【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I

文字の大きさ
52 / 151
剣聖の娘、裏組織と戦う!

誤解

しおりを挟む

 エステルが宿でクレイと話をしている頃。


 国王アルドは朝早くから執務室で書類と格闘していた。
 今夜もまたエステルに会いに行こうと思い、なるべく早く仕事を片付けたいと思ったからだ。

 熱めのお茶を淹れてもらい、時々それを口に含んで眠気を覚ましながら決裁を進めていく。



 コンコン……

「失礼します」


 そこへ宰相フレイがやって来る。
 彼は入室するなり、挨拶もそこそこに切り出した。


「陛下……」

「ん?……どうした、そんな険しい顔をして?」

 まあ、フレイのそれは割とよく見せる表情なので、そう聞きながらもアルドはそれほど気にせずに、書類を眺めながらカップを口に運ぶ。


「陛下……あまり関心しませんね」

「?……何がだ?後宮の中庭のことなら……」

「それもそうですが……。私が言いたいのは、その……これまでの事を思えば、女性に積極的になるのは良い事だと思います」

「……?」

「しかし、数日前に出会ったばかりのエステル嬢に手を付けるのは、いくらなんでも早急すぎるのではないでしょうか」

「ブフーーーッ!?」


 少し遠慮がちに……しかしはっきり言われた言葉に、思わず口に含んだお茶を盛大に噴くアルド。


「な、な……何を言ってるんだ!?」

「……違うのですか?」

「違うわ!!……一体どこからの情報なんだ、それは……」

「エステル嬢の世話人が……エステル嬢が、それはそれは嬉しそうに『陛下と一戦交えた』と言っていた……と。ドリスから報告がありました」

「あ~……」

 その報告にアルドは額に手を当てて天を仰いだ。
 どうやら大きな誤解が生じているようだ……と。


「……それは言葉通りの意味だ。隠語ではない」

「そうですか。まぁ、そんな事だろうとは思ってました」

「…………」

 何だか言外に『ヘタレ』と言われた気がしてアルドは複雑そうな表情だ。



「それはともかく……彼女にちゃんと事情は説明されたのですか?」

 フレイは更に聞くが、こちらの方が本題だろう。


「とりあえず、俺が画策して後宮審査会を受けさせたことは話したが……」

「……何だか歯切れが悪いですね?」

「ん、まぁな……。実は……」


 そうして、アルドはフレイに昨夜の経緯を説明する。
 あのエステルの盛大な勘違いと、二人で手合わせしたことを。



「……はあ。『極秘任務』……ですか」

「すまん。俺には否定できなかったよ。ああも嬉しそうにされるとな……」

「……別にそれはよろしいのでは。実際のところ、後宮の警護体制については課題となってましたし。エステル嬢ほどの達人がいてくれればこちらとしても助かりますね」

「そうだな。近々、騎士団から女性騎士を選抜して……彼女に引き合わせるか。……本当は普通に後宮に迎えたかったんだが」

「良いではないですか。むしろお互いを理解するための時間ができたと思えば良いのですよ」

「そう……だな。その通りだ」

 フレイの言葉を受け、自分に言い聞かせるように呟くアルド。

 そして、エステルの妄想の産物に過ぎなかった『極秘任務』であるが……どうやら本当に体制が組まれる事になるようだ。
 嘘から出たまこととはこの事だろう。





「そう言えば……後宮入り候補の中にはレジーナ様もいらっしゃる、とか……」

「ああ。ミレー侯爵家令嬢とともに、エステルとも大分打ち解けているように見えたな」

「……エステル嬢が彼らの娘であることは?」

「知らないはず……とは思うが。……何だ?不安なのか?」

「いえ、そういうわけではないのですが……少々、因縁めいたものを感じたので」

 フレイはそう言うが、その表情には隠しきれない不安の色が僅かに見えた。


「因縁……か。確かにそうかもしれん。だが、前も言った通りもう既に終わった事。彼女たちには関係ない。そうだろう?」

「……ええ、そうですね」

 それきり二人は押し黙る。
 それは内心で自らに言い聞かせているようにも見えた。

 だが……一度感じてしまった不安の火種は、このあとも彼らの心の奥底で燻り続ける事になる。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...