オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸

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第3章 リディア誘拐編

第31話 リディア誘拐編⑮

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そんな中、廊下の方から複数人の足音がこちらに向かっているのが聞こえる。
まさかジャッドの部下?でもウッドヴィル侯爵が負けるとは考えられない。
じゃああれは_。


「遅れてすまない!こっちは完全に制圧した!誘拐された子供たちも無事保護された!生きてるか、アドルディ少年!」

廊下に繋がるドアから顔を覗かせたのは、ウッドヴィル侯爵と玄関で応戦していた近衛兵の人たちだった。
侯爵側にいた魔導士の近衛兵が、レノルドとアランの呪いに対応する。解呪の魔法をかけられた呪いの蔦は崩れ落ち、灰のように砕け散った。
アタシの呪いの方は、いつの間にかリディアが解呪してくれたらしく締め付けられる痛みも棘が刺さる痛みも感じなくなっていた。

「やはり予想は当たっていたか。こちらの敵の数は、玄関やここまでの道中に比べて人が少なかったな。」

侯爵はアタシとリディアのいる舞台付近に近づき、舞台脇に隠れていたジャッドの首の後ろを殴り、気絶させ回収していく。侯爵の部下たちは、テキパキとジャッドの部下の傷の手当てをしながら拘束していった。

「それにしても、アドルディ少年も手酷くやられたな。ただ…それ以上に、こいつの損傷が激しいが。」
「あはは、ちょっとやりすぎちゃいました!娘に手を出そうとしたのでつい!」

アタシは舌を出してお茶目に侯爵にウィンクで返す。
言ってから後悔したけど、ダンスホールでの一件についてジャッドの部下たちは一部始終を見てるじゃない!事情聴取でアタシじゃなくてリディアがやったってバレるじゃない!
…まあ、その時になったら考えましょう。何とかなるわよ。出血多量と疲労で頭が働いてない気がするけど。

「お前さんは娘の対応してやりな。涙と鼻水で大変なことになってるぞ。」
「ええ、そうですわね。」
「う”えええええん…びずびずびず…。」

アタシは跪き、リディアの顔を見る。あらあらあら涙と鼻水と真っ赤な顔が可愛い美人さんね、なんて思いながらポケットからハンカチを取り出してリディアの顔を拭く。途中でハンカチを奪い取られて、盛大に鼻紙扱いされてしまったわ。暴行を受けたときのアタシの血も付いてしまっていたし、これはもう処分するしかないわね。

「ぐずっ…ひぐ…アディの怪我、治す…。」

リディアはそう言うと、アタシの怪我の箇所に手を当てて治癒魔法を唱えていく。アタシの腕にあった傷口と腫れは見る見るうちに引いていき、健康な肌そのものになっていく。よく見ると、リディアがジャッドに切られた腕の傷は、痕もなく綺麗になくなっていた。どこかのタイミングで、自分で治したのでしょうね。

「アドルディ少年、いや、レッドフォード伯爵!この後、この犯罪組織への取り調べや尋問がある!手負いのところ悪いが、もう少し付き合ってもらうぞ!」

『なるべく早く来い』と言い残すと、侯爵はジャッドの部下とジャッドを連行し、近衛兵の部下たちと共にダンスホールを後にした。アタシはリディアと共に侯爵の後を着いて行こうとしたけど、それをリディアが静止する。

「もう少しで治癒魔法終わるから…少しだけ待って…。」


「アディの怪我、大まかには治ったよ…。貧血とかにまでは対応できていないけど…。」
「充分よ、ありがとう。」

アタシは軽く屈伸をしてみたり、腕をぐるぐる回してみたりする。多少の立ち眩みはあるけど、怪我による痛みは完全になくなったみたい。リディアに感謝ね。
…なんだけど、当のリディアはさっきから下を向いてしょぼくれている。泣き止んではいるけど、どうしたのかしら。

「アディ、あの…。」

リディアが顔を上げて何かを言いかけたけど、また下を向いて口を閉じて俯いてしまった。アタシはやれやれと首を横に振り、しゃがんで一気にリディアを抱き上げる。

「アディ!?怪我は治したけど、まだ万全じゃないから…!」
「少しクラっとするだけよ!アタシを馬鹿にしないでくれる?これくらい平気よ!」

アタシはリディアをしっかり抱っこし、ダンスホールの入口に向かう。ダンスホールの床には誰のか分からない血の痕やガラスの破片、煤や埃などが落ちているけど、アタシは気にせずそれらを踏みしめて歩く。ダンスホールを出た廊下の道で、リディアがアタシにぎゅっと抱きつき、小さく呟く。

「アディありがとう……ごめんなさい……。」

アタシはリディアの感謝と謝罪に対し、笑って返す。

「気にしないの。全てが終わったら、アンタの食べたがっていた苺のタルトを用意してあげるから。」

リディアは悲しそうに笑ってから、アタシの胸に顔を沈めた。リディアのアタシを掴む腕の力が強くなったから、アタシもそれに答えるように強く抱きしめ返した。
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