オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸

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第4章 日常編

第34話 リディアの企み

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Side:リディア

私はアディの部屋を出ると、そそくさと書斎に行く。さっきアディの部屋に持って行った本はカモフラージュで、本当の目的はこっちのメモ用紙。分厚い本の背を揃えて、元の位置に戻していく。

「あった、これだ。」

私は本来の目的の本、『美味しいお菓子の作り方』を手に、書斎を後にした。


_______。

「あ、お嬢様。どうでしたか?」
「聞けたよ!アディの好き…好き?食べたいもの!」

私は自室に戻ると、部屋で待機していたクリスティにメモ用紙を渡す。クリスティはその間、私の部屋を整頓していたらしい。机の上に散らばっていたメイク用品やお菓子が、綺麗さっぱり元の位置に戻されていた。

「旦那様、お酒って言いませんでしたか?」
「言った!クリスティの言う通りだった!」

私とクリスティは、顔を合わせて小さく笑った。クリスティの予想が当たったからだった。



_今から1時間ほど前。

私はクリスティを自室に呼び出し、ある提案をしていた。

「旦那様に何かしてあげたい、ですか。」

私はうんうんと大きく頷き、続きを話した。

私が誘拐された件で、アディにはたくさん迷惑をかけてしまった。アディ自身への怪我や被害もそうだけど、会社や領主としてのお仕事も調整してもらって、そのせいかアディは今仕事に追われている様子。私が代わりに仕事をこなせれば良いんだけど、そうはいかない。アディの仕事はアディにしかできないのだ。

そこで思いついたのは、アディの好きなものを作って食べてもらおうというものだった。それなら私にもできそうだし、アディに形としてお返しとお礼ができる。クリスティとか一部の人には協力してもらう必要があるけど。

「…でも、何もしないのが一番なのかな。」
「お嬢様?」
「先日の件も、私が本が欲しいって言わなきゃ起きなかったのかもって。」

色々言ってから、私は急に不安になった。私が何か行動を起こすから良くないことが起こるのではないかと。クリスティだって、あの時私が町に行きたいって言わなければ、頭を怪我しなくて済んだのかもしれないのにって。
私は何もしないで、部屋に閉じこもっていたほうがいいのかもしれない。聖神殿の一室にいた、聖女リディアのように…。

「お嬢様!」
「え?へぶぅ…。」

下を向いて俯いていた私を、クリスティは大きな声で呼び止めた。顔を上げると、私の顔の横に彼女の手が伸びていて、両頬をムニっと掴まれた。その指先は、ちょっとだけ温かくて痛い。

「あれは全部誘拐犯が悪いんです!被害者であるお嬢様が気に病むことではありません!」
「クリスティ…。」

クリスティは私の頬を掴んだ手を、そのまま頭のほうに持っていく。頭のてっぺんから前髪にかけて撫でられて、彼女の手の重みと体温で少し泣きそうになった。涙は出なかったけど、服の袖でぐしぐしと両目を拭く。

「考えましょう、旦那様のためにできることを。」
「…うん。」

こうして話し合った結果、出た結論が『アディのために料理を作りたい』だった。


________。

「なるほど、ミックスベリーのタルトですか。」
「うん。私、料理したことないんだけど、作れるかな。」

私はさっき取ってきた本を読みながら、クリスティに話しかける。アディに料理を振舞いたいとは言ったものの、私自身は料理の経験が皆無なのだ。茹で卵なら作れそうな自信がある、くらいのものなのに、いきなりタルトなんて作れるのだろうか。自分で提案しておいて、今更不安になってきた。

「もちろんです!あたしがお手伝いしますので、ご安心を!」

クリスティは握りこぶしを作ると、胸を張って自信気に答えてくれた。聞いてみると、クリスティは休みの日にはお菓子を作って、他の住み込みの使用人に振舞うほどらしい。これは頼りがいがあるかも。

「ではまず、材料から書き出していきましょう。」
「うん。お金は私が出すから安心して。アディから貰ったお小遣いを、貯金してるの。」
「まあ、偉いですね!」

私は紙に必要な材料を書いていく。一部の食材は既に家にあるから、料理人の人たちに使わせてもらえるものがあるか聞かなくちゃ。厨房はクリスティの自室を使わせてくれるって。器具も揃っているから大丈夫そう。

「ミックスベリーって言うくらいだから、ラズベリー、ブルーベリー、苺…」
「フィリング…タルトの中身はどうしましょう?」

タルトの中身。そういえば、タルトって生地を焼いて、お皿みたいな生地の中に色々詰め込むんだっけ。お菓子の定番といえば生クリーム?あ、カスタードとか美味しいかも。

「どう…しよう。ベリーにカスタードって変?」
「変じゃありませんよ、お店にはそういうタルトもあります!」
「クリスティ的にはどう思う?昔作ったことのあるタルトで美味しかったのとか。」

クリスティは少し考える素振りを見せると、何かを思い付いたのか、ぱあっと表情を明るくしてこちらに視線を向けた。

「アーモンドクリームのタルトが美味しかったです!」
「アーモンドクリーム?」
「カスタードと作り方はあまり変わらないのですが、小麦粉の代わりにアーモンドパウダーを使用するんです。」

(うむむ、聞いているだけでお腹が空いてくる。)

アディの食べたいものを聞きだすまでは良かったけど、細かい好みや要望までは聞けなかった。本当はアーモンド嫌いって言われたらどうしよう。でも、グリフォンをそのまま生で食べそうなアディだから、多分大丈夫だよね。

「…私の心のアディが、どういうことよ!って言ってる…。」
「え?」
「…ううん、こっちの話し。」


ああでもないこうでもないと話を重ねていたら、私とクリスティで考え方がすれ違っていることに気が付いた。
私は火を通さず、そのままフルーツを盛り付けるタイプのタルトを想像していたのに対して、クリスティは盛り付けた後にオーブンで焼いて、粉砂糖を振りかけるタルトを想像していたらしい。早めに気が付いて良かった。
クリスティは私の考えていた方法で作ろうと言ってくれたけど、加熱されたベリーの酸味と風味を想像したら、クリスティの言う作り方で作りたくなってしまった。

遠慮気味なクリスティを押し切るように、私は彼女の案を採用した。
決して自分が食べたいからではない。


「…こんな感じで良いかな?」
「…そうですね、良いと思います。」


クリスティと書いたメモを見返して、最終確認をする。
決行は明後日、ご武運を!なんてね。
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