オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸

文字の大きさ
11 / 72
第2章 とある日のレティシア編

第11話 レティシア・レッドフォードの朝①

しおりを挟む
Side:リディア

今日のメニューは焼きたての白いパン。手作りの苺ジャム、ブルーベリージャム、オレンジジャムの中から好きに選んでいいって。
スープは暖かい南瓜のポタージュで、パセリを散らしてクルトンを乗せて。
サラダは瑞々しいレタスとトマトと茹でた卵が半分乗せられている。
みんなうまうま。

「私がアディの会社に行くの?」

いつものようにアディと2人で朝ごはんを食べていると、突然そんなことを言い出した。

「ええ、モニターってやつね。子供の視点から、新商品の評価をしていただきたくてね。どうかしら?」

数週間後に新商品の社内お披露目と会議があるとか。私は会社の仕組みについて詳しく知らないから、名前と言葉の響きだけで何となく想像を広げる。
服飾と玩具はさておき、お菓子の会社は新しいお菓子を食べられたりするのかな。それなら行きたいかも。

「アディの会社、私も行きたい。」
「そう!良かった、詳しい日程は今日明日中に伝えるわね!」

アディは笑顔でニコニコしながら私の方を見つめた。私はそんなアディに頷き返し、パンを一口頬張る。
お菓子が食べられるかもという打算ももちろんあるけど、何より社長として働いているアディの姿を見てみたいというのが本音だった。

私は基本的に屋敷の敷地の中で過ごしている。普段は屋敷内を散歩したり、庭で日向ぼっこをしたり、本を読んで知見を深めたり、キッチンで摘まみ食いしたり。
聖女として聖神殿にいた頃も、外に出ることはなかった。たまに透視や魔法で外の世界を見つめたりしていたけど、外出の経験は全くない。
あの頃は聖神殿の一室だけが、私の世界の全てだった。外の世界に憧れがないわけではない。だけど、部屋に閉じこもっている生活が長かったから、好奇心や探求心より漠然とした不安のほうが大きかったりする。逃亡生活中は、外の世界を楽しむ余裕なんてなく、無我夢中で隠れて逃げての生活だった。
逃亡中も変身はしていたから、ストリートチルドレンにも見えただろうから見た目でバレることはなく逃げられたけど、掴まるかもしれないという不安と気疲れには抗えなかったのが記憶にある。

「でも、私が行っても大丈夫なの?めちゃくちゃ部外者だけど。」
「大丈夫!アタシが許可した場所だけは出入りできるようにしておくわよ。」

そういう問題じゃない気がするけど…。
私はこの国の会社のルールとか詳しくないけど、アディが良いって言うなら良いと思うことにしよう。

(セントサザール領の、町の様子も見れる。)

新聞や本など、紙の資料からのみ得た情報しか知らない私にとって、外の世界はどのように見えるのだろうか。今は心も体も余裕があるから、楽しめるような気がした。





「わわっ!アディ!私たち鳥と同じくらいの速さで走ってる!窓開けてもいい!?」
「良いけど、危ないから手とか出しちゃダメよ!」


次の日の朝。
アディはレッドフォード邸の隅にある倉庫のような建物に私を連れてきた。
何だろうと思っていたら、『中にあるものは危ないから触っちゃダメよ』と言われた。言われた通りアディの少し後ろで作業をしている姿を眺めていたら、倉庫から出てきたのは4人乗りの移動車だった。

_移動車。
1800年頃にローゼシア王国の南方の国で開発された、自動運転が可能な車という機械の1種。
その利便性から瞬く間に普及し、法整備や道路整備が進められた。それまでは馬車や魔法を原動力とした車がメインだったが、メンテナンスや燃料の面で課題が多く、今では移動のメインはこの移動車と呼ばれる乗り物がメインだとか。

「運転、いいな。楽しそう。」
「うふふ、実際楽しいわよ!でも、遊び感覚でやっていいことじゃないの。運転は同乗者の命を握る行為でもあるからね。」

アディは視線を前に向けたまま、私の言葉に反応する。今乗っている移動車は前席の左側にハンドルが付いているけど、他国だと右ハンドルというものもあるらしい。

「私もいつか、運転免許…?ってやつ、取得?する!」
「良いわね!その時は最初にアタシを乗せなさいよ!」

並木道だった通りを抜けて、景色は人々で活気づいている街並みに変化する。
今日は蚤の市をやっているのか、広場らしき場所には沢山の人が出入りしている。

「…ふと思ったんだけど。」
「なあに?」

私はアディに背を向けたまま、窓の外の景色に釘付けになっていた。美味しそうな果物やお菓子、可愛い手作りのアクセサリーやぬいぐるみ、現在の持ち主には不要になったらしき衣服の数々に目移りしていた。

「アンタって老化するの?聞いている話だと、3000年近くはその姿なのよね?」
「ええっとね…。」

視線を窓から外し、運転するアディの横顔を見つめる。
ちょっと、説明が難しいかも。どう言えば伝わるかな。

「えっとね、私の中には『聖女としての寿命みたいなもの』と『通常の人間に換算すると、な寿命』があるの。」
「うん…うん…?」
「見た目に関係あるのは、後者の『通常の人間に換算すると、な寿命』の方なの。普段は私の力で成長を意図的に止めているんだけど、私の内部にある鍵みたいなのを外すと、見た目だけ人間と同じような成長、老化をしていくの。」
「へえ………?」
「この人間換算寿命は、私が聖女、神の末裔として具現してから全く触っていないから私は今この姿なの。私は生まれた時からこの状態だったから。」
「………。」
「…アディ、大丈夫?」

私は漠然と自分のことについて理解をしているけど、他の人に伝えられるか?と言われると自信はない。現に、アディは難しい顔をしながら唸っている。

「ええっと、その人間換算寿命ってやつの鍵を外すと、見た目だけが老化するのよね。それ、老化した後どうするの?何の意味があるの?」
「えっとね、今の私は6~8歳のリディアの姿にしかなれないの。東洋系の見た目や西洋系の見た目に限らず、変身することで0歳の赤ちゃんから100歳の老人にまでなれるけど、素の姿である今の見た目を変えることはできないの。」

…伝わってるかな。
『変身することでなれる姿』と『素のリディアの成長による見た目』は別物なの。

「だから、人間換算年齢を重ねていない私が…えっと、例えば60歳のおばあちゃんのリディアになろうと変身をしようとしても、できないの。この世界のどこかにいるかもしれない、赤の他人な60歳の見た目のおばあちゃんには変身できるけどね。」
「…リディア自身の見た目の年齢、『通常の人間に換算すると、な寿命』の方は、6~8歳で止まっているから?」
「そそそ。」

長々と説明したけど、別に理解できなくても問題はないことなんだけどね。

「まあ、何となく、ふんわり、それっぽく、理解できた気がする。あ、ほらもうすぐ着くわよ。」

レッドフォード社、アディの会社。お菓子、服飾、玩具の3つの事業をメインに展開しているローゼシア王国の中でも大きな会社。今から行くのはレッドフォード社のお菓子の会社。

「…じゅるり。」

邪な考えを脳の隅っこに置き、私は煩悩を捨てるように頭を振った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...