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第1章 出会い編
第7話 憂鬱なお茶会の時間よ。
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「今日はお時間を作っていただきありがとうございますぅ、レッドフォード伯爵♡」
目の前にいるエミリ・ハイバーンは、妙齢の女性特有の高くて甘い声でアタシに挨拶をする。
生物の生存競争において自身の性を武器に戦うのは当たり前。そこは別に悪いとは思わないから良いと思うの。ただ、アタシには通じないってだけ。
エミリの顔立ち?アタシ人の顔の醜美に興味ないの。
身だしなみとか身の丈に合ったファッションとか気になることがないわけじゃないけど、基本的に生まれ持ったものをどうこう言うつもりはないわ。興味もないし。
アタシはアタシの美しさのほうがよっぽど重要なのよ!
「いえいえ、大丈夫よ~。さあ座って。さっそくお茶にしましょう!」
エミリが着席するやいなや、アタシは使用人たちに指示を出す。
本音が顔に出ないように気をつけなきゃ。エミリには悪いけど、早く終わりますよーに!
とは言うけどね、適当に話を聞き流して頷くのは罪悪感があるし、アタシのポリシーに反するの。
やる気がないとはいえ、最終的にこのお茶会を了承したのはアタシ。最後まできちんとおもてなしをする気はあるわよ。
「それで昔、ヴィオラおばさまと少しお話をさせていただいたことがあるんですぅ。…あ、ごめんなさい、わたくしったら配慮が無さ過ぎましたわねぇ…。」
「いえ、大丈夫よ。あの人が亡くなってから随分経っているもの、さすがにアタシももう気にしてないわよ。」
ヴィオラ・レッドフォード、亡くなったアタシの母親の名前よ。アタシは把握していなかったけど、生前にエミリと話す機会があったのは初耳だわ。
「あの人、アタシの何か言ってた?」
「ええ、自慢の息子だってお話を聞かせていただきましたわ~。」
「嫌ね、あの人ったら親バカなんだから。ごめんなさいね、母がそんな話をして。」
リディアといい母といい、何で最近アタシは過去を他人に暴露される機会が多いのかしら。
リディアのはもはや精神的な拷問に近いものだったけど…。
「ところで、レッドフォード伯爵ぅ。」
「何かしら?」
「最近、養子を迎えたって話は本当かしらぁ?」
エミリは何かを探るように、アタシの目を直視する。動揺しないように見つめ返すと、エミリはふっと目を逸らした。視線と沈黙に耐えられなかったのか、カップを手にして紅茶に口をつける。
来たわね、この質問。やはり、エミリももう知っていたのね。
「ええ、本当よ。レティシアっていう女の子よ。」
「へえ……。わたくしもお父様も驚きましたのぉ。レッドフォード伯爵ったら、そんな素振りなど全く無く、急に養子を迎えたとだけ聞きましたから。」
まあ、急に決まったことだから当たり前ね。
あとこう言ってしまっては悪いけど、ハイバーン家とは遠縁ってだけでそんなに親しくないし、レッドフォード家とハイバーン家では家の位が違うから、こんなこと話す間柄でもないのよね。
「どのような子かしらぁ?」
「可愛らしい普通の女の子よ。」
いえ、尊大で図々しくて食い意地の張っている女の子よ。
「レッドフォード伯爵にとっての普通は美少女ってことですわね。羨ましいですわ♡」
「あらあら、そんなことないわよ~。」
アタシの心のリディアがドヤ顔しているわね、引っ込んでなさい。
「ちなみに、レティシア様の魔法適性は?」
「ちょこっとだけあるらしいわよ~。」
いえ、聖女リディアです。最上級魔導士です。
「どのような経緯で迎えることにぃ?」
「少し難しいことが絡む話だから、詳細は言えないんだけど、話の流れね?」
いえ、保護するか死ぬか選べと言われました。
「今はどちらに?わたくし、レティシア様に是非会ってみたいですわ♡」
「あらら、タイミングが悪いわね。今使用人と出かけているのよ。ごめんなさいね。」
いえ、多分キッチンで晩御飯の盗み食いのチャンスを伺っているわ。
「そうだエミリ!ケーキはお好き?」
アタシは話の流れを変えるべく、大きな声でエミリに問いかけた。
これ以上は探れないと悟ったのか、エミリは”レティシア”について言及することはなくなった。
「ええ、好きですわよぉ。」
「良かった!王都の有名なパティシエから取り寄せたケーキがあるの!是非あなたに食べてもらいたくて!」
「まあ、レッドフォード伯爵ったら♡お気遣い感謝いたしますわ♡」
「急いで用意させるから、少し待ってね!ジャネス、用意していただける?」
ジャネスは一礼すると、部屋を後にした。
さて、ケーキが来るまで何の話で場を繋ごうかしら…。
「まあ!あの有名なパティシエ、チャーリー・ライランズのお店のケーキだったなんて!わたくしのために?」
「ええ、ええ!せっかくここまで来ていただいたんですもの、これくらいのおもてなしはしなくちゃ。お好きなのを選んで?」
あの女、流石にケーキたちには手を出していなかったようね。
少しでも手を出していたら晩御飯抜きにするつもりだったけど、必要なさそうで良かったわ。
エミリの前には苺を使ったロールケーキが、アタシの前には白ブドウを使ったタルトが並べられたわ。
これこれ!このお茶会を乗り切るためにはこれが必要だったのよ!
「それではさっそくいただきます♡」
「どうぞ。」
客人であるエミリが一口食べてから、アタシもタルトにフォークを入れる。
タルト生地がサクッと割れて、クリームが少しこぼれる。音を立てないように注意しながらすくい上げ、口に入れる。
口の中に白ブドウとカスタード、タルト生地の香りが広がって幸せな気分になる。
「ん~美味しい♡流石チャーリーのお店のケーキ、素材から何から何まで完璧ですわ♡」
「喜んでいただけて何よりよ。」
しばらく他愛もない話をしていたアタシたちだったけど、ふとエミリが真剣な眼差しになった。
「つかぬことをお伺いしますわ、レッドフォード伯爵。」
「何かしら?」
「恋人、もしくは結婚のご予定はあるのでしょうか?」
あーあーあー聞かれると思ったわよその質問。
アタシもエミリも結婚を考えていてもおかしくない年齢ですものね…。
「…恋人もいないし、結婚する予定もないわよ。」
「でしたら、わたしくが立候補させていただくのはよろしいでしょうか?」
わあわあわあ直球で来たわね!うーんどうしたものかしら…。
「気持ちは嬉しいわ。でも、今はまだ結婚とか考えられないの。」
「…わたくしでは、レッドフォード伯爵には釣りあいませんか?」
「そういう話ではないのよ。貴女はとっても素敵な女の子よ。」
アタシには勿体ないくらいにね。
「アタシ経営するレッドフォード社は重要な時期なの。ビジネスの展開も経営も、何かの片手間にできるほどじゃなくてね。」
「…そう、ですか。」
会社の話に口をはさむのは野暮だと判断したのか、エミリは口を噤んだ。
「会社のためにも、貴女のためにも、今は仕事にだけ集中したいの。だって、何かのついでにする恋愛なんて、相手に失礼でしょう?」
「…ふふふ、レッドフォード伯爵ったらぁ。」
良かった、とりあえずここは凌げたかしら。
エミリ、貴女にはもっと良い人がいるはずよ。
「今日はお招きありがとうございました、レッドフォード伯爵♡」
「いいえ、こちらこそご足労いただきありがとうございました。」
「…レッドフォード伯爵。わたしく、諦めていなくてよ?」
「…ん?」
「伯爵の奥様になることよ♡では、またの機会に!」
そう言い残すと、エミリはレッドフォードの屋敷を後にした。
エミリには悪いけど、次の機会は阻止しなくちゃ。
好意を向けてくれること自体はありがたいわよ。でもね、その気持ちはアタシではない誰かに向けたほうが幸せになれると思うのよ。
使用人たちと共にエミリの乗る移動車を見送りながら、アタシは肩の力を少し抜いた。
目の前にいるエミリ・ハイバーンは、妙齢の女性特有の高くて甘い声でアタシに挨拶をする。
生物の生存競争において自身の性を武器に戦うのは当たり前。そこは別に悪いとは思わないから良いと思うの。ただ、アタシには通じないってだけ。
エミリの顔立ち?アタシ人の顔の醜美に興味ないの。
身だしなみとか身の丈に合ったファッションとか気になることがないわけじゃないけど、基本的に生まれ持ったものをどうこう言うつもりはないわ。興味もないし。
アタシはアタシの美しさのほうがよっぽど重要なのよ!
「いえいえ、大丈夫よ~。さあ座って。さっそくお茶にしましょう!」
エミリが着席するやいなや、アタシは使用人たちに指示を出す。
本音が顔に出ないように気をつけなきゃ。エミリには悪いけど、早く終わりますよーに!
とは言うけどね、適当に話を聞き流して頷くのは罪悪感があるし、アタシのポリシーに反するの。
やる気がないとはいえ、最終的にこのお茶会を了承したのはアタシ。最後まできちんとおもてなしをする気はあるわよ。
「それで昔、ヴィオラおばさまと少しお話をさせていただいたことがあるんですぅ。…あ、ごめんなさい、わたくしったら配慮が無さ過ぎましたわねぇ…。」
「いえ、大丈夫よ。あの人が亡くなってから随分経っているもの、さすがにアタシももう気にしてないわよ。」
ヴィオラ・レッドフォード、亡くなったアタシの母親の名前よ。アタシは把握していなかったけど、生前にエミリと話す機会があったのは初耳だわ。
「あの人、アタシの何か言ってた?」
「ええ、自慢の息子だってお話を聞かせていただきましたわ~。」
「嫌ね、あの人ったら親バカなんだから。ごめんなさいね、母がそんな話をして。」
リディアといい母といい、何で最近アタシは過去を他人に暴露される機会が多いのかしら。
リディアのはもはや精神的な拷問に近いものだったけど…。
「ところで、レッドフォード伯爵ぅ。」
「何かしら?」
「最近、養子を迎えたって話は本当かしらぁ?」
エミリは何かを探るように、アタシの目を直視する。動揺しないように見つめ返すと、エミリはふっと目を逸らした。視線と沈黙に耐えられなかったのか、カップを手にして紅茶に口をつける。
来たわね、この質問。やはり、エミリももう知っていたのね。
「ええ、本当よ。レティシアっていう女の子よ。」
「へえ……。わたくしもお父様も驚きましたのぉ。レッドフォード伯爵ったら、そんな素振りなど全く無く、急に養子を迎えたとだけ聞きましたから。」
まあ、急に決まったことだから当たり前ね。
あとこう言ってしまっては悪いけど、ハイバーン家とは遠縁ってだけでそんなに親しくないし、レッドフォード家とハイバーン家では家の位が違うから、こんなこと話す間柄でもないのよね。
「どのような子かしらぁ?」
「可愛らしい普通の女の子よ。」
いえ、尊大で図々しくて食い意地の張っている女の子よ。
「レッドフォード伯爵にとっての普通は美少女ってことですわね。羨ましいですわ♡」
「あらあら、そんなことないわよ~。」
アタシの心のリディアがドヤ顔しているわね、引っ込んでなさい。
「ちなみに、レティシア様の魔法適性は?」
「ちょこっとだけあるらしいわよ~。」
いえ、聖女リディアです。最上級魔導士です。
「どのような経緯で迎えることにぃ?」
「少し難しいことが絡む話だから、詳細は言えないんだけど、話の流れね?」
いえ、保護するか死ぬか選べと言われました。
「今はどちらに?わたくし、レティシア様に是非会ってみたいですわ♡」
「あらら、タイミングが悪いわね。今使用人と出かけているのよ。ごめんなさいね。」
いえ、多分キッチンで晩御飯の盗み食いのチャンスを伺っているわ。
「そうだエミリ!ケーキはお好き?」
アタシは話の流れを変えるべく、大きな声でエミリに問いかけた。
これ以上は探れないと悟ったのか、エミリは”レティシア”について言及することはなくなった。
「ええ、好きですわよぉ。」
「良かった!王都の有名なパティシエから取り寄せたケーキがあるの!是非あなたに食べてもらいたくて!」
「まあ、レッドフォード伯爵ったら♡お気遣い感謝いたしますわ♡」
「急いで用意させるから、少し待ってね!ジャネス、用意していただける?」
ジャネスは一礼すると、部屋を後にした。
さて、ケーキが来るまで何の話で場を繋ごうかしら…。
「まあ!あの有名なパティシエ、チャーリー・ライランズのお店のケーキだったなんて!わたくしのために?」
「ええ、ええ!せっかくここまで来ていただいたんですもの、これくらいのおもてなしはしなくちゃ。お好きなのを選んで?」
あの女、流石にケーキたちには手を出していなかったようね。
少しでも手を出していたら晩御飯抜きにするつもりだったけど、必要なさそうで良かったわ。
エミリの前には苺を使ったロールケーキが、アタシの前には白ブドウを使ったタルトが並べられたわ。
これこれ!このお茶会を乗り切るためにはこれが必要だったのよ!
「それではさっそくいただきます♡」
「どうぞ。」
客人であるエミリが一口食べてから、アタシもタルトにフォークを入れる。
タルト生地がサクッと割れて、クリームが少しこぼれる。音を立てないように注意しながらすくい上げ、口に入れる。
口の中に白ブドウとカスタード、タルト生地の香りが広がって幸せな気分になる。
「ん~美味しい♡流石チャーリーのお店のケーキ、素材から何から何まで完璧ですわ♡」
「喜んでいただけて何よりよ。」
しばらく他愛もない話をしていたアタシたちだったけど、ふとエミリが真剣な眼差しになった。
「つかぬことをお伺いしますわ、レッドフォード伯爵。」
「何かしら?」
「恋人、もしくは結婚のご予定はあるのでしょうか?」
あーあーあー聞かれると思ったわよその質問。
アタシもエミリも結婚を考えていてもおかしくない年齢ですものね…。
「…恋人もいないし、結婚する予定もないわよ。」
「でしたら、わたしくが立候補させていただくのはよろしいでしょうか?」
わあわあわあ直球で来たわね!うーんどうしたものかしら…。
「気持ちは嬉しいわ。でも、今はまだ結婚とか考えられないの。」
「…わたくしでは、レッドフォード伯爵には釣りあいませんか?」
「そういう話ではないのよ。貴女はとっても素敵な女の子よ。」
アタシには勿体ないくらいにね。
「アタシ経営するレッドフォード社は重要な時期なの。ビジネスの展開も経営も、何かの片手間にできるほどじゃなくてね。」
「…そう、ですか。」
会社の話に口をはさむのは野暮だと判断したのか、エミリは口を噤んだ。
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良かった、とりあえずここは凌げたかしら。
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「…レッドフォード伯爵。わたしく、諦めていなくてよ?」
「…ん?」
「伯爵の奥様になることよ♡では、またの機会に!」
そう言い残すと、エミリはレッドフォードの屋敷を後にした。
エミリには悪いけど、次の機会は阻止しなくちゃ。
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