8 / 72
第1章 出会い編
第8話 アタシ、お疲れ様。
しおりを挟む
「と、いうわけで。今日1日頑張ったアディのために、お疲れさまでしたの会を開きます!わ~パチパチ。」
「本当に相手を労う気があるならこんなクソみてえな会開かないで帰しなさいよ。」
エミリとのお茶会があった日の午後6時半。
本来ならこれくらいの時間に晩御飯なんだけど、支度が遅れているみたい。
リディアの部屋に呼ばれたかと思うと、目の前に広がるのはお菓子、お菓子、お菓子。
まあ、こんなことだとは思ったわよ。お茶会を憂いていたアタシを励ますとは建前で、お菓子を食べまくりたいのが見え透いているわね。晩御飯前だから、余計にそうはさせないわよ。
「細かいこと気にすると目の皺が増えるよ?はい、アディの分のジュース。」
「余計なお世話よ。あと、アタシにはジュースじゃなくて水を用意しなさい。」
アタシがそう言うのが分かっていたかのように、リディアはさっと氷の入った水差しを用意する。ふらふらとした手付きだけど、きちんとこぼすことなくコップに水を入れて、アタシのいるローテーブルの前に置く。
「はいよくできました、ありがとー。」
やる気のない感謝を見せたけど、リディアは嬉しそうに微笑んだ。
そのままの流れで、バリバリっとお菓子の袋を開けていく。何一気に開けてるのよ。
ちらっと目線だけリディアの方に向けると、何やら詠唱を唱えながら魔法を使っている。
近くで止まってみると分かるんだけど、リディアが魔法を使う時、彼女の青い目が少し宝石みたいに乱反射しているように見えるの。
「過去視の力でお茶会の様子は全て把握させていただきました、レッドフォード伯爵。」
長椅子に着席したまま前屈み気味な姿勢で頬杖をつき、ボーっとしていたアタシにリディアが聖女モードで話しかけてくる。現在進行形で過去を視ながら話しているらしいわ。
「何でもかんでも見るもんじゃないわよ。プライバシーって言葉知らないの?」
「それについてはごめんね。でも気になっちゃってさ。」
過去視をし終わったのか、魔法の力が引き、いつもの調子のリディアに戻る。
「思わせぶりな態度は良くないよ。相手のためにも、自分のためにも。もぐもぐ。」
「分かってるわよ。次からはきちんとお断りするって決めたの。」
「ぱりぱり。エミリは本気だったみたいだけど?」
「う。」
帰り際のエミリの発言を思い出し、言葉に詰まる。
彼女には申し訳ないけど、縁談に繋がりそうな会はもう引き受けないって決めたの。
ハイバーン子爵にも、正式に謝罪をしておいたほうが良さげかしらね。こういうのは先に謝っておいたほうが良い気がするわ。
「アディは結婚する気ないの?」
「今は、ね。10年以内にできたらいいなと漠然と思いっているくらいよ。」
「そんなこと言っているとあっという間に…、と言いたいところだけど、アディはレッドフォード家の伯爵だもんね。ひくてあまた、ってやつだ。」
自分で言うのも何だけど、伯爵という立場であるアタシはそれなりに結婚相手を選べる家柄と地位ではある。許嫁がいる貴族も珍しくないけど、アタシにはそんな存在はいない。
リディアの言う通り、縁談の話は定期的に送られ来るし、その度にアタシがのらりくらりとかわすのがいつもの流れになっている。
「あーもうやだやだ!」
「うぇっ…!?」
「難しいことはもう考えない!アタシもお菓子食べる!」
ぐっと腕を伸ばし、リディアの持っているお菓子の袋を奪い取る。そのまま袋に手を突っ込み、お菓子を鷲掴んで口に詰め込む。我ながら品のない行為だと自覚しているけど、この部屋には今リディア1人しかいない。気にするものですか!
当のリディアは呆気に取られて、口をポカーンと開けたままパクパクしている。
「もしゃもしゃ。……何よ。」
「…いや、アディがそんな取り乱してるの、初めて見ると思って。」
「幻滅したかしら。普段は口うるさく身なりを気にするアタシが、こんなことするのは。」
再び袋に手を入れ、お菓子を複数個口に詰め込む。あまじょっぱい味が口に広がり、舌を刺激している。
「…ううん。たまには良いと思う。根を詰めすぎるのも、良くないよ。」
「あーら、聖女様はお優しいのね。」
手についたお菓子の粉を軽く払い、水の入ったコップを一気にあおる。溶けて小さくなった氷が口の中に入ってきたから、気にせずガリガリ噛み砕く。
アタシの反対側の長椅子に座っているリディアが、ニコニコしながら足をパタつかせてこっちを見ている。本当に気にしていないらしい。
「自分にも周りにも厳しいレッドフォード伯爵も本当のアディ。お菓子を頬張って萎んだ風船みたいになるのも本当のアディ。」
そう小さく呟いたと思うと、椅子を降りてこちら側に駆け寄ってきた。何をするのかと眺めていたら、靴を脱いで椅子の上に膝立ちになって、アタシの頭に手をかざしてきた。
「あーら、良い子良い子してくれるのかしら。アタシもうそんな年齢じゃないのにね。」
「嫌だった?」
「べーつに。好きにしたら?」
うふふ、と小さく笑う声が頭の上から聞こえてくる。しばらくされるがままになっていると、ふいにかざされたリディアの手から魔法の気配を感じた。
「?アンタ何してるの?」
「癒しの魔法です。アドルディ・レッドフォード伯爵に、聖女リディアの祝福を。」
「大げさね。…でも、ありがとう。」
頭が、肩が、胸が、全身がぽかぽかしてくるような感じがする。さっきまであった疲労感は消え、アタシに残っていたのは不思議な満足感だった。
「聖女って本当にどんな魔法でも使えるのね。だから最上級魔導士と言われているんだろうけど。」
「レッドフォード伯爵、あなたに聖女リディアの一部を授けました。今後はあなたもリディアの魔法が一部使えるようになります。感謝なさい。」
「何言ってるの?アタシ魔法適性ないわよ?」
「『聖女リディアの魔法の一部を授けた』、と私は言いました。私の力を、貴方に少し貸したのです。」
何か言ってるわ。アタシ魔法適性はからっきしだから初級魔法の1つもできないのに。
…てか、リディアはいつになったら聖女モードから戻ってくるのかしら。ずっと目が宝石状態なんだけど。
「実践したほうが早いでしょう。手先に力を込め、あのお菓子の袋を持ち上げてみなさい。」
「はいはい、こうですか~。」
びゅーーーん!
べちん!
くしゃっ
「…?…??」
「素晴らしいです。流石私の力、魔法適性がない人でも最低限の力は発揮できるようです。しかし、コントロールは課題ですね。」
アタシが手をかざしたら、お菓子の袋が、びゅーんって飛んで行って、壁にぶつかって、くしゃってなって?
「……?」
「……ふう。私の力を、少しアディに貸してあげたよ。あ、過去と未来を見る力は渡せないけど、中級魔法くらいまでなら頑張れば使えるよ。」
?
「な、ななな。」
「な?ななな、軟骨~。」
リディアがふざけて手をパチパチ叩いている。乗らないわよ。
「なっんで、そんなことを…?」
「んーと、私の信頼と誠意、かな。今のアディになら任せてもいいかなって思ったの。」
リディアにとっての信頼と誠意の表現ってこと…?
ど、どう受け止めればいいのよ、こんな大層なもの…。
「心配しなくても、力が暴走したりはしないから安心してね。大丈夫、アディなら使いこなせるよ。」
「あ、そ…。」
「いらなかったら、返してくれても大丈夫。でも、しばらくはその体で頑張ってみてよ。それでもダメなら、貸した魔法の力を返してもらうから。」
ポカーンとしているアタシを他所に、ドアからノックの音が聞こえる。リディアが入室を許可すると、ジャネスの顔が見えた。
「お嬢様…と旦那様もいらっしゃったのですね。大変遅れて申し訳ありません、夕飯の準備ができました。」
『お菓子片づけたらすぐ行くね~』とリディアが言うと、ジャネスは一礼して退室した。アタシは今だにポカーンとした状態から戻れていない。
何だか、意図せずとんでもないものを押し付けられた気がする。
そう思わずにはいられなかった。
「本当に相手を労う気があるならこんなクソみてえな会開かないで帰しなさいよ。」
エミリとのお茶会があった日の午後6時半。
本来ならこれくらいの時間に晩御飯なんだけど、支度が遅れているみたい。
リディアの部屋に呼ばれたかと思うと、目の前に広がるのはお菓子、お菓子、お菓子。
まあ、こんなことだとは思ったわよ。お茶会を憂いていたアタシを励ますとは建前で、お菓子を食べまくりたいのが見え透いているわね。晩御飯前だから、余計にそうはさせないわよ。
「細かいこと気にすると目の皺が増えるよ?はい、アディの分のジュース。」
「余計なお世話よ。あと、アタシにはジュースじゃなくて水を用意しなさい。」
アタシがそう言うのが分かっていたかのように、リディアはさっと氷の入った水差しを用意する。ふらふらとした手付きだけど、きちんとこぼすことなくコップに水を入れて、アタシのいるローテーブルの前に置く。
「はいよくできました、ありがとー。」
やる気のない感謝を見せたけど、リディアは嬉しそうに微笑んだ。
そのままの流れで、バリバリっとお菓子の袋を開けていく。何一気に開けてるのよ。
ちらっと目線だけリディアの方に向けると、何やら詠唱を唱えながら魔法を使っている。
近くで止まってみると分かるんだけど、リディアが魔法を使う時、彼女の青い目が少し宝石みたいに乱反射しているように見えるの。
「過去視の力でお茶会の様子は全て把握させていただきました、レッドフォード伯爵。」
長椅子に着席したまま前屈み気味な姿勢で頬杖をつき、ボーっとしていたアタシにリディアが聖女モードで話しかけてくる。現在進行形で過去を視ながら話しているらしいわ。
「何でもかんでも見るもんじゃないわよ。プライバシーって言葉知らないの?」
「それについてはごめんね。でも気になっちゃってさ。」
過去視をし終わったのか、魔法の力が引き、いつもの調子のリディアに戻る。
「思わせぶりな態度は良くないよ。相手のためにも、自分のためにも。もぐもぐ。」
「分かってるわよ。次からはきちんとお断りするって決めたの。」
「ぱりぱり。エミリは本気だったみたいだけど?」
「う。」
帰り際のエミリの発言を思い出し、言葉に詰まる。
彼女には申し訳ないけど、縁談に繋がりそうな会はもう引き受けないって決めたの。
ハイバーン子爵にも、正式に謝罪をしておいたほうが良さげかしらね。こういうのは先に謝っておいたほうが良い気がするわ。
「アディは結婚する気ないの?」
「今は、ね。10年以内にできたらいいなと漠然と思いっているくらいよ。」
「そんなこと言っているとあっという間に…、と言いたいところだけど、アディはレッドフォード家の伯爵だもんね。ひくてあまた、ってやつだ。」
自分で言うのも何だけど、伯爵という立場であるアタシはそれなりに結婚相手を選べる家柄と地位ではある。許嫁がいる貴族も珍しくないけど、アタシにはそんな存在はいない。
リディアの言う通り、縁談の話は定期的に送られ来るし、その度にアタシがのらりくらりとかわすのがいつもの流れになっている。
「あーもうやだやだ!」
「うぇっ…!?」
「難しいことはもう考えない!アタシもお菓子食べる!」
ぐっと腕を伸ばし、リディアの持っているお菓子の袋を奪い取る。そのまま袋に手を突っ込み、お菓子を鷲掴んで口に詰め込む。我ながら品のない行為だと自覚しているけど、この部屋には今リディア1人しかいない。気にするものですか!
当のリディアは呆気に取られて、口をポカーンと開けたままパクパクしている。
「もしゃもしゃ。……何よ。」
「…いや、アディがそんな取り乱してるの、初めて見ると思って。」
「幻滅したかしら。普段は口うるさく身なりを気にするアタシが、こんなことするのは。」
再び袋に手を入れ、お菓子を複数個口に詰め込む。あまじょっぱい味が口に広がり、舌を刺激している。
「…ううん。たまには良いと思う。根を詰めすぎるのも、良くないよ。」
「あーら、聖女様はお優しいのね。」
手についたお菓子の粉を軽く払い、水の入ったコップを一気にあおる。溶けて小さくなった氷が口の中に入ってきたから、気にせずガリガリ噛み砕く。
アタシの反対側の長椅子に座っているリディアが、ニコニコしながら足をパタつかせてこっちを見ている。本当に気にしていないらしい。
「自分にも周りにも厳しいレッドフォード伯爵も本当のアディ。お菓子を頬張って萎んだ風船みたいになるのも本当のアディ。」
そう小さく呟いたと思うと、椅子を降りてこちら側に駆け寄ってきた。何をするのかと眺めていたら、靴を脱いで椅子の上に膝立ちになって、アタシの頭に手をかざしてきた。
「あーら、良い子良い子してくれるのかしら。アタシもうそんな年齢じゃないのにね。」
「嫌だった?」
「べーつに。好きにしたら?」
うふふ、と小さく笑う声が頭の上から聞こえてくる。しばらくされるがままになっていると、ふいにかざされたリディアの手から魔法の気配を感じた。
「?アンタ何してるの?」
「癒しの魔法です。アドルディ・レッドフォード伯爵に、聖女リディアの祝福を。」
「大げさね。…でも、ありがとう。」
頭が、肩が、胸が、全身がぽかぽかしてくるような感じがする。さっきまであった疲労感は消え、アタシに残っていたのは不思議な満足感だった。
「聖女って本当にどんな魔法でも使えるのね。だから最上級魔導士と言われているんだろうけど。」
「レッドフォード伯爵、あなたに聖女リディアの一部を授けました。今後はあなたもリディアの魔法が一部使えるようになります。感謝なさい。」
「何言ってるの?アタシ魔法適性ないわよ?」
「『聖女リディアの魔法の一部を授けた』、と私は言いました。私の力を、貴方に少し貸したのです。」
何か言ってるわ。アタシ魔法適性はからっきしだから初級魔法の1つもできないのに。
…てか、リディアはいつになったら聖女モードから戻ってくるのかしら。ずっと目が宝石状態なんだけど。
「実践したほうが早いでしょう。手先に力を込め、あのお菓子の袋を持ち上げてみなさい。」
「はいはい、こうですか~。」
びゅーーーん!
べちん!
くしゃっ
「…?…??」
「素晴らしいです。流石私の力、魔法適性がない人でも最低限の力は発揮できるようです。しかし、コントロールは課題ですね。」
アタシが手をかざしたら、お菓子の袋が、びゅーんって飛んで行って、壁にぶつかって、くしゃってなって?
「……?」
「……ふう。私の力を、少しアディに貸してあげたよ。あ、過去と未来を見る力は渡せないけど、中級魔法くらいまでなら頑張れば使えるよ。」
?
「な、ななな。」
「な?ななな、軟骨~。」
リディアがふざけて手をパチパチ叩いている。乗らないわよ。
「なっんで、そんなことを…?」
「んーと、私の信頼と誠意、かな。今のアディになら任せてもいいかなって思ったの。」
リディアにとっての信頼と誠意の表現ってこと…?
ど、どう受け止めればいいのよ、こんな大層なもの…。
「心配しなくても、力が暴走したりはしないから安心してね。大丈夫、アディなら使いこなせるよ。」
「あ、そ…。」
「いらなかったら、返してくれても大丈夫。でも、しばらくはその体で頑張ってみてよ。それでもダメなら、貸した魔法の力を返してもらうから。」
ポカーンとしているアタシを他所に、ドアからノックの音が聞こえる。リディアが入室を許可すると、ジャネスの顔が見えた。
「お嬢様…と旦那様もいらっしゃったのですね。大変遅れて申し訳ありません、夕飯の準備ができました。」
『お菓子片づけたらすぐ行くね~』とリディアが言うと、ジャネスは一礼して退室した。アタシは今だにポカーンとした状態から戻れていない。
何だか、意図せずとんでもないものを押し付けられた気がする。
そう思わずにはいられなかった。
226
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ
水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。
それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。
黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。
叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。
ですが、私は知らなかった。
黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。
残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる