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第4章 日常編
第33話 アタシの好きな食べ物?
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「アタシの好きな食べ物?基本的にみんな好きよ。」
ウッドヴィル邸から帰宅して1週間ほどが経過したわ。
アタシもリディアもいつもの日常に戻り、元の生活に従事していたわ。
そんなアタシは、セントサザール領の領主としての仕事が山積みになっていて、早急に片付けていたの。リディアは再び本を漁るようになり、アタシの部屋に押しかけて部屋の手前にある長椅子で本を読み耽っているわ。自室で1人で読めばいいのにとは思うけど、仕事の邪魔をしているわけじゃないから追い出しにくくてそのままにしているの。
…と、思っていたら、唐突に沈黙は破られたわ。リディアが『アディの好きな食べ物って何?』と聞いてきたの。そして、冒頭の発言に至る。
「アディって何でもよく食べるんだね…私、アディがグリフォンを捕まえてそのまま食べていても信じると思う。」
「あはは!しばくわよ!」
この小娘、気を抜くととんでもないこと言いやがるわね。
「何もないってことはないじゃん?鳥肉のソテーとか、茹で卵が入ったサラダとか、根野菜のスープとか。」
「それ全部アンタの好物でしょ。」
アタシって基本的に健康と美容のために何でもバランスよく食べる主義なのよね。だから、比較的好き、苦手、みたいな意識はあっても、突出して好きなものとかは無いというか。…ああでも。
「お酒!」
「それ以外で。」
「却下はや!なんでよ!」
「アディのお酒好きはもう知ってる。だから、それ以外で。」
渾身の答えを見つけられたと思ったのに、呆気なく却下されてしまった。いよいよ答えられそうなものが見当たらなくなってきたわね。
ふとアタシは、エミリとのお茶会で食べたケーキの存在を思い出した。王都に店を出している有名パティシエ、チャーリー・ライランズのお店の白ブドウを使ったカスタードタルト。あれはとても美味しかったわね。
「…スイーツ。甘いもの。」
「甘いもの?ケーキとか?」
「そう。ケーキ、シュー菓子、発酵菓子、フィユタージュ系…みんな好き!味も見た目も!」
「…ふーん。」
アタシは両手を組み合わせ、顔の左下に添えて乙女のポーズをする。しかし、リディアは納得がいっていないのか、浮かない顔のまま何か考え事をしている。それに、ふーんって何よ。
「じゃあ、今食べたいスイーツは?」
「これまた唐突ね。」
アタシはリディアの話を半分聞きながら、書類に目を通し、右下にサインをする。書類の差出人は、ベリー農家を取りまとめているバーリー男爵だった。…ベリー類、そういえば最近食べていなかった気がするわね。ウェステト領から帰ってきたときに振舞われたけど、あれリディアだけが食べてアタシは食べていないし。
「…ベリー系のタルト。かしら。」
「ん?」
「今食べたいもの。ラズベリー、ブルーベリー、苺が乗った、ミックスベリータルト。」
バーリー男爵への書類がまとまったから、最終確認をし封筒に入れる。フラップ部分に接着剤を塗り、閉じて封蝋のシールを貼る。昔はきちんと蝋を溶かして封を閉じていたけど、今は市販の封蝋を買って、裏に専用の両面シールを貼って使うのが主流ね。
男爵への書類の作業が終わり、アタシはリディアの方に視線を向ける。リディアは何かをメモしているのか、机の上の紙にペンを走らせている。何なのかしら。
「今みんなの好きな食べ物を聞いているの。次はクリスティ。」
アタシの表情を読み取ったのか、リディアは手短に答える。
と、いうことらしいわ。きっと何かの本に触発されて、1人アンケート活動に奔走しているようね。
「良いけど、お仕事の邪魔だけはしちゃダメよ。」
「分かってるよ。ちゃんと休憩室にいる使用人にしか話しかけていないから。」
本当かしら。アタシが目を細めて見つめてみても、リディアはどこ吹く風な様子ね。
リディアは何かの気が済んだのか、身の回りの整頓を始めた。持ってきていた本を両手に抱え、椅子から降りる。
「じゃあね、アディ。お仕事頑張って~。」
リディアはヨタヨタと歩きながら、本と紙を持ったまま器用にドアを開けて退室していった。本の重みに耐えられずに転んでいないか心配だったけど、廊下から大きな物音はしなかったから大丈夫そうね。
「…さてと、次はどの書類だったかしら。」
アタシの独り言は、静かな仕事部屋に消えていった。
ウッドヴィル邸から帰宅して1週間ほどが経過したわ。
アタシもリディアもいつもの日常に戻り、元の生活に従事していたわ。
そんなアタシは、セントサザール領の領主としての仕事が山積みになっていて、早急に片付けていたの。リディアは再び本を漁るようになり、アタシの部屋に押しかけて部屋の手前にある長椅子で本を読み耽っているわ。自室で1人で読めばいいのにとは思うけど、仕事の邪魔をしているわけじゃないから追い出しにくくてそのままにしているの。
…と、思っていたら、唐突に沈黙は破られたわ。リディアが『アディの好きな食べ物って何?』と聞いてきたの。そして、冒頭の発言に至る。
「アディって何でもよく食べるんだね…私、アディがグリフォンを捕まえてそのまま食べていても信じると思う。」
「あはは!しばくわよ!」
この小娘、気を抜くととんでもないこと言いやがるわね。
「何もないってことはないじゃん?鳥肉のソテーとか、茹で卵が入ったサラダとか、根野菜のスープとか。」
「それ全部アンタの好物でしょ。」
アタシって基本的に健康と美容のために何でもバランスよく食べる主義なのよね。だから、比較的好き、苦手、みたいな意識はあっても、突出して好きなものとかは無いというか。…ああでも。
「お酒!」
「それ以外で。」
「却下はや!なんでよ!」
「アディのお酒好きはもう知ってる。だから、それ以外で。」
渾身の答えを見つけられたと思ったのに、呆気なく却下されてしまった。いよいよ答えられそうなものが見当たらなくなってきたわね。
ふとアタシは、エミリとのお茶会で食べたケーキの存在を思い出した。王都に店を出している有名パティシエ、チャーリー・ライランズのお店の白ブドウを使ったカスタードタルト。あれはとても美味しかったわね。
「…スイーツ。甘いもの。」
「甘いもの?ケーキとか?」
「そう。ケーキ、シュー菓子、発酵菓子、フィユタージュ系…みんな好き!味も見た目も!」
「…ふーん。」
アタシは両手を組み合わせ、顔の左下に添えて乙女のポーズをする。しかし、リディアは納得がいっていないのか、浮かない顔のまま何か考え事をしている。それに、ふーんって何よ。
「じゃあ、今食べたいスイーツは?」
「これまた唐突ね。」
アタシはリディアの話を半分聞きながら、書類に目を通し、右下にサインをする。書類の差出人は、ベリー農家を取りまとめているバーリー男爵だった。…ベリー類、そういえば最近食べていなかった気がするわね。ウェステト領から帰ってきたときに振舞われたけど、あれリディアだけが食べてアタシは食べていないし。
「…ベリー系のタルト。かしら。」
「ん?」
「今食べたいもの。ラズベリー、ブルーベリー、苺が乗った、ミックスベリータルト。」
バーリー男爵への書類がまとまったから、最終確認をし封筒に入れる。フラップ部分に接着剤を塗り、閉じて封蝋のシールを貼る。昔はきちんと蝋を溶かして封を閉じていたけど、今は市販の封蝋を買って、裏に専用の両面シールを貼って使うのが主流ね。
男爵への書類の作業が終わり、アタシはリディアの方に視線を向ける。リディアは何かをメモしているのか、机の上の紙にペンを走らせている。何なのかしら。
「今みんなの好きな食べ物を聞いているの。次はクリスティ。」
アタシの表情を読み取ったのか、リディアは手短に答える。
と、いうことらしいわ。きっと何かの本に触発されて、1人アンケート活動に奔走しているようね。
「良いけど、お仕事の邪魔だけはしちゃダメよ。」
「分かってるよ。ちゃんと休憩室にいる使用人にしか話しかけていないから。」
本当かしら。アタシが目を細めて見つめてみても、リディアはどこ吹く風な様子ね。
リディアは何かの気が済んだのか、身の回りの整頓を始めた。持ってきていた本を両手に抱え、椅子から降りる。
「じゃあね、アディ。お仕事頑張って~。」
リディアはヨタヨタと歩きながら、本と紙を持ったまま器用にドアを開けて退室していった。本の重みに耐えられずに転んでいないか心配だったけど、廊下から大きな物音はしなかったから大丈夫そうね。
「…さてと、次はどの書類だったかしら。」
アタシの独り言は、静かな仕事部屋に消えていった。
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