観客席のモブは、恋をする予定じゃなかった

しろうさぎ

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魔法

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(……そういえば)

前世を思い出し、転生していると気付いてから既に半年以上経過している。こういうのって、転生後に何かしらイベントが発生したり、特別な力に目覚めたり、主人公の人生が大きく変わっていくのが王道じゃない?だから、転生に気づいて最初の数日は何か起こるんじゃないかとドキドキしていたのに、ルカとの楽しい日々ですっかり忘れていた。

ちなみに、この世界には魔法がある。

魔法使いという専門職も存在していて、
王都では、空を飛んだり、炎を自在に操ったりする人もいる――らしい。らしい…というのは、この町から一度も出たことのない私は、そんな派手な魔法を実際に見たことはないから。

私が知っている魔法は、もっとずっと身近なもので、夜になると自然に灯る明かりや、濡れた髪を温風で乾かしたり、冷たい水を温かくしたりと、暮らしの中に溶け込んだ、ごく小さなものばかりだった。

誰かに見せびらかすためじゃなく、戦うためでもなく、毎日を少しだけ楽にするための魔法。それは魔法というよりも、前世でいう生活家電みたいな便利さで、前世の記憶が戻ってからも(わ!魔法すごい!)みたいな感じにはならず、むしろ生活水準が変わらなくて良かったと思うくらいだった。

この世界では、魔法の力量はとてもプライベートなもので、誰がどんな魔法を使えるのか、どれほどの力を持っているのか、それを他人に聞くことは失礼にあたる。

魔法使いとして生きる者、王都で働く専門職や、軍や研究に関わる人間なら話は別だけれど、普通に暮らす人たちにとって、魔法はあくまで生活の一部だ。「できること」が重要なのであって、「どこまでできるか」を見せ合う必要はない。

詳しいことを知るのは、家族か、それから――本当に心を許した相手だけ。恋人や、将来を共にすると決めた人。そういう存在にだけ、少しずつ打ち明けていくものなのだ。

私も一応、魔法は使える。
でも、それは物語のヒロインみたいな力じゃない。
聖女みたいに重症者を癒す奇跡を起こせる訳じゃないし、光に選ばれて使命を背負うことも、世界を救うこともない。

できるのはせいぜい生活を少しだけ楽にして、日常をほんの少しだけ穏やかにする程度のこと。傷を癒す力だって、薔薇の棘に刺さった指先の血を止められるくらい。

(……やっぱり、違うよね)

前世で知っていた乙女ゲームや物語を思い返してみても、
自分に当てはまる役どころが見つからなかった。

ヒロインなら、もっと分かりやすく特別な力を持っている。
聖女なら、周囲が放っておかない。
悪役令嬢にしては、家柄も立場も足りない。

じゃあ、私は何?と考えたとき

――答えは、きっと……モブ、だよね。

ゲームの中でも、名前すら表示されない。背景に溶け込んで、気づかれない存在。そう考えると、不思議と納得できた。
たとえこの世界が乙女ゲームだったとしても、私は物語の外側で観客として、静かに、普通に、生きているだけ。

(……ルカは…ゲームのキャラだったのかな…?)

乙女ゲームにはよくある設定。
正体不明で、途中退場して、後半で再登場するタイプ。
実際、「ルカ」という名前のキャラクターはたくさんいる。

けれども、ルカの容姿に重なるキャラクターは思い当たらなかった。
外見も、乙女ゲームっぽいとは言い難い。

(じゃあ、やっぱり私もルカも、ゲームのストーリーとは無関係のモブってこと?)

今のところこの世界で、一番“物語っぽい”のは、美男美女の仲のいい両親だった。平民なのに浮いているほどの美しさ。
両親の名前のカップリングがいるゲームは思い当たらないけど、私が知らないだけかもしれない。

乙女ゲームのヒロインが結婚して、子どもまでいる世界…もしかして、ハッピーエンドの後の世界ってこと?

「……分からない」

小さく呟く。
答えが出ないまま、時間だけが流れていく。
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