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第4章 日常編
第43話 誤解を解くじゃないけど。
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アタシたちは遅めの昼食を終えた後、仕立て屋にケイティを送り届けて帰路についていた。
お昼ご飯を食べていた時から、リディアに大きな変化は見られない。一見いつも通りに見えるけど、どこか元気が無いように感じるわね。
あまり踏み込みすぎるのも良くないけど、放置するわけにもいかないじゃない。慎重に言葉を選んで話さなきゃね。
「リディア。」
「……ん?」
移動車の中、窓の外を見たままリディアが口だけで反応を示す。
今日一日”レティシア・レッドフォード”として振舞っていたからか、リディアの反応が少し遅れた。レティシアとリディアの切り替えはできるけど、今でも慣れていないらしい。
「今日の仕立て屋はどうだった?」
アタシは無難なところから攻めていくことにした。
窓の外を眺めていたリディアはゆっくりとこちらへ振り向き、口を開いた。
「楽しかった!可愛いお洋服、届くの楽しみ。」
リディアはぱあっと表情を明るくして、目を輝かせながら感情を露わにした。服の仕立て自体は楽しめたみたいね。
「楽しめたのなら良かったわ。ケイティも練習に付き合ってくれて感謝していたし。」
「ケイティ…うん。そうだね。」
ケイティの名前を出した途端、リディアの声量が小さくなった。やはりケイティ関係で何か思うことがあるようね。
影で悪口を言われた?いや、ケイティはそんな子じゃないし、第一リディアのいるところには絶対にアタシが付いていたから、そんなことできるタイミングはない。
アタシの学生時代の痴態を聞かされて幻滅した?いや、もう既に出会った初日にリディア自身に過去を暴露されて尊厳は消え去ったわ。今更知られて困ることはないはず、はず…。
どうしたものかと考えていたら、先に口を開いたのはリディアだった。
「私、ケイティが羨ましかったの。」
「羨ましい?」
「うん。私の知らないアディを沢山知っていて。」
リディアは姿勢を正しながら、ぽつぽつと胸の内を語っていく。
「いつの間にか、自分がアディに一番近いんだって勘違いをしていたの。そんなはずないのにね。」
運転をしているから凝視はできないけど、ちらっとリディアの方を見てみた。さっきまでの元気のなさを感じさせない、どこか納得して落ち着き払った顔つきになっていたわ。
「私の力は過去を視ることができる。でも、実際にその時を過ごすのと、切り取られた過去を視るのは全くの別物。」
『当たり前のことなのにね。』と言いながら、リディアは再び車窓の外に視線を移動させた。
(おおよそ、アタシの予想は正解だったのね。)
_自分が一番近しい存在だと思っていた人が、他の人と親しくしているが故の嫉妬。
「要するに、嫉妬してたのね。アタシと過去を過ごしたケイティに。」
「…そう。」
リディアはすんなりと自分の感情を認めた。というより、今日一日自分が抱えていた感情の答え合わせをしているように見える。
「でもまあ、偉かったと思うわよ。ケイティに負の感情をぶつけるようなことはしていなかったし。アタシ視点、元気がないのは分かっていたけどね。」
「…今度会ったら、謝る。私、嫌な態度だったかもしれないし。」
「気にしなくていいわよ。親しいアタシがじっくり見て、少し違和感があるって分かる程度だったから。」
初対面のケイティ的には、リディアの態度は”そういう性格の子”くらいの認識にしかならないから問題はないと思う。リディアは納得をしたのか、それ以上は何も言わなかった。
「まあ、友達って言っても異性であることに変わりないから、距離感には気を付けているけどね。」
そうアタシが言った途端、リディアの肩がびくっと跳ねあがった。アタシは気が付かないふりをして、そのまま言葉を続ける。
「ケイティは旦那さんも子供もいるからねえ。既婚者の異性の友達との距離感は大事よ。」
「………え?そうなの?」
リディアは目を見開いて、口をパクパクさせたまま固まってしまった。全然予想していなかったって顔ね。
「ええ、そうよ。あの子指輪とかしない主義だから、見た目では分からないけどね。」
「そうなんだ、……そう、なんだ。」
どこか安堵のような声色を漏らしながら、リディアは座席のシートに沈んでいった。屋敷に着くまで仮眠を取ろうとしているのか、ポジションを求めてシートベルトと座席の間でモソモソと動いている。
「…馬鹿みたい。1人で一喜一憂して。」
リディアが何か言った気がしたけど、声が小さすぎてアタシの耳に届くことはなかった。
お昼ご飯を食べていた時から、リディアに大きな変化は見られない。一見いつも通りに見えるけど、どこか元気が無いように感じるわね。
あまり踏み込みすぎるのも良くないけど、放置するわけにもいかないじゃない。慎重に言葉を選んで話さなきゃね。
「リディア。」
「……ん?」
移動車の中、窓の外を見たままリディアが口だけで反応を示す。
今日一日”レティシア・レッドフォード”として振舞っていたからか、リディアの反応が少し遅れた。レティシアとリディアの切り替えはできるけど、今でも慣れていないらしい。
「今日の仕立て屋はどうだった?」
アタシは無難なところから攻めていくことにした。
窓の外を眺めていたリディアはゆっくりとこちらへ振り向き、口を開いた。
「楽しかった!可愛いお洋服、届くの楽しみ。」
リディアはぱあっと表情を明るくして、目を輝かせながら感情を露わにした。服の仕立て自体は楽しめたみたいね。
「楽しめたのなら良かったわ。ケイティも練習に付き合ってくれて感謝していたし。」
「ケイティ…うん。そうだね。」
ケイティの名前を出した途端、リディアの声量が小さくなった。やはりケイティ関係で何か思うことがあるようね。
影で悪口を言われた?いや、ケイティはそんな子じゃないし、第一リディアのいるところには絶対にアタシが付いていたから、そんなことできるタイミングはない。
アタシの学生時代の痴態を聞かされて幻滅した?いや、もう既に出会った初日にリディア自身に過去を暴露されて尊厳は消え去ったわ。今更知られて困ることはないはず、はず…。
どうしたものかと考えていたら、先に口を開いたのはリディアだった。
「私、ケイティが羨ましかったの。」
「羨ましい?」
「うん。私の知らないアディを沢山知っていて。」
リディアは姿勢を正しながら、ぽつぽつと胸の内を語っていく。
「いつの間にか、自分がアディに一番近いんだって勘違いをしていたの。そんなはずないのにね。」
運転をしているから凝視はできないけど、ちらっとリディアの方を見てみた。さっきまでの元気のなさを感じさせない、どこか納得して落ち着き払った顔つきになっていたわ。
「私の力は過去を視ることができる。でも、実際にその時を過ごすのと、切り取られた過去を視るのは全くの別物。」
『当たり前のことなのにね。』と言いながら、リディアは再び車窓の外に視線を移動させた。
(おおよそ、アタシの予想は正解だったのね。)
_自分が一番近しい存在だと思っていた人が、他の人と親しくしているが故の嫉妬。
「要するに、嫉妬してたのね。アタシと過去を過ごしたケイティに。」
「…そう。」
リディアはすんなりと自分の感情を認めた。というより、今日一日自分が抱えていた感情の答え合わせをしているように見える。
「でもまあ、偉かったと思うわよ。ケイティに負の感情をぶつけるようなことはしていなかったし。アタシ視点、元気がないのは分かっていたけどね。」
「…今度会ったら、謝る。私、嫌な態度だったかもしれないし。」
「気にしなくていいわよ。親しいアタシがじっくり見て、少し違和感があるって分かる程度だったから。」
初対面のケイティ的には、リディアの態度は”そういう性格の子”くらいの認識にしかならないから問題はないと思う。リディアは納得をしたのか、それ以上は何も言わなかった。
「まあ、友達って言っても異性であることに変わりないから、距離感には気を付けているけどね。」
そうアタシが言った途端、リディアの肩がびくっと跳ねあがった。アタシは気が付かないふりをして、そのまま言葉を続ける。
「ケイティは旦那さんも子供もいるからねえ。既婚者の異性の友達との距離感は大事よ。」
「………え?そうなの?」
リディアは目を見開いて、口をパクパクさせたまま固まってしまった。全然予想していなかったって顔ね。
「ええ、そうよ。あの子指輪とかしない主義だから、見た目では分からないけどね。」
「そうなんだ、……そう、なんだ。」
どこか安堵のような声色を漏らしながら、リディアは座席のシートに沈んでいった。屋敷に着くまで仮眠を取ろうとしているのか、ポジションを求めてシートベルトと座席の間でモソモソと動いている。
「…馬鹿みたい。1人で一喜一憂して。」
リディアが何か言った気がしたけど、声が小さすぎてアタシの耳に届くことはなかった。
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