オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸

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第3章 リディア誘拐編

第29話 リディア誘拐編⑬

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「どうも。アタシはアドルディ・レッドフォード伯爵。アンタが銃を突き付けているその女の子の保護者よ。」
「知ってま~す。」


男ことジャッドは、ふざけた口調でアタシに対峙する。アタシは先ほどの刃物に魔法を纏わせて持ち、相手を牽制する。
ジャッドが左手を振ると、後ろから部下らしい男たちが次々と出てきた。ここにいる敵の数はジャッドを含め5人ね。あとは先ほど相手をして戦意を消失した人たちだけど、縄で縛ったから放置で良いと思うわ。

アタシの背後にいたレノルドが手の内に魔法を、アランが銃を構えて対峙する。そんな様子にジャッドは動じることなく、喉を鳴らして笑っている。

「ねえねえ、アドルディ・レッドフォード伯爵~。こんな逸材、どこで見つけてきたの?」
「逸材?」
「この女の子だよ~!6歳って聞いたけど、もう既に中級以上の魔法が使えるってね!」

ジャッドの言葉を聞いてドキッとする。リディアは魔法適性持ちであることがバレたとだけ言っていた。だけど実際は、魔法適性どころか使用可能な魔法の階級まで知られていた。リディア自身が言葉を漏らしたとは考えにくい。
ジャッドは裏社会を相手に商売をしているような人だから、違法な魔法適性検査キットとかもあるのかもしれないわね。

「でもこの子すっとぼけちゃってさぁ!『私初めて知りました~』みたいな顔してんの!」
「へえ、そうなのね。アタシも初耳。魔法適性持ちなのは知ってたけどね。」
「………ふーん、伯爵もとぼけちゃうんだ?」

言葉を言い終わるのと同時に、ジャッドがアタシの背後目掛けて銃を発砲する。レノルドとアランは対応が遅れ、手と肩と足を撃たれてその場に崩れ落ちる。

「レノルド!!アラン!!」

アタシは2人に駆け寄り、傷口の様子を見る。
すると、傷口からどす黒い呪いをまとった、薔薇の蔦のようなものが生えてくる。蔦はぐちゃぐちゃと音を立てて傷口を抉り、傷口周辺に絡まりついていく。2人は声も出せないのか、口からはくぐもった音しか出てこない。

「これはまさか…。」
「はーい、まさかの”魔法弾”でーす。しかも呪い付きのやつ!言ってなかったかな、僕も魔法適性あるって。」

ジャッドは満面の笑みを浮かべながら、魔法銃をチラつかせている。彼の背後にいる部下の男たちは、ニヤニヤしながらこちらに近づいてきた。

_魔法銃。
魔法適性持ちのみが正式に扱える武器の一種。込める魔法の力によって相手に与える効果が変わるのが特徴。

_魔法弾。
魔法銃に使用する弾丸。魔法銃を通してこの弾丸に魔法の効果が込められる。

両方とも基本的に一般人には所有権が認められていなくて、一部の軍人や国境防衛隊にのみ使用が許されている武器よ。さっきまで魔法適性持ちがいなくて頭になかったけど、裏の商売をしているこの人たちなら持っていてもおかしくなかったわね。失敗したわ。

しかも、彼が放った弾丸には呪いまで付与されていた。おそらくあの呪いの魔法は上級魔法。アタシが扱えるのは中級魔法までだから、特殊防御魔法は通用しない。
厄介ね、ジャッドは上級魔法適性持ちなのね。


「ウッドヴィルの犬共には興味ないからそこに転がしておけばいいよ。僕の本命は君だよ、レッドフォード伯爵。」

ジャッドがリディアを人質に取りながら、ゆっくりと舞台の階段を降りてくる。

「僕はこの子に秘められた力が見たくて仕方ないんだ。だからぁ…」

バァン!!

「っう…!」
「レティシア!!」
「おっと伯爵、そこから動かないで?動くと今度はこの子の脳天撃っちゃうかも。」

ジャッドがリディアの左腕を魔法銃で撃ち抜く。アタシは顔の血の気が引いて、手先が冷たくなっていくのを感じた。

…だけど、リディアの腕に傷は1つも付かなかった。弾は確かにリディアの腕を通ったはずなのに、まるでそこに何もないかのようにすり抜けていったように見えた。リディアの腕をすり抜けた弾は、確かに床に当たったわ。でも、リディアには当たらなかった。

リディアは以前の通信魔法で、催眠魔法をかけられて寝たふりをしたと言っていた。もしかしてあの子、一部の魔法が通じないのかもしれないわね。

「君ぃ、レティシアって言うんだ。良い名前だねえ!」

ジャッドは上機嫌な口調でレティシアの顎を持ち上げる。

「でも…今のどういうこと?僕、確かに君のこと撃ったよね?なのになんで無傷なの?」

ジャッドがリディアに詰め寄る。リディアは何も知らないふりをしているのか、無言でふるふると首を振っている。

「…本当に分かっていないのか、無知のフリか。…まあいいや。」

ジャッドは銃を持ち替え、ナイフを取り出す。あれは魔法をまとったナイフではなく、普通のナイフ。だから…

「痛っ…!」

ジャッドはためらいもなく、リディアの腕を切りつける。リディアの腕に赤い線ができ、プツプツと血の玉が滲み出てくる。

「ジャッド!!やめなさい!!」
「やっぱり、実体はあるんだよね?幽霊とかじゃないよね?何だろう、君の持っている魔法の力が強すぎるのかなあ。」

ジャッドが持っているナイフをリディアの首に突き立てる。リディアは自分の血が付いたナイフを見て怯えて、ぎゅっと目を閉じている。

「やっぱり試すべきだよね。…レッドフォード伯爵!」
「…何?」

アタシは何もできないまま、呆然と立ち尽くしている。
下手に動いたらリディアに危害が行く。だけど、何もしないわけにはいかない。ジャッドの周りにいる部下はおそらく魔法適性を持っていないから放置しても大丈夫だとは思うけど…。
どうすれば、どうすれば_!

「っあ”ああ!!」
「!?…!!アディ!!」

隙を突かれて、ジャッドに魔法銃で右の二の腕を撃ち抜かれた。撃たれた拍子に、手に持っていたナイフが地面に落ちて刺さる。傷口からは蔦が生え、蔦の棘が傷口を抉る。傷口が熱を帯び、とても熱くて痛い…!!

ちらっと後ろを見ると、辛うじて意識を保っていたレノルドとアランがジャッドの部下たちに手酷く殴られ蹴られているのが見えた。魔法弾による呪いの痛みもあり、2人は気絶してしまったらしい。

(あらアタシ、ピンチかしら?)

思わずアタシは膝をつく。そんなアタシの周りに、先ほどレノルドとアランを気絶させていた、ジャッドの残りの部下たちが群がる。アタシは傷の痛みに耐えるのが精一杯で、汗が伝う歪な顔のまま部下の男たちを睨みつける。

「お前たち~。伯爵を殺さない程度に、惨たらしく、手酷く、陰惨に、痛めつけてあげて~!…でぇ、その姿をぉ、この女の子に見せてあげな?」
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