り代わるって言っても、実際には口だけの宣言でしかないんだよね。だから、あのミネルバって人には元の世界に帰ってもらうしかないかなって。」
リディアは宙に浮いた足をパタパタさせながら、アタシに解説をする。
「あとねー、聖女の力…つまり神の力を持っていない者が聖女に成り代わるとどうなるか。」
「ん?成り代わりは口先だけの宣言になるのよね?」
「うーん、ちょっと世界の理は複雑なの。一応、私の意思があれば、あの人を聖女として祀ること自体はできるんだけど。」
リディアは複雑そうな顔のまま、アタシの目を見つめる。意を決したように、ゆっくりと目を閉じて口を開く。
「聖女の力を持たない者を聖女として祀ると、えっと、世界が滅ぶの。」
「え?」
「世界のバランスが崩れて、国どころかこの世界ごとぐしゃってなるの。だから、聖女の地位の譲渡自体は技術的に可能なんだけど、世界というシステムには対応できずに世界が壊れるの。」
アタシはリディアの方をまじまじと見つめる。リディアは茶化す様子もなく、真剣な眼差しをしている。この子の言っていることは嘘じゃないのが伝わってくるわ。
「それが事実だとして、何でアンタはそんなこと知ってるの?世界の存続に関わる根源じゃないの。」
「それは、私が”世界の調律者”として、神から人に託された存在だから。聖女リディアは神の化身であると同時に、この世界を支える重要なネジであり歯車なの。」
何だか壮大な話になってきたわね。
要するに、あのミネルバって人は聖女には成り得ないし、元の世界に戻す以外解決策はないということね。
「それにしても、何であの人は過去視ができるんだろう。未来視もできるのかな。あと、この世界の言語を理解できているのも謎。元の世界とは違う独自の言語文化のはずなのに。もしかして、この世界のどこかにはローゼシアと同じ文字文化を持つ国があったり?うーん、でもでも…」
リディアは徐々に自分の思考の中に入っていき、完全に1人で自問自答を始めてしまった。無理に現実に引き戻す必要もないし、とりあえずそっとしておきましょう。
________。
リディアが自分の世界に入り込んでから5分くらいが経過した頃かしら。段々と独り言すら言わなくなって、顎にてを置いたまま動かなくなって、今に至るわ。
ゆっくりと顔を動かしてアタシの方を見てくるから、アタシは言葉の続きを促した。
「決めたよ、アディ。私1人でミネルバに会いに行ってくる。」
リディアは何かを決心したかのような表情になっていて、心なしかすっきりとした顔をしている気がする。でもちょっと待ちなさい、何を言っているの?
「待って、そんな危ないことするの?」
「うん。どのみち、何もしないでいても進展しないし、私1人くらいならあの人のところまで行って帰ってくることくらいできると思う。」
真剣な眼差しをしているリディアに対し、アタシはダメ元で提案をしてみる。
「うーん…アタシが一緒に行くことはできないのよね…?」
「できなくはないけど、はっきり言って足手まといになる。王城侵入という状況に至っては、私1人のほうが行動しやすいの。」
足手まといだってはっきり言ってくれるわね。だけど、王城はアタシにとって未知の世界。さっき心眼である程度構造を把握したとはいえ、完璧ではない。
現時点でリディアが考えているのは、ミネルバから話を聞くことだけのようだし、それならこの子に任せてしまってもいいのかしら。心配しているアタシを他所に、リディアは自信ありげな態度を崩さない。
「アディ安心して。伊達に3000年あのお城の中で生活していたわけじゃないの。秘密の抜け道や通り道も、私は細かく把握しているの。だからここは信じて任せて、待っていて。」
リディアは腕を組みながら、何か考え事をしていた。アタシは心眼で見た光景を、1人頭の中で整理する。
心眼で見た範囲ではあるけど、王城と聖神殿の内部の構造は頭に叩き込んだ。おそらく、敷地内で迷子になってもある程度無事に出てくることはできると思う。
問題は、どう考えても聖女を名乗る異世界転移者らしき女性でしょうね。
「私個人的には、聖女の座をくださいって言われたら『どうぞどうぞ』って渡しちゃうんだけどね。」
「でしょうね。王城から逃げてきた上に、今まで戻ろうとする気配すらなかったもの。」
リディアは頭を上げて私情を挟んできたかと思うと、再び俯きながら辺りをウロウロし始めた。アタシはリディアの考え事が終わるまで、椅子に座って様子を見ていることにした。
しばらくすると、リディアは立ち止まり部屋の一点を眺めていた。何かあるのかと思って視線をそちらに向けてみるけど、特に変わった様子はない。
「…幽霊でも見えているの?」
「ううん、気をそらしていただけ。考え事で頭がパンクしないように。」
思考がまとまったのか、リディアは組んでいた腕を戻してアタシの元に駆け寄る。アタシの座っている椅子の横に音を立てて座り、こちらを見てくる。
「正確に言うと、私は神の末裔ではなく”神がこの世に顕現させた神自身の化身”なの。この設定は覚えてる?」
「設定とか言うのやめなさい。覚えているわよ。」
「神が作ったのはこの世界そのもの。この世界自体が神自身と結びついているとも言えるよね。」
そういうものなのかしら。神という親から生まれたこの世界という子供は、リディアの話の中ではイコールなのね。
「つまり、神の化身である私自身も同義。」
「…それで?」
「如何なる存在であっても、聖女リディアには成り代われない。成り代わるって言っても、実際には口だけの宣言でしかないんだよね。だから、あのミネルバって人には元の世界に帰ってもらうしかないかなって。」
リディアは宙に浮いた足をパタパタさせながら、アタシに解説をする。
「あとねー、聖女の力…つまり神の力を持っていない者が聖女に成り代わるとどうなるか。」
「ん?成り代わりは口先だけの宣言になるのよね?」
「うーん、ちょっと世界の理は複雑なの。一応、私の意思があれば、あの人を聖女として祀ること自体はできるんだけど。」
リディアは複雑そうな顔のまま、アタシの目を見つめる。意を決したように、ゆっくりと目を閉じて口を開く。
「聖女の力を持たない者を聖女として祀ると、えっと、世界が滅ぶの。」
「え?」
「世界のバランスが崩れて、国どころかこの世界ごとぐしゃってなるの。だから、聖女の地位の譲渡自体は技術的に可能なんだけど、世界というシステムには対応できずに世界が壊れるの。」
アタシはリディアの方をまじまじと見つめる。リディアは茶化す様子もなく、真剣な眼差しをしている。この子の言っていることは嘘じゃないのが伝わってくるわ。
「それが事実だとして、何でアンタはそんなこと知ってるの?世界の存続に関わる根源じゃないの。」
「それは、私が”世界の調律者”として、神から人に託された存在だから。聖女リディアは神の化身であると同時に、この世界を支える重要なネジであり歯車なの。」
何だか壮大な話になってきたわね。
要するに、あのミネルバって人は聖女には成り得ないし、元の世界に戻す以外解決策はないということね。
「それにしても、何であの人は過去視ができるんだろう。未来視もできるのかな。あと、この世界の言語を理解できているのも謎。元の世界とは違う独自の言語文化のはずなのに。もしかして、この世界のどこかにはローゼシアと同じ文字文化を持つ国があったり?うーん、でもでも…」
リディアは徐々に自分の思考の中に入っていき、完全に1人で自問自答を始めてしまった。無理に現実に引き戻す必要もないし、とりあえずそっとしておきましょう。
________。
リディアが自分の世界に入り込んでから5分くらいが経過した頃かしら。段々と独り言すら言わなくなって、顎にてを置いたまま動かなくなって、今に至るわ。
ゆっくりと顔を動かしてアタシの方を見てくるから、アタシは言葉の続きを促した。
「決めたよ、アディ。私1人でミネルバに会いに行ってくる。」
リディアは何かを決心したかのような表情になっていて、心なしかすっきりとした顔をしている気がする。でもちょっと待ちなさい、何を言っているの?
「待って、そんな危ないことするの?」
「うん。どのみち、何もしないでいても進展しないし、私1人くらいならあの人のところまで行って帰ってくることくらいできると思う。」
真剣な眼差しをしているリディアに対し、アタシはダメ元で提案をしてみる。
「うーん…アタシが一緒に行くことはできないのよね…?」
「できなくはないけど、はっきり言って足手まといになる。王城侵入という状況に至っては、私1人のほうが行動しやすいの。」
足手まといだってはっきり言ってくれるわね。だけど、王城はアタシにとって未知の世界。さっき心眼である程度構造を把握したとはいえ、完璧ではない。
現時点でリディアが考えているのは、ミネルバから話を聞くことだけのようだし、それならこの子に任せてしまってもいいのかしら。心配しているアタシを他所に、リディアは自信ありげな態度を崩さない。
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