オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸

文字の大きさ
69 / 72
最終章 偽聖女編

第69話 偽聖女編⑬

しおりを挟む
「よくもまあ、あんな聖女を名乗る不審者の言うことを信じて私を処刑してくれましたね。ローゼシア国王。」
「………申し訳ありません。」

契約成立から十数分後、アタシはリディアを部屋に通して、今後の話し合いを進めていた。リディアは聖女モードの口調になりながら、目の前にいる国王に長々と愚痴をこぼしている。

話しを戻すべく、アタシはリディアの口にクッキーを詰め込み黙らせる。国王とオーウェン公爵と大臣たちが『聖女の扱いそれで良いのか。』って顔をしているけど、アタシは無視して口を開く。

「…ところで、本当にこの者は聖女リディアなのか?我々の知っているリディアは、黒い髪にオレンジの瞳の10歳くらいの少女なのだが…。」
「…そうですね。お見せしましょう、聖女の力を。」

そう言うと、リディアは以前オーウェン公爵が持ってきた似顔絵とそっくりな少女の姿に変身した。目の前にいる国王たちはポカーンとしていて、口が開いたまま塞がっていない。

「…と、こんな感じに、見た目を変えて接していたのです。分かりましたか?話を進めましょう。」

リディアはすぐに元の姿に戻り、その場を仕切ろうと手をパンパンと叩く。その音で現実に引き戻された国王たちは、アタシとリディアに視線を向ける。

「偽聖女ミネルバの捕獲は私とレッドフォード伯爵の2人で充分です。国王たちは、私の復職後の待遇についての対応と、各地で起こっている災害への対応をお願いします。」
「この災害は早急に終わらせることができるのか?」
「今すぐにとはいきませんが、予定より早く収めることができるでしょう。そこは私に任せなさい。」

そして、しばらくアタシたちは今後について話し合いをした。
当初リディアが想定していた通りになって、話しも上手く進んだ。あの子は未来視でこの光景でも見たのかしら。

こうして、アタシとリディアは世界の鎮静とミネルバの捕獲と逆転移を、国王たちは聖女リディア復職への対応と、各地で起こっている災害への対応に尽力することが決まった。

________。

「んーむむむむむ。ほっ、やっ、せいっ。」
「そんな間の抜けた掛け声で世界の調律ができているの?」

_その日の夜。
リディアはよく分からない掛け声と共に、両手を動かしながら何かをしている。アタシの方を見向きもしないで、リディアは世界の調整を進めているらしいわ。目が宝石みたいに鏡面状になっているだけでなく、光を放ちながらキラキラしている。


「口を慎みなさいレッドフォード伯爵。今1割ほど世界の規律を整え終わりました。」
「あと9割ね。どれくらいかかるの?」

ローゼシア国王とオーウェン公爵を含む大臣たちは、打ち合わせの後すぐに帰っていったわ。聖女リディアの契約書があるとはいえ、ポンコツであることが否めないから今後の様子は注意していたほうが良いかもしれないわね。

「最短で明日の夜、最長で明々後日くらいで世界は元に戻ります。ミネルバの捜索はそれからでも遅くはないでしょう。時間を見つけてミネルバを見つけておくので、レッドフォード伯爵は地図と移動手段の用意をしつつ、セントサザール領の仕事をこなして待ちなさい。」

早口でそう言い残すと、リディアは再び目の前の何かに集中し始めた。アタシが見ていても何も進まないし、こっちはこっちでやることやっちゃいましょうかね。


「はい、明日改めてご連絡しますので。ええ、では失礼します。夜分遅くにごめんなさいね。」

セントサザール領は大きな災害には見舞われていないものの、被害が全くないというわけではない。北部の山岳で土砂崩れが起きたらしく、そちらへの対応を急かされている。アタシは各所に電話を回し、これ以上被害が進まないようにあれやこれやと手を回している。

「アディ、電話終わった?」
「…ん?あら、アンタこそ、謎の舞終わったの?」
「世界の調律ね。今日はここまで。一気に直してしまうと、それはそれで不具合が起きるから、少しづつ。」

言いながらリディアは、1人用の椅子を運んでアタシの作業机の目の前に座る。危なっかしいから運ぶのを手伝おうかと思ったけど、先にリディアに静止されてしまった。

「ねえ、アディ。」

リディアは椅子に座り、姿勢を正してこちらを見ている。アタシはそれに倣うように、手に持っていた書類を机に置き、両手を組んで机に肘を置く。

「私はアディのこと好きだよ。」
「ええ、ありがとう。」
「だから、だからね。私が16歳になるまで、待っていてほしいの。…いや、待つとは少し違うかな。」
「………。」
「私は、アディと一緒にいたい。でも、聖女の立場を放置して、今のままでいるつもりはない。そのための魔法具の製作だから。」

リディアが真剣な眼差しをこちらに向ける。曇りなく、迷いもない澄んだ深い青い色。

「私が聖神殿に戻ってから10年、お互いメールの送り合いを…文通をしてほしいの。その間に、アディに他に好きな人ができたら、手紙で教えて。私は、アディを諦めるから。」
「それがアンタの答え?」
「うん。どうかな。もしアディの気持ちが誰のものにもならないまま10年が経過した時、私は改めてアディに告白したい。…その時に、アディが私を拒絶するなら、すっぱり諦める。10年だけ、私は夢を見たい。」

アタシは大きく息を吐きだし、首を下に向ける。背筋を伸ばすように顔を上げ、改めてリディアに向き直る。

「アンタの熱意を蔑ろにするのは、失礼にあたるわね。いいわ、その案、受け入れてあげる。」
「!」
「聖女リディアとしてやることやって、10年経ってもアタシのことが好きなら戻ってきなさい。アタシのお嫁さんにしてあげるわ。あ、別に、アンタが他の人を好きになったからって離れて行っても責めたりしないわよ。」
「私も、アディが他の人のこと好きになっても責めないよ。泣いちゃったりはするけど。それに、私はアディだけが好き。3,000年生きてきて、初めて抱いた感情なんだから。」

そう言うと、リディアは椅子から飛び降りて部屋の出入り口に向かう。扉を開けてそのまま出て行くのかと思いきや、一度だけアタシの方を見て口を開く。

「おやすみ、アディ。」
「おやすみ、リディア。良い夢を。」

アタシの返事を聞き届けたリディアは、微笑みながら部屋を後にした。


「…結婚、ねえ。」

アタシは誰もいない部屋で1人、言葉を呟いた。
別に、結婚する気がないわけではないわ。幼いころは、両親のような仲のいい夫婦に憧れたものよ。こう見えて、今でも、タイミングと相手が合えばしたいとは思うくらいには結婚に憧れを抱いているのよ。

ただし、今のアタシの相手に成り得る可能性のある女性は、女性というには若すぎる少女。
ずっと庇護下に置いていた少女が成長したとして、アタシが同年代の女性と同じような扱いができる気はしない。どこか保護者のような出で立ちは残ってしまう気がする。

人間であるアタシと神の化身であるリディアは、根本的な種として違うと思う。寿命の違いによって、アタシは必ずあの子を置いて死ななければならないでしょうね。


「負けたわよ。アンタの熱意に。」

アタシは窓に向かって歩き、夜空を眺める。世界の自然変動はまだまだ収まっていないけど、ここから見える星空はいつもと変わらない。
ミネルバの件も災害の件も、問題はまだまだ山積みのはずなのに、何故かアタシの胸の内は清々しく感じた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。 そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。 日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

処理中です...