オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸

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最終章 偽聖女編

第68話 偽聖女編⑫

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皆様ごきげんよう。
いえ、今はこんなふざけた挨拶をしている場合じゃないかもしれないわね。

聖女リディアが処刑された影響で、世界中で災害が起きているんだもの。セントサザール領でも小さな問題がポツポツと起きていて、アタシも対応に追われているわ。

リディア曰く、処刑されたのは実体のある幻影のリディアだから、しばらく災害が続いた のち、徐々に世界が元に戻るらしいんだけど。それを知らない人たちは混乱してもおかしくないわね。


そして今朝、ローゼシア国王を名乗る男性が、オーウェン公爵と複数名の大臣を連れてアタシの家に来たわ。
今アタシがいるのは王都にある別邸ではなく、セントサザール領の本家よ。ここ数日の災害被害の件で、こちらに戻って来ないといけなくなったから。

リディアは別室で待機しているわ。こんなタイミングでお菓子を暴食してないといいんだけど。


「…わざわざご足労いただきありがとうございます、皆様方。」

そう言いながら、アタシは各々にお茶とお茶請けを用意する。後ろに数名控えている大臣たちにも着席を勧めたけど、結構だと断られてしまったわ。

「それで、どんなご用件で?先日うちのレティシアは連行されてしまったので、ここにはもう誰もいませんよ。」

アタシはただ淡々と事実のみを並べる。言葉を選びながら、アタシはこれからの流れを頭の中で整理する。

おそらくこの人たちは、今起きている災害を止めるためにリディアのご神体を求めてここに来た。今この状況を早急に収めることができるのは、リディア本人以外いないと踏んでいるはず。

「単刀直入に申す。レッドフォード伯爵、聖女リディアのご神体を渡せ。」

(やはり来たわね。)

「別に…構いませんわ。…けど。」
「なんだ、交渉でもしようと言うのか?今は緊急事態なんだぞ!」
「よせ、オーウェン。まずは話を聞こうではないか。」

アタシが言葉を続けようとすると、オーウェン公爵が怒りを露わにしながらアタシを睨みつけてきた。焦りを抱えながらも、ローゼシア国王はアタシの話に耳を傾けようとしている。この国の王族、リディアの話的にはアレかと思ったけど、緊急時に冷静な判断と対応ができるという点は評価点かもしれないわね。

「処刑される前に、レティシアは…いえ、もう取り繕う必要はありませんね。リディアは今日のような日が来ることを想定して、契約書を残していったんですよ。」
「契約書?」
「ええ。」

そう言って、アタシは1枚の紙を目の前に出した。

「これは聖女リディアの魔法で作られた契約書で、普通の紙のようには破ったりすることができないものなんです。」

そう言いながら、アタシは紙を破ろうとしたり水をこぼしてみたりした。言葉通り、紙は伸びることもなく染みになることもなく、水に至っては弾くように消えていった。

「聖女リディアは貴方たちに協力すること自体はやぶさかではない、と言っていました。ご神体を渡しても構わないと。しかし…」
「しかし?」
「いくつかの条件を飲んでいただきたいと言っていました。詳しくはそちらの契約書をご覧ください。」

国王はリディアの契約書を手に取ると、上から順に目を通し始めた。

1つ目は、異世界転移者であるミネルバの捕獲と逆転移に協力すること。
2つ目は、聖女リディアにこれまでのことを謝罪をし、数千年前と同じような聖女として復職させた上で、聖女リディアの魔法具の製作に協力すること。

「…1つ目は分かるんだが、2つ目の意味は?魔法具とは何だ。」

リディア曰く、リディアの代わりに動く大規模な魔法道具のことらしいわ。この魔法具に聖女リディアの力を一部譲渡し、ご神体を据えることでリディアの代わりとなる役目を果たせるとのこと。外の世界で生きながら聖女としての仕事を両立するための手段が、この聖女リディアの魔法具なのよ。

「しかし、そんなものに頼って大丈夫なのか?そもそも可能なのか?作れるものなのか?」
「リディアの頭の中には、ある程度の設計案があるって言っていましたね。構成は頭の中にあり、10年ほどで作れるとか。」

アタシと国王が話していると、黙っていたオーウェン公爵が口を開いた。

「…馬鹿正直にレッドフォード伯爵の言うことを聞く必要がありますか?…レッドフォード伯爵、調子に乗るなよ。今ここでお前を殺して、聖女リディアのご神体を奪ってもいいんだぞ。」
「お、おい!オーウェン!」
「…別に構いませんよ。世界が終焉を迎え、塵1つ残らない無になるだけですから。」
「何だと?」

あらやだ、もしもの保険がこんなところで効くなんて。

リディアは少し前から、アタシにある術をかけているの。
それは『アドルディ・レッドフォードが殺された場合、聖女リディアのご神体も粉々に砕けてなくなる』という道連れの術よ。アタシの死イコール、聖女リディアの本当の死イコール、世界の終わりってこと。

「まあ、信じなくても結構ですけどね。アタシを殺してみます?みんな等しく平等に死ぬだけですから。」
「オーウェン、余計なことはするな!黙っていろ!」
「…失礼しました。」

ローゼシア国王に怒鳴られて、オーウェン公爵は渋々元の体勢に戻ったわ。無理矢理納得しましたって感じの顔ね。

「で、どうしますか?ライオネル・ローゼシア国王殿下。」

アタシはわざと国王のフルネームを呼んでみる。
契約書から顔を上げた彼の顔は、答えが決まっているように見えた。

「………良いだろう。ローゼシア国王現国王、ライオネル・ローゼシア。この契約を飲む。だから…助けてくれ、いや、助けてください。聖女リディア、我々をお導きください…!」

そう言いながら、国王は聖女リディアの契約書にサインをした。リディアには一応事前に普通のペンで良いのか聞いてきたけど、誰が契約するのかが重要なのであって筆記手段は何でも良いらしい。

「…確認を、レッドフォード伯爵。」

アタシは契約書を受け取り、内容を確認する。わざと契約書に水をこぼし、サインの部分を擦るように見せつける。普通のペンで書いたはずのサインは全く滲むことなく、最初から契約書に書かれていた文字のように紙の上に存在した。

「契約成立ですわね。では、聖女リディアのご神体をお持ちしましょう。聖女リディア本人も交えて、これからについて話し合いをしましょうか。」
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