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剣聖の娘、王都に行く
路地裏
しおりを挟む翌朝。
「ふわぁ~……おはよ、クレイ。……なんで私のベッドで寝てるの?」
「……それは俺のセリフだ。お前のベッドは向こうだぞ」
「んぁ?……あ~、ホントだ~。そう言えば昨日の夜はちょっと寒かったからね~」
「……」
エステルは普段は妹弟と一緒に寝ている。
そして季節はまだまだ肌寒い。
人肌恋しくなるのは仕方がない事なのだ。
だが、いくら女として意識してないなどと言っても、クレイだって年頃の少年である。
流石に同年代の女の子と同衾すれば冷静ではいられない。
エステルは中身は少々アレだが、見た目は美少女であるから尚更だ。
そして寝起きのせいで寝間着が着崩れて妙に艶かしい。
「ん……?何か硬いモノが……」
「だぁ~っっ!!!早く出てけっっ!!!」
それは生理現象だ……と、クレイは自分に言い聞かせるのだった。
そんな、朝のドタバタはあったものの……
エステルとクレイは予定通り、騎士登用試験を受けるための手続きを行うため、王都騎士団の詰所の一つへと向かっていた。
「ほら、早くいこ~よ!!こっちこっち!!」
「おい!勝手に行くんじゃない!!お前、場所わかってんのか!?」
「方角はあっちでしょ?テキトーに行けば着くでしょ」
「バカ!!こんな入り組んだ路地を適当に進んだら……」
「迷ったなう」
さもありなん。
「言わんこっちゃない……とにかく一旦戻るぞ」
「ん……?……!?クレイ、あっちの方から誰かの悲鳴が聞こえる」
「聞けよ。……悲鳴?俺には何も聞こえなかったが……まぁ、お前が言うなら間違いないか」
エステル・イヤーは数百メートル先で落ちた針の音も聞き分ける。
……本当にこの娘は人間なのだろうか?
「だが、揉め事に首を突っ込むんじゃないぞ」
今にも飛び出していきそうなエステルに対して、クレイはそう釘を刺す。
しかし。
「でもクレイ、私達は騎士を目指してるんだよ?正義と秩序のために戦うのが騎士でしょ!!」
「……お前の口から秩序なんて言葉が飛び出すことこそ驚きだが。でも、まぁ……正論ではある。仕方ない、行くぞ!!」
「うん!!!」
そして二人は、悲鳴が聞こえたという方に向かって路地を駆け出した。
二人が駆けつけた細い路地の先。
そこは行き止まりになっていて、若い男女が数人のごろつきに追い詰められているところだった。
「へへへ……もう逃げらんねぇぞ」
「痛い目見たくないだろ?そっちの嬢ちゃんを置いてけば見逃してやるぜ?」
「おっと、有り金も忘れずに置いてけよ!!」
「「「ギャハハハッッ!!!」」」
典型的なゴロツキだ。
この辺りはスラムというほどではないが、治安が良い場所とも言い難い。
裏路地に入ればこのような手合いが問題を起こす事など日常茶飯事だ。
「……まったく。揉め事は出来るだけ避けたかったんだが……」
追い詰められた男がそう言って、ゴロツキたちと戦う姿勢を見せようとした時だった。
「まてまてまてぇーいっっ!!」
路地裏に快活な少女の声が響き渡る!!
「あん?何だぁ?」
「何だ?ガキども……って、メスの方は随分と上玉じゃねえか」
「はは!!お楽しみが増えたな!!」
「黙れ悪党ども!!こんな朝っぱらから悪事を働くなど……例え天が許しても、この正義の騎士 (仮)エステルが許さないよ!!」
「まだ騎士じゃないだろ……」
クレイが小声でツッコミを入れるが、エステル・イヤーは都合の悪いことは聞こえない!!
「へへ……嬢ちゃん、頭湧いてんのかぁ?」
「男はさっさとボコって身ぐるみ剥いじまおうぜ!!女は組み伏せてお楽しみだ!!」
そしてゴロツキたちはエステルたちに襲いかかる!!
「おい、剣は使うなよ。殺してしまうと厄介だ」
「こんなやつらに剣なんて必要ないよ!!うりゃあ!!」
エステルは手近に迫っていたゴロツキの一人に対し、一瞬で間合いを詰めて容赦ないボディーブローを放つ!!
ドゴォッッ!!!
「うがあっ!!?」
目にも止まらぬスピードで迫ったエステルを視認することすら出来ずに、まともに攻撃を受けたゴロツキは盛大に吹っ飛んで壁に叩きつけられる。
そして白目をむいて泡を吹いて気を失ってしまった。
……死んではいないはず。
「あ、こら!!手加減しろって!!」
ガッ!!
「うぐぁっ!?」
自分もゴロツキの一人を迎え討ちながら、エステルに注意するクレイ。
彼の攻撃を受けた男は悶絶して蹲った。
人数の不利をものともせずに、エステルたちは次々とゴロツキどもを叩き伏せ……
さほど時間もかからずに、悪漢たちは全員が地を這う事になるのだった。
「よし!!成敗!!」
「はぁ、やれやれ……」
高らかに勝利宣言するエステルと、早々に面倒事に巻き込まれたことを嘆いて溜め息をつくクレイ。
そして、路地奥に追い詰められていた男女は……
「すまない、助かった」
「ありがとうございます!」
改めて助けた男女を見てみると……
二人とも黒髪黒目で非常に整った顔立ち……有り体に言えば美男美女である。
よく似た容姿であることから、恐らくは兄妹であろうか。
男はエステルたちより少し年上……年の頃は十代後半から二十代前半くらいに見える。
女の方はエステルたちと同年代くらいの少女だ。
あんなことがあったにも関わらず、エステルたちをキラキラした目で興味深そうに見ている。
(こいつは……格好は平民の服だが……お忍びの貴族とかか?)
クレイは彼らの隠しきれない気品を感じ取ったが、これ以上の厄介事は御免被りたいと思って、敢えて触れなかった。
「い~え~!お気になさらず!……でも、もしかして助ける必要はなかったかな?」
「……何故だ?」
男の目が鋭くなる。
「お兄さん、凄く強いでしょう?私の勘がそう言ってる。よく当たるんだよ!!」
エステル・シックスセンスは的中率約2割だ。
とんだ大ホラ吹きであるが、彼女にその自覚はない。
なぜなら、外れた時は綺麗サッパリ忘れるから。
もちろん、女の勘など全く持ち合わせていない。
しかし、こと相手の強さに関してだけは間違いない事をクレイは知っている。
だが、彼女が誰かを強いと言う事は滅多にない事なので驚きをあらわにしている。
「……確かに、こいつ等程度に遅れは取らないが。助けてもらったのに変わりはない。何か礼がしたいところだが……」
「良いんですよ!!私達は正義の騎士!!困ってる人がいれば助けるのが使命なんです!!」
何やら変なスイッチが入ったようだ。
「まあ……騎士様だったんですか?」
「あ~、いえ……そうではないんですけど……。あ、そうだ。礼……と言うわけではないのですが、私達……道に迷ってしまって……出来れば道を教えてもらえませんか?」
助けた少女が騎士と聞いて更に目を輝かせるが、クレイはバツが悪そうに誤魔化し、当初の目的を果たそうとする。
「俺たちもこの辺りに詳しいわけじゃないが、知ってる場所なら……」
「助かります。実は……」
そうして、クレイは自分たちが騎士団詰め所に向かっていることを説明する。
「あぁ、それなら直ぐそこだ。案内しよう。……それに、こいつらも引き渡す必要があるしな」
ということで、男の案内で騎士団詰め所に向かうことになるのだった。
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