オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸

文字の大きさ
70 / 72
最終章 偽聖女編

第70話 偽聖女編⑭

しおりを挟む
それから2日が経過し、リディアは朝から晩まで謎の舞を踊り続けることで、世界の調律をし終えたわ。世界中で報告されていた自然災害は徐々に治まり、今後はいつもの日常が戻っていくとのこと。


そしてアタシとリディアは、王都に向けて移動車を走らせていた。もちろん目的は偽聖女ミネルバの行方。リディアの力によってミネルバの居場所は既に突き止めてあるから、後はそのに向かうだけよ。変な抵抗をしないでくれると助かるんだけどね。

「ミネルバは王都にいる、間違いないのね?」
「うん。土地勘まではないみたいで、遠くには行けていない様子。王都の端にある田舎地域手前にある小道の廃屋に潜伏しているみたい。」

リディアはアタシの用意した地図を見ながら、ミネルバの位置の詳細を確かめている。時々心眼を使ってミネルバの位置を確認しつつ、アタシたちは目的の廃屋に近づいていく。

「…アディ。この騒動が終わったら、しばらくお別れだね。」
「そうね。聖女としての活動に魔法具の製作、頑張りなさいよ。」
「うん。」

アタシは多くを語らず、簡潔にリディアを励ます。あれこれ言葉を並べるのは今じゃないと思っているからね。

リディアは今後の自分の方向性が決まったおかげか、すっきりとした表情をしている気がするわ。アタシも、背筋を伸ばしてシャキッとしなきゃいけないわね。

________。

「………誰か来た?」

(物音がする。追手?)

(…でも、罠をいくつか仕掛けておいたはず。簡単にはここに来られない…はず…。)



バキッ

ヒュウウン…

パチンッ

パキパキパキ…

「こんな低俗な罠で身を守ろうなど笑止千万。聖女リディアである私には効きません。」

(なんでこの子はこんなに上から目線なのかしら。)

アタシとリディアは目的の廃屋に着き、ミネルバがいるらしい2階の奥の部屋を目指している。いくつか魔法の罠が仕掛けてはあるものの、最上級魔導士であるリディアには赤ちゃん向けのブロック遊びと同じ感覚らしいわ。
リディアは設置してある全ての罠を壊すように解除し、あえて音を立てながら2階に向かっている。
曰く、獲物を音で追いつめるのと同じ感覚なんだとか。仮に2階の窓から逃げても、家の周りに仕掛けたアタシたちの魔法の罠に引っかかっておしまいよ。



「…この部屋から気配がしますね。ミネルバでしょう。」

そう言いながら、リディアはそっと扉に手をかける。その後ろでアタシは物理防御魔法と魔法防御魔法を二重にかけつつ援護をする。リディアの魔法に一部耐性があるって聞いているから、気を付けないといけないわね。

リディアが掌に魔法の波動を込めて打ち出そうとしたその時、扉が勢いよく開きミネルバが飛び出してきた。

「うわああああああ!!」
「ぶっ!」
「リディア!」

ミネルバによって開け放たれた扉に顔をぶつけ、リディアは唸り声をあげた。アタシとリディアの不意を突き、ミネルバは廊下を走り階段へ向かう。

だけど…

「きゃああああああ!!」

ガラガラガラガラ!

パキン!パキン!パキン!

ヒュウウウウ…

ぱしっ ぱしっ しゅるるるる…

「…よし、罠にかかったね。多分大丈夫、あれは聖女リディアの魔法じゃないから抜け出せない。」
「そういうものなの?アタシにはいまいち違いが分からないんだけど。」
「ミネルバにあるのは私、聖女リディアの魔法に対する耐性。あれはごく普通の初級、中級魔法。ミネルバは普通の魔法には耐性がないと踏んでいたの。結果として正解だったね。」

そう言いながら、リディアは駆け足で廊下の先にある階段を目指す。アタシも後に続いてそっと階段を覗いてみたら、階段の下で魔法で出来た縄や鎖や網に絡まって伸びているミネルバの姿を捉えた。あれこれ適当に魔法を試して解除しようとしているみたいだけど、何一つ解除できていないみたい。

アタシとリディアは階段を駆け下り、恐る恐るミネルバに近づく。ミネルバはアタシたちに物理で抵抗しようと試みているけど、魔法に絡まった体ではどうしようもないようね。

「この、この…!くうう…!」
「ふむふむ…なるほど、転移特典なるものがあるんだ。だから翻訳魔法が常にかかっているような状態だったんだ。聖女リディアの力が付与されたのは転移時の時空のねじれによるもの…へえ、ふーん、こっちも対応しないとまた第二のミネルバが出てくると困るなあ…。」

暴れるミネルバを抑えながら、リディアはミネルバの”何か”を解析している。特典って何かしら。後でリディアに聞きましょう。

「ミネルバ・ローズブレイド、貴女はこの世界にはいてはいけません。貴女の行いの影響で、今回の世界崩落騒動を起こすことにもなりました。」
「はいはい、すみませんね。どうぞ元の世界に戻してください。」

ミネルバは反省を口にはするものの、表情は不貞腐れている。チラッとアタシの方に視線を寄こしたけど、アタシには興味ないのかそのまま視線を外す。

「元の世界で貴女が貴女らしく幸せに暮らせることを祈っています。ミネルバ・ローズブレイドに、聖女リディアの祝福がありますように。」

リディアの掛け声と共に、ミネルバの周りに魔法陣が描かれていく。ミネルバは魔法陣が取り巻く魔法の渦に飲み込まれ、一瞬で姿が見えなくなった。徐々に魔法は収束し、リディアの手の内に収まっていく。魔法で出来た光の粒がパチンと弾け、ミネルバも魔法陣も綺麗に消えた。

「…これで終わったよ。」
「ええ、そうね。でも、アタシたちにはこれからでしょ?」
「ふふふ。そうだね、アディ。」

アタシとリディアは、さっきまでミネルバが転がっていた床を2人で見つめる。
静寂の中、偽聖女騒動は終わりを告げた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。 そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。 日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...