オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸

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最終章 偽聖女編

第66話 偽聖女編⑩

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幻影のリディアの灰が海に撒かれて、人々が撤収した頃に、本物のリディアは幻影を解いた。リディアは右手を首に当てて、肩の筋をほぐすようにストレッチのような仕草をしている。

「灰の幻影を作り出すのって意外に大変なんだね。」
「…そういうものなのね。」
「うん。気を抜くと姿や形が変わってしまいそうだし、灰になってからが一番気を遣ったかも。」

一連の流れを見届けたリディアは、心眼を解除しアタシの脳内に流れる映像も消えた。リディアは机の上にあった氷入りの水の入った水差しを震える手で持ち、近くにあったグラスに水を注いでいく。並々に注がれて持てそうにないグラスの縁に口を付け、啜るように水を飲んでいる。ある程度水かさが減ってからグラスを手に取り、かぷかぷと音を立てながら一気に水を飲んでいく。

「ぷは。さてと、ここからが本番だと思うよ。王族がどう出るか。」
「未来視である程度の未来は予測できているんでしょう?」
「うん。でも、100%と断言するのは少し怖いかな。私が見た未来通りになるように、しばらくは様子見かな。」

そう言うと、リディアは再びグラスに水を注いで飲み干していく。ちょっとは加減して飲みなさい。氷入りなんだから一気に飲むとお腹冷やしちゃうでしょ。

________。

幻影のリディアが処刑されて1週間が経過した頃、世界に異変が訪れた。

某国1。西岸部で津波が発生し、数キロメートル範囲に渡り建物が倒壊。無人地域だったため死者は出なかったものの、対応にあたった軍人数十名の怪我人が出た。

某国2。管理している無人の孤島で大規模な地震が発生。観測できる限り島の3割の固有種の動物が死滅し、一部の種は観測不能に陥った。島には動物の死骸があちこちに転がっており、それを嗅ぎつけた別種の動物が島に訪れ食い荒らす事態に発展している。

某国3。国内の半分を占める森林地帯で火災が発生。逃げ惑う動物たちと住処を追われる人々で国は大混乱に陥る。政府は早急に国民を受け入れてくれる移民先を探しているが、交渉は難航している。


「…これが、リディアを殺したことによる世界の崩壊なのね。」
「うん。でも安心して。殺したのは幻影のリディアだから、この世界の崩落は一時的なもの。この世界の崩落が収束する前に、王族がアディを頼ってきてくれるかが鍵。」
「まあ、来なかったとしても、タイミングを見計らってアタシがご神体を持って王族と政府を脅しに行けばいいのよね?」
「そうそう。…一部の人たちには申し訳ないけど、これから起きる被害は考えられるものの中でも最小限に留めた結果になるの。」

『後は早急にことの対応をできるかがポイントになるかな』と言いながら、リディアは座っている椅子の背に体を沈める。

「この国にもいずれ異変が起きる。その時の災害で私とアディが死ぬ可能性がないわけじゃない。」
「そうよね。アタシたちが生きている前提の作戦だけど、死ぬ可能性もあるのよね。」
「まあでも、ここは信じてほしい。聖女リディアの力を。」

________。

某日、ローゼシア王国の自然保護地区で地割れが発生。ユニコーンの群れが落ち、再起不能になる事態が発生。政府は急いで対応にあたるものの、最中に再び地割れが発生。複数名の犠牲者が出る惨事となった。

某日、ローゼシア王国内の火山が噴火。噴煙により地元住民と登山客が犠牲になる事故となり、政府と火山のあるイムドール領の領主は対応に追われた。

某日、ローゼシア王国全土で地震が発生。大きなものではなく幸い死者は出なかったものの、一部地域では建物が倒壊したり生活システムが麻痺したりと支障が生じる結果となる。


幻影リディアが処刑されてしばらくの間、世界各地で様々な災害が起きたわ。もちろん、中にはリディアの処刑とは関係なく起きたものもあると思うわよ。
リディアも言っていたの。『世界の崩壊が始まるのは事実だけど、それとは関係なく災害自体は起こる。』ってね。でもまあ、判断する術はないから、全部リディアの処刑が原因だって思っても仕方ないわね。

さて、そろそろかしら。ローゼシア政府も王族も、焦って色々対応をしているとは思うわよ。だけど、偽聖女であるミネルバにこの状況を打破する力なんてないはず。

…そういえば、リディアあの子、あれ以来ご神体をどこに保管しているのかしら。

……あれ?アタシってば、あの子が持っているとばかり。

………。


リディアーーーーー!!!


________。

Side:?

「連日世界中で起こる大災害の数々!この国もいずれ崩壊します!ご対処を!」

「この世界は終わりだ…さようなら、お父さん、お母さん…。」

「ライオネル国王!聖女様のお力を頼りましょう!」

ローゼシア政府は、国の各地で起こっている災害の対応に追われていた。
ローゼシア国王ことライオネルには心当たりがあった。聖女リディアを処刑したことである。彼は古い文献で得た知識を信じていなかったのだ。所詮埃の被った本の伝承であると。

”聖女リディアは神の化身であり、世界そのものである調律者である”

千年以上前に書かれた、根拠のない書物を信じる者がいるのだろうかと1人自問自答をする。しかし、答えなど誰も教えてくれない。


________。

Side:ミネルバ

「新聖女ミネルバ、ご対応をお願いします!」
「………。」

私は今、ライオネルのおじさんに頭を下げて迫られている。無意識に眉間に皺を寄せながら、顔が歪む。

…聞いてない、聞いてない!こんなことになるなんて。
いや、正確には聞いていた。あの日この部屋に来たリディアを名乗る子供が、成り代わりによる弊害として世界の崩壊の話をしていたのは覚えている。

だけど、あんなの嘘だと思うじゃん!?
この国の聖女とかいう存在、異世界転移の特典くらいの感覚で、私に付与される程度の力しか持っていないんだよ!?

私に世界を律する力なんて持っていない。リディアの言っていることが本当なら、リディアのみがこの状況に対応する力を持っているはず。

でも、リディアはもういない。

何故?私が処刑を命じたから。


つまり、この世界は終焉を辿るしかない…?


「新聖女ミネルバ、貴女しかこの状況を変える術は持ち合わせていません。聖女様ですから!」
「いや、その…。」
「新聖女様、ご対処を!」

ライオネル国王以外の大臣も大勢部屋に押しかけ、私に頭を下げてくる。

「…分かりました。」
「…おお!新聖女ミネルバ、打破する術があるのですね!」

この場にいる全員が、顔を見合わせ笑顔で喜んでいる。この世界の終末を回避できるのではないかという喜びに満ち溢れている。

「数日以内に対処します。しばらく、1人にしてください。護衛も使用人も全員、いかなる者も私の部屋に近づかないでください。」

私の言葉を信じ、王族と大臣たちは私の部屋を後にした。さっきまで部屋に広がっていた圧迫感とざわめきが、嘘のように静寂が訪れる。


「っあー。だっる。知るかっての!」


全部全部、逃げたリディアって子供が悪いに決まってるじゃん!!

なんで私だけがこんな目に合わなきゃいけないわけ!?

あーうざ。うざいうざいうざい!


…こんな文句言っていても、何も解決はしない。
私は椅子から立ち上がり、部屋にある手頃な鞄を取り出す。

「やば!このままだと全部私のせいにされるじゃん!逃げよ逃げよ!」


私は荷物をまとめて、この場所から逃げ出した。
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