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最終章 偽聖女編
第67話 偽聖女編⑪
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Side:?
「国王殿下、殿下!!」
「オーウェンか、何事だ。」
いつものように執務室で対応に追われていたライオネル国王の元に、オーウェン公爵が転げるように訪れた。ライオネルの周りには対応を待つ大臣が数人控えており、その場にいた全員が入口で項垂れているオーウェンの方に視線を向ける。
「ミネルバ様がいません!!部屋からいくつかの荷物を持ち出した痕跡があります!!」
「何だと…!?」
ライオネルは立ち上がり、すぐさま駆け出した。後ろから大臣の呼び止める声がするものの、無視してミネルバの部屋に向かう。廊下ですれ違う使用人や部下たちが何事かと驚いていたが、彼には周りの様子など気に留める余裕はなかった。
________。
「ミネルバ様!!」
ライオネルは一言だけ断りを入れると、勢いよくミネルバの部屋のドアを開けた。そこには少しだけ荒らされた部屋と、忽然と消えたミネルバの気配だけが残っていた。
ライオネルはようやくここで気が付いた。彼女が聖女でも何でもない、召喚術で召喚されただけの人間であることを。
見た目や持つ力こそ自分の知る聖女リディアと共通していたため、逃げたリディアの代わりに据えても良いのではないかと考えた。しかし、それは浅はかな考えだったのだ。
普段覚えていないことは、こういう時に限って鮮明に思い出す。
聖女リディアはただそこにいるだけの存在ではなく、世界そのものの歯車であることを。彼女の存在そのものが、この世界に必要とされている部品であることを。
「く…!世界中で起きている自然災害は、聖女リディアを処刑したことによる影響なのか…!!」
「ま、まさか、そんなこと…!国王殿下から一度だけお話を伺ったことがありますが、聖女リディアに関する逸話は伝承の中だけの存在であると…!」
聖女リディアの力で7人目の妻を召喚しようとしたことのあるライオネルだが、彼が初めてリディアを頼ったのもこの時が初めてだったりする。
前国王からも、その前の国王も、前の前の国王も、みんな聖女リディアを軽んじ伝承を蔑ろにしてきた。いつしか、聖女に関する話は全て、おとぎ話のようなものとして風化していった。王族は、ローゼシア国王は、都合の良い時のみ利用し、都合の良いことだけ受け入れ、それ以外の時には見向きもしない。
今現在、聖女リディアに関する知識はライオネル・ローゼシアの頭の中にしかない。歴代の王族がそう仕向けてきたからである。
「………ご神体。」
「え?」
「聖女リディアのご神体!!あれがあれば、聖女リディアを復活させられるはずだ!!」
「ご神体とは何ですか?聖女リディアを復活させられるとは?彼女はもう死んだはず…。」
困惑するオーウェンと部下たちに対し、ライオネルは項垂れたまま説明をした。
聖女リディアはご神体の金剛石によって具現化している存在であること、ご神体が本体であることを。
「と、簡単に説明したがこんな感じだ。…早く探せ!!他の者にも声を掛けろ!!世界が滅びる前に!!」
「か、かしこまりました!!」
ライオネルが大きな声を張り上げた瞬間に、地面が大きく揺れる。しばらくそれは続き、埃がパラパラと頭上に落ちてくる。棚にある本がずれ、机の上の水差しは倒れて中からぬるくなった水が零れていた。
「…収まったか。」
「国王殿下、ご無事でしたか!?」
「ああ、何ともない。これが噂に聞く地震か…。東洋の国では頻繁に起きると聞いたが…。」
一部地域でのみ観測されていた事案が、このローゼシア王国でも報告されるようになっていた。間違いなく、聖女リディアの処刑による影響は強くなっている。
「こんなことをしている場合ではない!急げ急げ!!金剛石を、ご神体を探せ!!」
________。
総出で王城、聖神殿を探し回ったが、聖女リディアのご神体である金剛石は見当たらなかった。ここに来てようやく、ライオネルは1つの可能性に辿り着いた。
「…オーウェン。」
「はい。」
「聖女リディアの逃亡先はどこだった?」
「…確か、セントサザール領のアドルディ・レッドフォード伯爵の元です。」
ライオネルとオーウェンは2人で顔を見合わせ、ハッとした。何故こんな簡単なことに気が付かなかったのかと、お互いを責めるように。
「ご神体がレッドフォード伯爵の元にある可能性は…。」
「存分にある!…が、しかし。く…。」
数々の失態を晒した上に、あのレッドフォード伯爵に頭を下げなければいけない事実は、ライオネルにとって屈辱だった。そんなこと言っている場合ではないと分かっていても、プライドがそれを許さない。
「国王殿下、迷っている場合ではありません!このままだと我々が死ぬのも時間の問題です。」
「う…ぐぐ…ぐ…!!」
ライオネルは整えられている髪をぐしゃぐしゃにするように頭を抱えた。しばらくそのままの姿勢でウロウロしたのち、勢いよくオーウェンの方に振り向く。
「背に腹は変えられん…!!世界が滅ぶより、死ぬよりマシだろう…!!」
「国王殿下…!」
「お前も一緒に頭を下げろ!セントサザール領のレッドフォード邸に行く準備をしろ!」
「国王殿下、殿下!!」
「オーウェンか、何事だ。」
いつものように執務室で対応に追われていたライオネル国王の元に、オーウェン公爵が転げるように訪れた。ライオネルの周りには対応を待つ大臣が数人控えており、その場にいた全員が入口で項垂れているオーウェンの方に視線を向ける。
「ミネルバ様がいません!!部屋からいくつかの荷物を持ち出した痕跡があります!!」
「何だと…!?」
ライオネルは立ち上がり、すぐさま駆け出した。後ろから大臣の呼び止める声がするものの、無視してミネルバの部屋に向かう。廊下ですれ違う使用人や部下たちが何事かと驚いていたが、彼には周りの様子など気に留める余裕はなかった。
________。
「ミネルバ様!!」
ライオネルは一言だけ断りを入れると、勢いよくミネルバの部屋のドアを開けた。そこには少しだけ荒らされた部屋と、忽然と消えたミネルバの気配だけが残っていた。
ライオネルはようやくここで気が付いた。彼女が聖女でも何でもない、召喚術で召喚されただけの人間であることを。
見た目や持つ力こそ自分の知る聖女リディアと共通していたため、逃げたリディアの代わりに据えても良いのではないかと考えた。しかし、それは浅はかな考えだったのだ。
普段覚えていないことは、こういう時に限って鮮明に思い出す。
聖女リディアはただそこにいるだけの存在ではなく、世界そのものの歯車であることを。彼女の存在そのものが、この世界に必要とされている部品であることを。
「く…!世界中で起きている自然災害は、聖女リディアを処刑したことによる影響なのか…!!」
「ま、まさか、そんなこと…!国王殿下から一度だけお話を伺ったことがありますが、聖女リディアに関する逸話は伝承の中だけの存在であると…!」
聖女リディアの力で7人目の妻を召喚しようとしたことのあるライオネルだが、彼が初めてリディアを頼ったのもこの時が初めてだったりする。
前国王からも、その前の国王も、前の前の国王も、みんな聖女リディアを軽んじ伝承を蔑ろにしてきた。いつしか、聖女に関する話は全て、おとぎ話のようなものとして風化していった。王族は、ローゼシア国王は、都合の良い時のみ利用し、都合の良いことだけ受け入れ、それ以外の時には見向きもしない。
今現在、聖女リディアに関する知識はライオネル・ローゼシアの頭の中にしかない。歴代の王族がそう仕向けてきたからである。
「………ご神体。」
「え?」
「聖女リディアのご神体!!あれがあれば、聖女リディアを復活させられるはずだ!!」
「ご神体とは何ですか?聖女リディアを復活させられるとは?彼女はもう死んだはず…。」
困惑するオーウェンと部下たちに対し、ライオネルは項垂れたまま説明をした。
聖女リディアはご神体の金剛石によって具現化している存在であること、ご神体が本体であることを。
「と、簡単に説明したがこんな感じだ。…早く探せ!!他の者にも声を掛けろ!!世界が滅びる前に!!」
「か、かしこまりました!!」
ライオネルが大きな声を張り上げた瞬間に、地面が大きく揺れる。しばらくそれは続き、埃がパラパラと頭上に落ちてくる。棚にある本がずれ、机の上の水差しは倒れて中からぬるくなった水が零れていた。
「…収まったか。」
「国王殿下、ご無事でしたか!?」
「ああ、何ともない。これが噂に聞く地震か…。東洋の国では頻繁に起きると聞いたが…。」
一部地域でのみ観測されていた事案が、このローゼシア王国でも報告されるようになっていた。間違いなく、聖女リディアの処刑による影響は強くなっている。
「こんなことをしている場合ではない!急げ急げ!!金剛石を、ご神体を探せ!!」
________。
総出で王城、聖神殿を探し回ったが、聖女リディアのご神体である金剛石は見当たらなかった。ここに来てようやく、ライオネルは1つの可能性に辿り着いた。
「…オーウェン。」
「はい。」
「聖女リディアの逃亡先はどこだった?」
「…確か、セントサザール領のアドルディ・レッドフォード伯爵の元です。」
ライオネルとオーウェンは2人で顔を見合わせ、ハッとした。何故こんな簡単なことに気が付かなかったのかと、お互いを責めるように。
「ご神体がレッドフォード伯爵の元にある可能性は…。」
「存分にある!…が、しかし。く…。」
数々の失態を晒した上に、あのレッドフォード伯爵に頭を下げなければいけない事実は、ライオネルにとって屈辱だった。そんなこと言っている場合ではないと分かっていても、プライドがそれを許さない。
「国王殿下、迷っている場合ではありません!このままだと我々が死ぬのも時間の問題です。」
「う…ぐぐ…ぐ…!!」
ライオネルは整えられている髪をぐしゃぐしゃにするように頭を抱えた。しばらくそのままの姿勢でウロウロしたのち、勢いよくオーウェンの方に振り向く。
「背に腹は変えられん…!!世界が滅ぶより、死ぬよりマシだろう…!!」
「国王殿下…!」
「お前も一緒に頭を下げろ!セントサザール領のレッドフォード邸に行く準備をしろ!」
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