【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I

文字の大きさ
6 / 151
剣聖の娘、王都に行く

続 手合わせ

しおりを挟む

 ウォーレンの合図によって開始されたエステルとレオンの手合せ。

 その決着は、ほんの一瞬の出来事であった。






 開始と同時に飛び出して先制攻撃を仕掛けたのはレオン。
 彼が狙ったのは剣を持つエステルの手元。
 安全のため、分厚い革製の篭手をはめている。

 いかに剣聖の娘で実力もそれなりにあると聞いてはいても、婦女子に剣を向けるのには抵抗がある。
 なので早々に剣を弾き飛ばしてしまおうと考えたのだ。


 だが……!


 ギィンッッ!!!


 勢いよく弾かれた長剣がくるくると回転しながら宙を舞う。
 そして訓練場の地面に転がった。


「そ、そこまでっ!!勝者エステル!!」


 ウォーレンがエステルの勝利を告げた。

 しかし……周囲で観戦していた騎士たちは、その瞬間に一体何が起きたのか直ぐには理解が追いつかない。
 暫し静寂が訪れる。

 それを破ったのは対戦の当事者であるレオンだ。


「な、何が起きたんだ……?」


 剣を弾き飛ばそうとして、逆に自分の剣が弾かれたのは分かる。
 それを成したのがエステルであることも。

 だが……彼女は今も、最初の構えのまま一歩も動いていないように見える。
 どのようにして自分の剣が弾かれたのか、全く見えなかったのだ。


「おい、ジスタル。何がどうなったんだ?」

「何だ、見えなかったのか?普通に弾き返しただけだぞ」

 デニスの問にジスタルは事も無げに返す。

 だが、彼の言う通りだ。
 エステルがレオンの剣を弾き返した。
 言葉にすればそれだけの事。

 しかし、その速度は常人では視認すら困難なほど。

 いや、ここに集うのは戦いの専門家である騎士たちだ。
 その彼らの目を持ってしても動きを捉えることは出来なかったのだ。 




「も、もう一度!!もう一度お願いします!!」


 確かに油断はあった。
 しかし、剣聖の娘であるという触れ込みと、少女の見た目によらず重い剣を軽々と素振りする様子から、そこまで侮っていたわけではない。

 だが、結果はこの通り。
 自分の想像を遥かに超える実力者であることを、レオンは認めざるを得なかった。

 それでもこのまま引き下がるのは、彼の騎士としてのプライドが許さない。


「実戦だったら、やり直しなんて利かないがな……」

「いいよ、お父さん。私ももう少し手合わせしたい!」

「まあ、お前がそう言うなら構わないが」

「うん!レオンさん、もう一度お願いします!」

「ああ、ありがとう」

 レオンは礼を言い、弾き飛ばされた剣を拾い上げて再び開始位置に立つ。



(胸を借りる……などと言うつもりはない。例え実力差があろうと、勝利への意志は捨てない)

 静かに闘志を燃やすレオン。
 その瞳には決死の覚悟が宿っているのが、誰の目にも見て取れた。


(ほう……中々どうして、ホネがあるじゃないか。たかが手合わせレベルの闘気ではないぞ。これは、見所があるヤツだな) 

 心の中で、そう評するジスタル。
 かつて剣聖と呼ばれた彼が実力を認める者は、そう多くはない。


 先程とは比べ物にならない闘気を察知したエステルも、今度は知っ先をレオンの喉元に定め正眼の構えを取った。

 ギャラリーも張り詰めた空気に緊張感を高め、固唾を飲んで見守る。


 そして……!


「はじめっ!!!」

 再びウォーレンが戦闘開始を告げた!


 と同時に、レオンが猛スピードでエステルに向かって間合いを詰める!!


「はぁーーーーーっっっ!!!」

 そして裂帛の気合で斬撃を繰り出す!!

 手加減一切なしの渾身の袈裟懸けの一撃!


 模擬剣と言えど、それは直撃すれば命に関わるような大怪我を負いかねないもの。
 相手をか弱き少女ではなく、自分よりも強い戦士であると認めたが故の全力の攻撃だった。

 今度は弾かれても剣を取り落とさないように、しっかり両手で柄を握り締める。


 ギィンッ!!!!


 先程と同じように、エステルの一撃がレオンの剣を強く弾く!!
 しかし、レオンは今度は剣を握り込んで離さない!!


(!!やはり見えない!!だが……まだまだ!!)


「でりゃあぁーーーーっっっ!!!!!」


 弾かれた剣を力で無理やり引き戻しながら、そのままエステルの胴を薙ぎ払うように叩き込む!!


 だが……!


 初撃と変わらぬ威力で振るわれた横薙ぎの斬撃は空を切った!


「なっ!!?」


 エステルを切り払う……と思った瞬間、彼の目には剣が彼女の胴をすり抜けたように見えた。

 ほんの一瞬だけ呆然となりかけたが、すぐさま意識を切り替えようとする。


 しかし……













「……参りました」

 気が付けば、いつの間にかエステルの剣の切っ先が、レオンの喉元にピタリと突き付けられていた。
 ほんの一瞬の意識の切れ間さえも、彼女は見逃すことは無かったのだ。


「そこまでっ!!勝者、エステル!!」


 ウォーレンが戦闘終了を告げると、ギャラリー達から大きな歓声が上がる。

 攻防はほんの数合。
 しかし、滅多にお目にかかれない高度な戦いに、誰もが二人の健闘を称えるのだった。









 















「エステル嬢、完敗です。手合わせしていただき、ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました!!」

 手合わせが終わったあと、二人は歩み寄り握手を交わす。

 完全な敗北だったが、レオンの顔は晴れやかなものだった。
 結果はどうあれ、強者に全力で挑んで納得ができたのだろう。


 そしてエステルはいつも通り、ニコニコと屈託のない笑顔で感謝の言葉を述べる。

 年端もいかない少女が現職の騎士を打ち破るなど、遺恨を残しても不思議ではないが……
 彼女の天真爛漫で不思議な魅力がその場の空気を和らげているのかもしれない。

 いや、むしろ……我も我もと手合わせを望む声が上がっている。

 すっかり騎士団員たちを虜にしたようだ。



「どうだ?これで納得いったか、デニスよ」

「おぉ、十分だ。良いものを見させてもらったぞ」

 ジスタルに聞かれたデニスも満足した表情だ。
 そして、ジスタルは更にレオンに向き直り言う。


「レオンと言ったか。お前さんも中々見所があるな。まぁ、うちの娘はちょっとレベルがおかしいが……俺くらいは十分超えられると思うぞ」

「ほ、本当ですか!?」

「無論、厳しい修練を絶やすことなく精進すればの話だ。まぁ、お前さんはストイックそうだし、大丈夫だろ」

 剣聖と名高いジスタルにそう評されて、レオンは喜びを隠しきれない様子。
 年相応の無邪気な笑顔を浮かべている。


 それを聞いて黙ってられないのは、ギャラリーとなっていた他の騎士たちだ。
 エステルへの手合せを所望する以外に、ジスタルに教えを請う者が殺到する。

 あまりの熱意と勢いに、流石に断りきれない二人。


 そして、その場で剣術指南が始まるのだった。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...